第2話 飢えるコローギたち
しかし、日を重ねるごとに息絶える者が出始めた。エサがあり、外敵は居らず、風雪をしのぐことができたとしても、一匹、また、一匹と自然死していった。我々はかよわい種族だったのである。
仲間が死ぬと、天井の窓が開き、虫かごの中に巨大な腕が入り込んで、仲間の亡骸を持ちさっていった。巨大な腕の正体。それは我々を捕らえた「ニゲン」の腕だったのである。
「ニゲン」は意外にも我々のことを丁重に扱ってくれていた。安寧とした日が続いた。もはや跳躍することもなくなっていった。しかし、我々の生活にも危機が訪れた。飼い主が世話を怠り、エサが途絶え始めたのである。
飢えに苦しむ我々は次第に動けなくなっていった。そんなある日の夜、箱の外に黒い奴がでてきた。クロチである。その走る姿の気持ち悪さは同じ昆虫でも目を覆うレベルである。昆虫は跳躍して移動するものだ。地面を這いまわるなど、よくできたものだ。
ある日、クロチが壁越しに話しかけてきた。箱から脱出する方法を持ち掛けてきたのだ。
「作戦はこうだ。そのうち、ニゲンが窓を開けに来るだろう。その時に俺が姿を現して、ササっと足元を這いまわるのさ。そしたらニゲンの連中は俺様の姿に驚いて窓を開けっぱなしにするだろう。その隙に逃げ出すがいい」
「なぜ、窓を開けに来るとわかるのか?ニゲンはこの小屋の食料が尽きていることすら気づいてないのだぞ」
「じきに開けにくるさ・・・。見ろよ・・・」
クロチの指さす先には弱り切った仲間の姿があった。
「何てこと考えるんだ・・・」
クロチはにやっとした。そして、これよがしにもっていた食べ物を食べ始めていた。
「キリギリスの音楽会、好評だったらしいぞ」
「なんだと?どういうことだ!!」
「相方のコオロギがいなかったとかいって、単独ライブをやってたよ。まあ、知るわけがないよな。ずっと、ここにいるんだから」
「あいつ一人で、できるわけが・・・」
「サイコーのライブだった。ナナホシもカマキリ、クワガタもみんな拍手喝采だったぜ」
「おのれ・・・」
「おい、お前らの分のエサ、ここに置いておくぞ。俺一人では食いきれないからな。まあ、悔しかったら、そこから這い出てみなさいよ。あっはは」
そこにグリヨーネが現れた。
「まあ、あなた、良いじゃないの。外は冬よ。きっとみんな死んでいるわよ」
私はその日、箱の隅にいき、一人で羽を震わせていた。
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