第9話:遺跡での死闘と次元渡り開始!?


 石造りの扉を抜けると、古びた階段がまっすぐ伸びていた。


 怪しげな紋章が壁に刻まれていて

 “ここは普通の場所じゃない”という雰囲気だけはひしひしと伝わってくる。


「うわあ……真っ暗ですね」


 青年が小さな松明を灯して先導してくれる。


 俺の後ろには、勇者の家系を名乗るあの少女がついてきている。


 体が弱っているはずなのに

「ここで引き返すわけにはいかない」と言い張って同行してくれたのだ。


「でも、本当にここに“次元渡り”の方法があるんだよな?」

「はい、伝承によれば、ここで儀式をすることで……。

ただ、細かい手順は定かじゃなくて……」


 少女は困ったように視線を落とす。


「まあ、来てみた以上、前に進むしかないだろう」


 俺は意気込むが、胸中には不安しかない。


 さっさと儀式を見つけて終わらせたいところだが

 こういう遺跡には“お約束の罠やモンスター”が出ると相場が決まってる。



◇◇◇



 不安は的中した。


 階段を下った先で、あからさまに凶暴そうな魔物が待ち構えていたからだ。


 鋭い爪を持つ獣型モンスターが、唸り声を上げながらこちらを睨んでいる。


 しかも数が多い。


「くっ……俺が前に出る! 2人は下がって!」


 危険を感じた俺は右手を握り、すぐに“謎の力”を発動させる。


 しかし、この暗い空間では動きが制限されるため、やや不利だ。


 青年が慌てて叫ぶ。


「お兄さん、どうします? こんなに敵が……!」

「何とか道を開けるしかないだろ。頼むから皆は巻き込まれないで!」


 俺は鋭い衝撃波を繰り出し、先頭の獣型モンスターを弾き飛ばした。


 続いて、左手で冷却の力を繰り出し、火炎系のブレスをかき消す。

 どうやら、複数のモンスターがブレス系の攻撃を持っているらしい。


 油断ならない。


「くそ……数が多い!」


 それでも、今までの経験から敵の攻撃を次々と見切って防御し

 僅かな隙を突いて反撃する。


 周囲の怪物が悲鳴を上げながら崩れ落ちていく。


 俺はヒーヒー言いながらなんとか耐えていた。


「すごい……やっぱり“勇者の力”ね」


  少女が小声で言うのを耳にした。

 この戦闘、見てる分には派手に見えるんだろうが、本人は必死だ。


 幸い、モンスターは徐々に数を減らし

 最後の一体を仕留めたときには、そのまま道が開けた。


「よし……なんとかなった」


 全身が汗と息切れでぐちゃぐちゃだが、ひとまず前に進める。


 青年が「お兄さん、やっぱすごいです!」と瞳を輝かせている。

 少女も「お疲れさま……大丈夫?」と心配そうに寄ってきた。


「まあ、ギリギリだけどな……行こう。儀式の場所を探さないと」



◇◇◇



 さらに奥へ進むと、広めの空間に出た。


 中心部には円形の魔法陣が描かれ、淡い光を放っている。


「これだ……! “次元渡りの儀式”って

 きっとこの魔法陣を使うんじゃないかな」


 少女が確信めいた声をあげる。


 何か文字らしきものも刻まれているが、古代語なのか読めない。


 ただ、なんとなく“この場で念を込めばゲートが開く”

 みたいな仕組みだと感じる。


 俺の体の中で“謎の力”が小さく共鳴している気がしたからだ。


「試してみるしかないな」


 心臓が高鳴る。


 もしこれで地球に戻れるなら、念願の再会ができるかもしれない。


 だけど、同時に町の人や青年、そしてこの少女とも別れることになるのか。

 それを考えると少し胸がチクリと痛む。


 青年は複雑そうに顔をゆがめている。


「お兄さん、やっぱり行っちゃうんですね……」


「悪い……でも、いつかまた来るかも。そしたらまたよろしくな」


 そう告げると、青年は笑顔を返す。


「もちろん待ってますよ! その頃には、僕も立派に強くなってますから!」



◇◇◇



 俺は魔法陣の上に立つ。


「あれ……? なんで君まで一緒に?」


 当たり前のように彼女が俺の隣に並んでいて

 照れたような笑みを浮かべている。


「私、あなたに借りがあると思ってるの。

 だからまだ一緒にいたい。家族にも挨拶してみたいし」


 なんだそれ。


 こっちは家に戻ってからどう説明すればいいのか不安だけど……。


 でも、彼女の真剣なまなざしを見ると、断る理由なんてない。


 「わかった。何があっても俺が守るからな」


 そう誓うと、少女が「はいっ」と力強く微笑む。



◇◇◇



 俺は両手を広げ、謎の力を意識する。


 思い浮かぶのは故郷の景色、家族、友達、そして……普通の高校生活。


 頭の中でそれらを強くイメージしながら、魔法陣へ念を送ると

 足元がぐらりと揺れる感覚。


「……来る!」


 魔法陣が眩い光を放ち、空間がぐにゃりと歪む。

 あたりが白く染まったかと思うと、視界が一瞬にして真っ暗になった。


「わ、わああっ……!」


 少女の声が聞こえる。


 俺は咄嗟に彼女の手を握りしめる。


 それからすべての感覚が途切れ、瞬きをしたら――


 自分が立っているのは、まさかの“見覚えのある場所”だった。

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