第七章 最強おじさんと厄災の地
7-1
一時間後。陽人たちはかつての都営地下鉄、蔵前駅があった場所にいた。
面子は陽人と玲美の他は、上木と瀬尾。
それに暫時投入の遊撃隊として東京支局に詰めていた、AランクからBランク帯の
閉鎖されて久しい駅の入口に面した江戸前通りでは、すでに
「やっぱり、"影付き"はいねえな」
「そのようですね。
長巻を抜く陽人に、スーツ姿のまま錫杖を持った上木が応じる。
どれもAランクからBランクに分類される種だが、
「参りましょう。各地の戦線が厚くなったとはいえ、長引けばこちらが不利です」
言いながら前に出たのは瀬尾だった。
いつものスーツ姿ではなく、
「……えっ、瀬尾さんも戦うんですか?」
瀬尾の出で立ちを見た完全武装の玲美が、驚きの表情を浮かべる。
「瀬尾は元、Aランク寸前まで行った
上木が事も無げに言うと、瀬尾が恥ずかしげに微笑んだ。
「皆さんのように、派手な真似はできませんが……。お手伝いくらいならできるはずです」
「OK。ここをまっすぐ進めば浅草だよな?」
「
上木が言うと玲美と瀬尾の他、周囲の
ひと通り済むと、玲美がシャトを浮かべた。出力強化のためか、腹には上木が自作した呪符が貼ってある。
「いいんですよね? 配信やっちゃって」
少し不安げな玲美に、上木が力強く頷く。
「ええ。各地の戦線を鼓舞するためにも、お願いします」
「分かりました。それじゃあ、始めます……Thank you for Watching! 『Remiちゃんねる☆彡』の、Remiですっ!」
玲美が言った途端、ホログラムに映されたコメント欄が一瞬で埋まる。
〈わこつぅ!〉
〈うおおおおおおお待ってたああああ〉
〈いよいよだな!〉
〈浅草寺が
〈EFの連中、出てこないけど立て籠もってんのかな〉
〈動いたな! 広島部隊、頑張ってるぜ!〉
〈昭島、押し返せてる! 負けるなよおおおお〉
「深夜のご視聴、ありがとうございますっ! 今回は
〈うわマジだったんだ〉
〈いざっ、決戦だあ!〉
〈きゃ~上木さんいる!〉
〈シャドマさ~ん! ドヤ顔してえええええ〉
〈瀬尾さんのあの格好、久々に見たわ〉
〈上木さんの秘書、
〈↑当時は結構有名だったんだぞ、見た目もいいし〉
「今回の鍵となるのはご存知、シャドウマスターこと宵原陽人さんですっ! では宵原さんっ、意気込みと突撃の号令をどうぞっ!」
「えっ、俺……?」
〈待ってたシャドマあああああ〉
〈シャドマさ~ん! ドヤ顔で号令して~~~~~!〉
〈↑強火勢すげえな〉
〈こんなノリだけど、今結構ピンチだよね?〉
〈一応、国滅びるかの瀬戸際だと思うんだけどw〉
〈まあシャドマだからなあ〉
〈かましたれシャドマ〉
一瞬、上木あたりに振ろうかと思った。が、いつの間にかしっかり距離を取られてしまっている。
(たしかにここで号令をかければ、各地の戦線も鼓舞できるか……)
観念してため息を吐くと、シャトの目を見据える。
「あ~……宵原だ。深夜までの視聴、ありがとう。あと現地の部隊は協力、感謝する」
〈うおおおおおお〉
〈長崎部隊、援軍到着! 盛り上がってますよ!〉
〈茨城牛久、優勢!〉
「浅草寺にはEFのヤツらが立て籠もってる他、
〈EFぶっ潰せ!〉
〈なあ、これひょっとして攻略されたら家に戻れるか?〉
〈俺たちの浅草が、帰ってくる……!〉
〈元浅草住みです、故郷を取り戻してください〉
「よし、それじゃ……行くぞおおおおおおっ!」
『おおおおおおおおおおおおっ!』
陽人の声に合わせて、
〈突撃いいいいいいいいいいい!!〉
〈ばんざああああああああああい!!〉
〈パッパラッパパッパラッパパ~パッパパ~!〉
〈おおおおおおおおおおおおお〉
〈いけいけGOGO!〉
ホログラムのコメント欄に、大量の文字や絵文字が乱れ飛ぶ。
それを尻目に見ながら、ひび割れた道路を駆け出した。
「シャドウマスターだっ!」
「よし、本命が来たっ! 前列代われ、後退するぞ!」
「うお、本物だ……! 頑張っててよかった~!」
陽人たちを見た守備隊と思しき
そこをひと息に通り抜け、
「
無数の鋭い水滴が、紫の刃から放たれた。群れていた
残りは樹がそのまま動いたような
陽人は左の逆手で脇差を抜き放つと、切先に硬い金属をイメージした。すると脇差が、冷たい色をした刃に覆われていく。
「
刃が砕け散り、鋭利な破片になって樹の
一瞬で周囲の同類が打ち倒されたことに焦ったか、
「
小さな竜巻のようになった白風が
残るのは、大量の
次の瞬間、周囲から歓声が上がる。
「うおおおおおおおっ!」
「あの数を、一瞬で……?」
「影使わなくても強いのかよ!」
「
「これが基準になるなら廃業しよう……」
〈TUEEEEEEEE〉
〈シャドマ最強おああああああああ〉
〈魔法剣ならではだな、イメージ切り替えるだけで即座に撃てる〉
〈っていうか黒竜の時もそうだけど、
〈↑ね。
〈多重詠唱ってあんな簡単にできるものなの?〉
〈↑結構ムズイ、できないヤツは一生できない〉
〈牛久戦線の休憩地点、みんな乾いた笑い〉
〈長崎も同じくですねw〉
〈昭島、これ終わったらパン屋になるとか言ってるヤツいるわ〉
〈↑あんたらはそこで戦ってくれてるんだから偉い!〉
〈そうだぞ、自信持てよ!〉
シャトの他、援軍の
それを見ながら、ふたたび浅草を指して走り出す。
「さすが、お見事ですね。魔法でも負けるんじゃないかと思えてきましたよ」
声をかけてきたのは、隣に並んできた上木だ。
「ヘッ、なんか吹っ切れてな。思いつきでやったら、意外とうまくいった」
「っていうか……なんで
同じく横についてきた玲美が、訝しげに問うてくる。
「十五年で日本中、回ったからな。国内に湧く
「いやあ、それ陽人さんだけですよ……」
玲美のげんなりした顔を尻目に見つつ、前に立ちふさがる
火を纏った長巻で巨大な金属人形を叩き斬り、火を纏うトカゲを脇差から放った水の針で屠る。
その様に、またしても出番がなかった
「上木さ~ん、あたしたち露払いで来たんですよね~?」
「払う露、どこにあるんすか~?」
「フッ……油断するなっ! 本番は帳に入ってからだ!」
〈現場ゆっる〉
〈修羅場とは思えん笑〉
〈なんかもう、緊張感なさ過ぎて逆に心配になってきた〉
〈ばっさばっさやってるけど、あの
〈↑シャドマ見てると感覚マヒるよなw〉
〈まあまあ、上木さんの言うとおり本番は帳の中でしょ〉
コメントを見つつ
地下鉄浅草駅の端に位置する、駒形橋西詰の交差点だ。
浅草寺へと続く並木通りには、空まで届かんばかりの帳が、黒に藍にと色を移ろいながら揺らめいている。
その手前には、これまた大量の
「交差点を確保する! そろそろ宵原さんを温存したい! 各員、気を抜くなよ……!」
上木の声に、
「……
あさっての方向から飛んできた光の矢が、交差点にいる群れを直撃した。同時に多数の
「は……?」
「えっ、今度は何……?」
日本の
通りに面したビルの上から、白い
「イギリスの部隊、ですか」
「どうやら着いたようですね」
笑う上木と瀬尾に応じるように、金髪の美女――ロズが陽人の前にやってきた。
「
陽人は笑いながら、ロズと固い握手を交わす。
「助かるぜ。カーチャは?」
「もう来てるはずです。ほら……」
ロズが指さすは、かつて駒形橋があったほう。
それに合わせて、寒冷地仕様を思わせる装備をした部隊が、続々と交差点へと集まってきた。その中から、マスケット銃を担いだ長身の女性が歩いてくる。
「……
「ありがとな、助かるぜ」
握手を交わす間に、交差点はほとんど制圧されていた。
さすがにこの場に呼ばれた者たちだけあって、
「さて、どうやって攻めるかですが……」
「帳の中はどうなっているか分かりません。進路だけでも決めておきましょう」
上木と瀬尾が口を開くと、玲美がシャトを戦う者たちのほうへと飛ばす。さすがに配信を通じて作戦を聞かれるのは、都合が悪いと思ったのだろう。
それを見届けたロズが、真っ先に口を開く。
「そも肝心のユウゴ・アマヒサは、どこにいるのでしょう。浅草寺は幼い頃に観光で行きましたが、結構広いですよ?」
「しかも武家屋敷の配信を見る限り、
その言葉に応じたカーチャも、難しい顔をする。
だが陽人は、ゆっくりと頭を振った。
「場所なら分かってる。本堂前の広場……あいつは必ず、そこにいる」
「因縁ってやつか。いいだろう、信じよう」
「ならば雷門から正面突破が一番早いですね。宵原さんを温存しつつ、全員で
「状況に応じて、アタシらが
「いいんですか? ロズさんやカーチャさんのほうが……」
「アキト様には回復や強化の魔法が効きません。レミさんの盾が持つ防御機能が、アシストとしてもっとも効果的ですわ」
話がまとまったことを悟ったか、周囲の
陽人は大きく深呼吸をすると、ゆっくり口を開く。
「みんな、面倒かけてすまねえ……。ここで終わらせる! みんなの命、俺にくれっ!」
そのひと言に頷く一同を、シャトがしっかり見つめていた。
*――*――*――*――*――*
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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