第十話「余波」
「
「あぁ? るせーんだよ鳥頭。ギャーギャー吠えんな、犬か鳥かハッキリしやがれ」
教室が並ぶ長い廊下で、二人の男子生徒が言い争う怒声が響く。少し前に鳴った
その階の突き当たり――バチバチと宙で鋭い目線の火花を散らす二者の
「また
「はっ、テメーには関係ねえだろうが、しゃしゃってんじゃねえ。大体、雑魚の分際でしつけえっつの、ざーこざーこ」
「んだとーー!?」
問題児、
獣耳を
騒ぎを聞きつけた生徒達で、二人の周囲には軽く人だかりが出来ている。そこに、先ほどまでラウンジでしばしの休憩を取っていたシロエ達も姿を見せた。
ここ、セントーレア学園にはそれぞれ“
“七つの大罪”と
ただ一つの例外として、この地の守護者である
「わ……あの二人、また喧嘩してる……」
「懲りないね……」
そんな彼らの様子を見たカガリとユキネが小さく呟く。初めてその光景を目にする者にとっては両者の
「いつもの事なの?」
「そーなんです……仲が悪いというか、合わないというか、そんな感じで……」
尋ねたシロエに耳打ちをするように、カガリが小声で答える。そして、彼女と同じ見解であることを示すかの如く、隣のユキネも黙って頷いた。
「…………おい、聞こえてんぞ」
「ひぇ……!」
そんな二人の会話は、不運にも言い合いの隙間を
「……ああ、ちょうど良いところに! お二人からも何か言ってやってくださいよー!」
「はァ?」
「へっ……!?」
そこですかさず、不良少年と言い争っていた男子生徒までもが応戦を求める。てっきり止めに入ってくれるとばかり思っていた彼女は、そんな彼の言動に更に動揺することとなってしまった。
助けを求めるように軽く周囲を見渡すも、他の生徒達は皆、関わりたくないと言わんばかりに上の空――他人のフリを決め込むばかりだ。彼女と同じ、
「ははっ……俺に言いたい事があるんなら、ハッキリ言った方が良いぜえ?
「や、その、私は別に――!」
イツキはどこか挑発的な笑みを浮かべながら、つかつかとその場に立ち尽くすカガリへと近付く。別段、危害を加えてやろうなどということは無さそうだが、やはり相手が相手なだけに、湧き上がる恐怖心は否めない。
そんな彼女の心情を悟ったのか、イツキから庇うように、シロエが二人の間に割って入る。それから静かに、彼の
「――――っ!」
「……ん? 何だお前、見かけねえ顔だな? どこのクラスだ――」
突然割り込んできたシロエに少し意表を突かれるも、変わらぬ口振りでイツキが続ける。思いがけない行動に出た
イツキが最後まで言い終わるのとほぼ同時だっただろうか。その時、嵐の過ぎ去った後のような、よく澄んだ、凛とした声が
「一体、何の騒ぎですの?」
明るい
「ナギサちゃん!」
「委員長!」
「リヒトさん? 風紀委員たる貴方が、このような騒ぎを起こしては本末転倒でしょうと……
リヒト――そう呼ばれた男子生徒はハッと目を丸くし、弾かれるように勢い良く頭を下げた。彼の長いポニーテールが
「申し訳ございません!」
「分かれば良いのです」
ナギサはただ一言、
「
「え……っ!?」
「学長から……ですか……?」
突然のことに困惑する二人の返答に、彼女は黙って頷く。そして、何か言いたげなイツキを
「ふふ、ごめんあそばせ? こちらのお
「なっ……!? テメー! 何勝手に決めてやがる……!」
「リヒトさーん?」
「おい! 無視すんな!」
心底不服そうなイツキを
「後のことは全てお任せしても?」
「はい! 任せてください、委員長!」
「ざけんじゃねえ!!」
今にも暴力に走りそうな勢いのイツキを、すかさずリヒトが
「おい! 離せ馬鹿! 一発殴らせろ!」
「まったく……野蛮ですこと」
そんな光景をぽかんと眺める三人に、独り言を
「さ、参りますわよ」
半ば強引な形で、その場を後にしたシロエ達。背後からはいつまでも激しい怒号が聞こえてくるのだった。
◇
「…………約束通り、連れてきましたわよ」
ナギサに連れられ、三人は小さな会議室へと通される。これから一体何をするのだろう――カガリがそう思った矢先、窓辺に
「お疲れー! いやあ、いつもこれくらい素直なら助かるんスけどねえ〜」
「うるっさいですわ!」
先ほどまでの落ち着き払った振る舞いから一変、やけに喧嘩腰のナギサがその人物に噛み付く。……どうやら、非常に不仲なようだ。
そんな二者の関係性を、カガリもユキネも十二分に理解しているらしく、その変わりように対しては全く動じていない。むしろ、それがいつもの事といった空気すら漂っている始末だ。
「やあやあ、二人共! 急に呼び出して悪いッスね」
「……ふん!」
そっぽを向くナギサの横で、二人の顔見知りらしい窓辺の人物がこちらを振り返り、ひらひらと手を振りながら呼びかける。
あちこちが跳ねた淡い金色の癖っ毛に、笑顔をはり付けたように細められた目、そして、カガリ達と同じ獣耳に尻尾。彼――性別は不明だが、
「いえ……! お疲れ様です、ライナさん」
「通達? とは、何なのでしょう……?」
「まあまあ。その話は一旦、そこら辺に置いといて〜……」
単刀直入に話を切り出そうとする二人を緩やかに制止し、狐の青年はゆっくりとシロエのもとへ近付く。ふむ、と小さく独り言を
「君が学長の言っていたシロエさんかな? 初めまして〜! 生徒会副会長の
元から細い目をより細め、ニコニコとした笑顔を浮かべたライナが
「――――は、な、何ですの?
「ん〜? 何って、自己紹介ッスよ? ……風紀委員会では、そんな当たり前の事もやらないんスか?」
「な……なななな……!?」
からかい半分に彼女を煽るライナと、それに簡単に乗ってしまうナギサ。もはやある種の
……一度
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