第10話

「ちゃんと飲めた??えらいえらい。」






小さい子をあやすように優しい声音で言っても、彼女の反応はない。




寝室のドアの方を虚ろな目で見つめるだけだ。




……そろそろ本格的におかしくなってきたな。








「りこちゃん?大丈夫??」




「……て、……くだ…さ……」






良かった。思考状態はそこまでおかしくなってないようだ。






「……ん?」




「ゆるして……くださ……」




「……」







……わお。やるじゃんこいつ。




自分の身体が熱くなっていくのが分かる。自他共に認める歪んだ性癖の持ち主の俺にとって、今の言葉はなかなかの興奮材料だ。




しかも涙でぐちゃぐちゃの顔、というオプション付き。







「……煽ってる?」




「煽ってなっ……ひっ!!」







俺は問答無用で彼女を押し倒す。




……なんだ?この安っぽいAVみたいな展開。






「……こーいうのはもうちょっとしてからにしようと思ったんだけどなぁ。煽ったのはりこちゃんだもんね?」




「……ちが、……」




「いーよ否定しなくて。じゃあ手始めに……」






俺はベッドの端の方に立ち、彼女を見下ろす。




一旦俺が離れ、彼女が安堵したのも束の間……






「………ひゃあっ!!……いっ、……」






……彼女の腹部めがけて蹴りを入れた。




そのまま彼女の身体にまたがり、顔をぶん殴る。






「……いっ…た……やだ!…もうやめ……」




「は?何言ってんの??」




「……!!…もうやめてくださ……」




「ふーん。こんな状況で『やめて』??いいご身分だね。俺がやめてっていってもやめなかったくせに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・……?」




「……なに、いって……」




「俺の骨が折れても殴り続けたくせに……?」




「……え…」




「やめてって言ってるのに川に突き落としたくせに……?カッターナイフで傷つけたくせに……??」




「…………うそ……」




「俺のお母さんを殺した、くせに……?」




「……っ!!」











「あは!気づくのおっそ!……どうも、いじめられっ子の春くんです♪」






……虚ろなはずだった彼女の目が揺れ、絶望の色に染まった……ような気がした。

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