地下世界の発見
真夜中のマジテック社工場は、月明かりに照らされて巨大な影を落としていた。リーナはMEU測定器を慎重に操作しながら、外周の監視カメラの死角を縫うように動いていた。測定器の画面には、工場全体を覆う異常な魔力場が表示されている。特に地下からの反応が強く、まるで無数の魔法使いの存在を示すかのような波形を描いていた。
古い非常口は、蔦に覆われて見分けがつきにくくなっていた。扉には強力な施錠魔法が施されているが、リーナはその魔力の波動に見覚えがあった。エレノアの研究ノートに記された、極小化技術特有の周波数パターンだ。
「理論値通りね」リーナは測定器の数値を確認しながら呟いた。
彼女は極小化技術の理論を応用した解錠の魔法を試みた。最初の試行では失敗。魔力の共鳴が不完全だった。しかし3度目の挑戦で、周波数が完全に同期し、扉から微かな光が漏れ始めた。
内部は予想以上に整備されていた。使われていないはずの通路には、新しい配管が張り巡らされ、それぞれが精密な魔力制御システムに接続されている。通路の突き当たりには、一見すると普通のメンテナンスパネルに見えるものが設置されていた。
しかし、リーナの魔力探知は、そこに異常を感じ取っていた。パネルの裏側に、広大な空間が広がっているのだ。測定器は、その空間内で複数の次元歪曲が発生していることを示していた。
慎重にパネルを開くと、そこには小型のエレベーターが隠されていた。エレノアの地図には記されていない設備だ。躊躇する間もなく、後ろから足音が聞こえ始める。リーナは素早くエレベーターに滑り込んだ。
下降を始めたエレベーターの中で、彼女は自分の呼吸を整えようとしていた。測定器の数値が急激に上昇し、スケールアウトを始める。しかし、その試みは目的地に到着した瞬間に粉砕された。
そこは、想像を絶する光景だった。
魔法杖の内部とおぼしき空間が、まるで小さな都市のように広がっている。複数の次元歪曲によって生み出された空間ポケットが、蜂の巣のように連なっていた。極小化された通路、作業場、そして...生活空間。各区画には精密な環境制御システムが設置され、酸素供給から廃棄物処理まで、完全な生態系が構築されていた。
そして、その中で忙しく働く、人間の姿。全自動魔法杖の中で、極小化された魔法使いたちが、実際の魔法を行使していたのだ。彼らの魔力波形は、完全に同期されており、それが杖の異常な精度の正体だった。
「ようこそ、私たちの牢獄へ」
か細い声に振り返ると、そこには極小化された一人の女性が立っていた。シリア・ミニムスだ。かつての魔法学校の教師で、3ヶ月前に失踪したとされる人物。彼女の周りには、独特の魔力場が形成されており、それが通常の世界との通信を可能にしているようだった。
「信じられないでしょう?」シリアは苦々しい表情で続けた。「全自動なんて、嘘よ。すべては私たち、極小化された魔法使いの手作業。一本の杖の中に、最低でも10人は詰め込まれている。私たちの魔力を同期させ、完璧な制御を実現する。それが『革新的技術』の正体」
リーナは言葉を失った。通路の向こうでは、交代制で休憩を取る魔法使いたちの姿が見える。彼らの多くは若く、失踪したとされる魔法使いたちだった。測定器は、彼らの体内で起きている特異な変化を記録していた。極小化による認知機能の変容、そして魔力感応性の異常な向上。
「でも、どうして...」
「簡単よ」シリアは苦い笑みを浮かべた。「最初は高額な報酬と引き換えに。実験的な治療技術の開発に協力するってことで。でも一度極小化されると、もう戻れない。この技術には致命的な欠陥があるの。そして、それを最初に発見したのが...」
突然、警報が鳴り響いた。侵入者の存在が発覚したのだ。測定器は、上層部からの強力な魔力反応を検知し始めた。
「急いで」シリアはリーナの手を引いた。「証拠を集めるのね?データ保管室はこっち。でもその前に、あなたに見せたいものがあるわ」
二人は狭い通路を走った。その先には、まるで研究室のような空間が広がっていた。そこには...元の大きさに戻れなかった魔法使いたちが、奇形化した姿で横たわっていた。極小化の失敗例たち。そして、その中に、若かりし日のマーカス・ブライトと思われる写真があった。
「これが、マーカスの言う『技術革新』の真実よ」シリアの声が震えた。「彼は...最初の被験者だったの。極小化に成功し、特異な能力を得た。でも、もう元には戻れない。そして今、私たちは、彼の野望の生贄なの」
警報音が激しさを増す中、リーナは必死でその光景を記録していった。測定器のデータ、映像証拠、そしてシリアの証言。この狂気を暴露し、この牢獄に閉じ込められた魔法使いたちを救い出さなければ。
シリアが壁の隠しパネルを開けた。「ここを通って。非常用の脱出路よ。でも、私たちのことを忘れないで。そして...マーカスに気をつけて。彼の本当の姿は、この世界の中にいるの」
リーナは強く頷いた。「必ず戻ってくる。約束するわ」
脱出路に入る直前、彼女は最後にもう一度、この地下世界を見渡した。技術の発展は、こんな歪んだ犠牲の上に成り立つものだったのか。その問いは、暗い通路を這うように進みながら、彼女の心を重く圧迫し続けた。
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