…
俺は、テーブルにあったウィスキーの瓶を傾け、ショットグラスにちょうど一口分を注いだ。
香しい琥珀色の液体には、底知れぬ癒しがある。
一気に喉の奥に流し込むと、鼻の奥から刺すような刺激がして、目尻がじんわりと熱くなった。
そのまましばらく香りに浸ったあと、固くなったパンをかじりながら湯を沸かし、もう一度コーヒーを淹れた。
今日は休暇となっているが、部隊自体は年中無休だ。
酒酔いは早めに醒ましておくに越したことはない。
緊急の作戦が入ると、突然電話一本で招集を食らうこともあると聞いている。
それで、自宅アパートを留守にするときは、決まった時間にこちらから電話を入れなくてはならない。
街へ出るにしても、俺は一般市民を装うことが求められていた。
あくまで自分の素性は知られないと過ごさなくてはならない。加えて、街で知り合った誰かと心を許し合って付き合うことも許されなかった。
どこで誰とつながっているか分からない相手に自分が何者か気取られたら、それは部隊そのものにリスクを負わせるからである。
そうして、街なかで息を潜めている反社組織の人間に、自分の情報が回っても何ら問題ないように一応の手が打ってある。
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