第37話 見てるだけなのに

「吉原美咲さん、ですよね。今、時間ありますか?」


「横山さん...ですよね。サッカー部のマネージャーの」


「はい、貴女に話したいことがあります」


「...分かりました」


修斗くんが救急車で運ばれる時、私は横山さんに呼び止められていた。


言いたいことは分かる。

だって、あの太ももの怪我...きっと、私を守った時についたものだから。


「ここなら、人も来ませんね」


「そうですね」


「単刀直入に言います。修斗君と...関わらないでください」


私は開口一番、横山さんに頭を下げられ、そんなお願いをされていた。


「...わ、私は何も」


「それは分かってます。修斗君が吉原さんの悪口や不満なんて言ったことがないから...でも!これ以上...修斗君がサッカー出来なくなるのは嫌だから...」


「っ...」


横山さんは泣きながら私にそう告げてきた。

そして、それは私もわかっている事だった。


いくら修斗くんがいいって言っても、今回も...そして前回も私のせいで修斗くんが怪我をしていた。


「私は...見ているだけなのに」


「...分かっているんです。横山さんが悪い人じゃないのも、修斗君を見てれば...分かります。でも、これ以上、修斗君からサッカーを奪って欲しくないんです」


横山さんの言葉は、私の胸に突き刺さるものだった。


私は何も言えず、ただ立ちつくすことしか出来なくなっていた。


(なんで...私は普通じゃないの...)


もし、私が横山さんのように普通の女の子で、マネージャーだったら、修斗くんのサッカーを見続けれたのに...


「...ずるい」


「え?」


「ずるい...ずるい、ずるい!横山さんは良いですよね!修斗くんの近くにいても、マネージャーをしていても何も起きなくて!私は...私は家のせいでそれすら!できないのに!」


私は横山さんに心の内をぶつけていた。

こんなこと言ってもどうしようもないのに、出てきた言葉は止まることがなかった。


「私はただ!修斗くんを見ていたいだけだったのに、それすら...ダメなの...」


「...」


その言葉に横山さんは何も言ってくれなかった。

多分、何も言えなかったんだと思う。


少し落ち着いた私は横山さんに、後を託すことにした。


「修斗くん...少し塩多めのおにぎりが好きなの。練習、遅くまでやるから、行ってあげて」


「...吉原さん」


「さようなら」


私はそれ以上何も聞きたくなくて、修斗くんのことだけを教えて、その場を立ち去った。


(これだけじゃ、修斗くん気を使うよね...)


私は修斗くんがサッカーを続ける為に、家に電話をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る