0x4 確証バイアス
「そう。心理学用語で、認知バイアス、思考の偏りのことよ?
人間は誰でも、先入観や思い込みに基づいて物事を判断してしまうの。
例えば今回のケースだと、
『ボールは体育館にあるはずだ』
『誰かが盗んだに違いない』
って考えが、まさにそうね」
「確かにそうだな。
俺、ボールが見つからないのは、誰かが隠したからだって決めつけてたかも」
朔は納得した。
「そう。
だから、まずはその思考の偏りを疑ってみるのよ。
もしかしたら、ボールは本当にどこかに転がって、偶然見つからないだけかもしれない。
それを確かめるために、もう一度体育館全体を隈なく探してみましょう」
「なるほど。
確かに、盗られたと決めつけるのはまだ早いな」
朔は立ち上がった。
「よし、もう一度探してみようぜ!」
凛も頷き、3人は再び体育館の中を探し始めた。
しかし、どれだけ探してもボールは見つからない。
「やっぱり、誰かが隠したんじゃないかな……」
凛は疲弊した様子で言った。
「そうかもしれないわね。
でも、まだ諦めるのは早いわ。
他の可能性も考えてみましょう」
透華は言った。
「他の可能性?」
「ええ。
例えば、ボールが何かに当たった拍子に高く飛んで、高くて下からはよく見えない場所に引っかかった可能性。
あるいは、ボールが壊れて使えなくなって、誰かが処分した可能性。
色々な可能性を考慮して、一つずつ検証していく必要があるわ」
「確かにそうだな」
朔は納得した。
「よし、次は他の場所も探してみよう!」
3人は体育館を後にし、他の場所も探し始めた。
しかし、ボールはやはりどこを探しても見つからない。
夕陽も落ち、辺りがもう暗くなってきた頃、3人は再び体育館へと戻る。
「やっぱり、ボール見つからなかったね……」
凛はがっかりした様子で言った。
「そうね。
でも、収穫はあったわ」
透華は言った。
「収穫?」
「ええ。
今回の捜索で、ボールが偶然紛失した可能性は低いことが分かったの」
「確かにそうだな」
朔も頷いた。
「となると、やっぱり誰かが隠した可能性が高いってこと?」
凛は言った。
「そうね。
でも、まだ犯人は特定できていないわ」
透華は言った。
「どうすればいいんだろう……」
凛は困った様子で言った。
「大丈夫。
必ず真相は突き止めるわ」
透華は力強く言った。
その時、透華はふとあることに気づいた。
「ねえ、朔、凛。
ちょっと来てくれる?」
透華は二人を体育館のステージに連れて行った。
「ここ、何か変じゃない?」
透華はステージの段幕を指差した。
「変?」
凛は不思議そうに首を傾げた。
「ええ。
この段幕、私には格子状の模様が歪んで見えるの」
透華は言った。
「言われてみれば、確かに、段幕の格子状の模様、縦線と横線とが交わる交点のいたるところに、いろいろな配色の円が書かれているけど……、
位置が目まぐるしく変わっているように見えるな」
朔は言った。
「これ、錯視効果を利用したトリックかもしれないわ」
透華は言った。
「錯視効果?」
凛は不思議そうに訊ねる。
「ええ。
人間の目は、錯視によって実際とは違うように見えてしまうことがあるの。
この段幕の歪みも、その一種かもしれないわ」
「なるほど。
それで、ボールがここに隠されている可能性があるってこと?」
朔は言った。
「そうね。
探してみましょう」
透華は段幕に近づき、格子状の模様を注意深く観察した。
そして、透華の手がギリギリ届く高さにある一点に目を止めた。
「あった、あそこだわ!」
透華は二人に段幕の一部分を指差す。
すると……。
段幕に描かれた模様、その交点の一つに、
無くなったボールが強力なマジックテープでしっかりと貼り付けられていた。
「あった!!よかった!」
凛は喜びの声を上げた。
凛はさっそく、そのボールを段幕から外そうと手を伸ばそうとする。
しかし。
透華はボールを見た瞬間、
顔色を変えた。
「みんな危ない! !
離れて!!!」
透華はそう叫ぶと、二人を連れてステージから飛び降りた。
するとその直後、ボールは跡形もなく粉々に破裂した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます