第38話 喪失感

「修斗、美咲ちゃん、家に帰るみたい」


「...俺のせいか」


病院へ運ばれた後、多少の手術を受けた俺は母さんからそんなことを言われていた。


美咲が家に戻るのはきっと、俺がこれ以上怪我をしない為だろう。


(気にしなくてもいいのに...)


俺はこの怪我を後悔していない。

ファンを守る為の行動、それに誰にも文句を言われたくない程だった。


「修斗、美咲ちゃんはきっと貴方に傷つついて欲しくないのよ。貴方がサッカーをしてるのを見るのが好きだったから」


そんなこと、言われなくても分かっていた。


言ってくれたから、見ていてくれたから。


「練習...見に来るかな」


「あっちのゴタゴタが収まったらね。多分来るわよ」


その後、監督と横山さんが俺のお見舞いとやった事に対する説教をしに来ていた。


「お前はユースにも選ばれている。ここで無理して何になるんだ」


「別にユースに行くと決まったわけじゃ...」


「だとしても、お前がサッカーをできなくなる可能性もあったんだぞ」


「...はい」


監督も、俺のサッカーへの熱意を知っているからこその説教だった。


それを分かっても、思ってしまう事は一つだけ。


(美咲...もう見に来ないのかな)


数日を経て退院した俺は部活の練習に顔を出し、何かに取り憑かれたようにボールを蹴り続けた。


学校のグラウンドでも、いつもの公園でも。


「修斗君、これ良かったら」


「横山さん...それは」


「おにぎりだよ。遅くまで練習するならいるかなって」


「...ありがとう」


美咲もこうやっておにぎり差し入れてくれたよな、と思いながら、そのおにぎりを食べた。


「しょっぱい...」


「...そうだね」


1口目はいつも食べなれた味だった。

いつも、美咲が作ってくれる塩を多めに振ったおにぎり。


だけど今は、俺から流れる涙によってさらにしょっぱくなっていた。


「ねぇ、修斗君は私じゃダメかな?」


「どういう事?」


「吉原さんの代わりは私じゃ務まらないかな?」


横山さんからの何かを訴えるような目に、俺は少しも考えずに答えられた。


「美咲は美咲、横山さんは横山さんだよ。代わりも何も無いよ」


「ねぇ、修斗君」


「どうした?」


「サッカー楽しい?」


横山さんからのこういう質問に、俺は毎度答えずらかった。


だけど、今は違う答えが出来た。


「俺にはサッカーしかない」


美咲が居ない今、俺に残されたのは大好きなサッカーだけだった。


「そうなんだね。修斗君は馬鹿だよ。本当に」


「何言ってんだよ」


「自分で分からないとダメだよ」


それを言い残して、横山さんは公園から出ていってしまった。


「何をだよ...」

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