【 interlude ── 幕間 】

 木製の扉を隔てた隣の部屋で、子どもの泣きわめく声がしている。

 

 初めは小さく聞こえていたが、その声がだんだん大きくなり、やがて耳をつんざくほどになった。

 ベッドで横になっていた俺は、毛布を頭から引っかぶった。

 それでも、あたかもすぐそばにいるかのような大きさだった。


 急にその泣き声が止み、ふと目を見開くと、毛布の中に子どもがいた。

 が、子どもには顔がなかった。

 目も鼻も口もなかった。


 また別の声がした。大人の女の。

「返して……」

 俺は、毛布から頭を出した。

 そこには、きゃしゃで長い髪を振り乱した女の黒い影があった。

「お、俺じゃない……俺は、何もしていない……」

「あなたが何もしなかったからよ」

「……?!」

「見殺しにしたのよ、そのままだとどうなるか分かってて……」


 何も言えない。

 そう言われても仕方がない。

「返してよ、わたしの子ども」

「……すまない……」

「もうあなたには、恨む権利なんかないのよ」

「な、なに……ケイトのことか?」

 女の影はじっとして、黙っていた。


 俺は実はこの時には、これが夢だと気づいていた。

 が、彼女との対峙することを余儀なくされた。

 夢から醒めてくれと願ったが、これが単なる悪夢ではなく、自分に巣食う塊たるもの《オブジェクト》であることさえ、既に感じ取っていた。


「すまない……。ケイト、俺はどうすれば……?」


 俺は目を閉じて、そう独りごちた。

 静かに祈るような思いで。


 が、どこからも何も聞こえてはこなかった。

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