第9話

「りーこちゃん。おまたせ。」






男が嗚咽を漏らしている女に優しくバックハグ。




本来ならほとんどの女子が泣いて喜ぶシチュエーションだが、状況が状況だ。喜べる訳がない。






「はい、これ飲んで。」




「……あり、がとう…ござ……い……」






……ストックホルム症候群。




誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者が、犯人との間に心理的なつながりを築くことをいう……らしい。




今のこの状況とは少し違うかもしれないが、彼女は先ほど確かに「ありがとう」と言った。




監禁しているのは他でもない俺なわけだけど、度重なる恐怖で正常な思考ができなくなったらしい。




まあ、どのみち俺には関係ないけど。






ふと彼女の方に目をやると、コップを持つ手が震えていた。






「…あの……わ、たし……のどかわいて、なくて……」




「だーめ。今飲んで?」






彼女はどうやら水に溶けている何か・・の存在に気が付いたらしい。




ちょっとめんどくさいな。察しの良い女は嫌いだよ。




思わず悪役みたいなセリフが口をつきそうになったけど、よく考えたら今の俺、世間から見たら100パーセント悪役じゃん。






「ねぇ聞こえなかった?今飲めって言ってるんだけど。」






耳元で低い声で脅したものの、やはり彼女は飲むことを躊躇っている様子だ。






……強硬手段でいくか。







俺は荒々しくコップを奪い取ると、中身を彼女の口に無理やり流し込んだ。




「……!!」




そのまま彼女の髪を掴み、強制的に上を向かせて飲み込ませた。






「……っ!…ゴホコホ…」






せ苦しんでいる彼女の背中を優しくさすってあげる。




……なんなんだ、俺のこの二重人格ぶりは。






「りこちゃーん?俺こー見えて結構気ぃ短いから、気を付けてね~?」






目を合わせニコリと微笑むと、彼女はまた泣き出してしまった。




……あー、かわいいなぁ。

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