手を繋ぐということ
みかんの実
第1話 幼なじみ
──寒いなら手をつなごう
男の子はそう言って、私の手をひいた。
その小さくてあったかい手が、私の手をギュッとにぎるから、心も温かくなる。
そこには、何も知らない小さな2人がいた。
*
「俺、D判定だったんだけど!!」
コージくんの口元から、白い息が吐き出された。
学校の帰り道。まだ夕方なのに空は真っ暗で、月明かりと数少ない外灯を頼りに、私達は家に向かって歩いている。
「チルは?判定どうだったんだよ?」
そう言って、コージくんが腰を少し屈めて覗き込んでくるから、少し驚いた。
背、伸びたな。
中学に入学した時は私の方が大きかったのにな
。
その頃は、話どころか目さえ合わなかったけど。
「第1志望の北高でA判定だった」
「マジで?すっげーじゃん!」
コージくんの叫び声が静かな住宅街に上がると同時に、彼の子犬の様な瞳がより丸く大きく見開かれた。
冬休み前に学校で受けた模試は、3月の高校受験に向けたもの。
その結果が今日返されたのだけど、コージくんの手に持たれる模試の結果は最悪だったらしい。というか、不合格レベルだ。
「あーっ!あり得ねぇ!サナエちゃんに怒られる!!」
"サナエちゃん"ていうのはコージくんのお母さんの事で、サナエさんは小さな頃から私にも実の息子にも名前で呼ばせていた。
小さな頃は、"コーちゃん"なんて私も呼んでいたけれど。流石に今は言えないな。
それにしても。今の時期、社会38点ってどうなんだろう?
ちらりと見えた点数に驚いて、コージくんへ視線を戻した。
「チルまで、そんな目で見んなよ!」
「……しょうがないよ。コージくんは、バスケ一筋だったから」
「うぅっ、俺の頭はまだ室町時代なんだよぉ!!」
しょうがない、しょうがない。
頑張ってたもんね、バスケット。
朝早く家を出ていくのも、帰りは真っ暗になるまで練習してるのも。授業中、居眠りしてたのも 全部 知ってるよ。
「チル!じゃぁなー!」
「うん、またね」
私の家の前で、コージくんがニカッと笑顔を見せれば、お互いの口元からは白い息が漏れた。
大きな手を大袈裟に横に振るから、こっちまで自然と頬が緩んでいく。
なんか、コージくんって太陽みたい。
変なの。空は真っ暗で、太陽なんて出てないのに。
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