第3話 ニゲンの子供

「ただいまー」

 ある日、ニゲンの子供が帰ってきた。

「ああ、ゴキブリ、ゴキブリ!!!」

 大きいニゲンの子供はクロチの姿を見て、大きな声を出した。ニゲンの子供には小さい方と大きい方がいた。小さい方は我々の世話をしてくれていた。大きい方はもともと我々に興味を示さなかった。それ以前に、昆虫が苦手なのである。

 すぐに、騒ぎになった。家の者がクロチを見つけて毒ガスを吹き付けたのである。普通の昆虫なら一瞬で死ぬ程の猛毒ガスだ。その猛毒ガスは箱の中にも侵入した。わずかに吸い込んだだけで体がしびれた。苦しい。もう、これまでなのか?

 毒ガスを直接浴びて苦しむクロチ。クロチはもだえ苦しんでいるが死んではいない。何という生命力だ。しかし、そこでガススプレーがガス切れになった。

 クロチが言っていた通りの展開となった。しかし、クロチはニゲンの攻撃を受けて死にかけていた。

 ニゲンの体が我々の小屋にぶつかり、天井そのものが壁から外れ、そこに大きな隙間ができた。いまがチャンスだ。こんなこともう二度と起きないだろう。私は全力でジャンプした。久しぶりの跳躍だ。何とか天井に張り付くことができた。

 しかし、仲間たちは出ていこうとしない。こいつらには跳躍する意思自体が失われていた。もう、一生を飼い虫として過ごすのであろう。その背後で、必死に跳躍を繰り返す仲間がいた。メスのグリヨーネだ。

「まって、私も連れて行って」

「グリヨーネ、ここだ。ここまで飛ぶんだ。さあ、この手に捕まるんだ」

 しかし、その体は重たく、何度飛んでも天井までたどり着くことができなかった。お腹が大きく張っていて、思うように飛べなかったのだ。

「おまえ、そのお腹、どうしたんだ・・・」

「あなた・・・」

 しかし、ニゲンたちが虫かごの状態に気が付いた。

「きゃあ、カオル君。虫が逃げちゃう!!」

 ニゲンたちの注意が虫かごに向いた時、私は必死になって外に飛び出していった。

 私が振り返るとクロチは氷結スプレーにより氷漬けとなり、息絶えていた。

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