第19話 誰の起こしたトラブルだ

 シーフードレストランの手前に差しかかった時、豪華な馬車が行く手を阻いくてをはばむように止まった。

 馬車の動きは、どう考えても俺達の中の誰かに、用がある感じだ。


 こんなに豪華な馬車は貴族の持ち物に決まっている、それも有力な貴族だと思う。

 かなりやっかいな事になりそうだ、誰の起こしたトラブルだろう。


 そんなことは、聞かなくても決まっているよな。


 「ちょっと、どういうことよ。 一斉に私を見て。 貴族とはなんにも繋がりはないわよ」


 「えぇー、そうなのか」


 「失礼ね、〈ゆうま〉ちゃんは。 あんたの方こそ、なにかやって逃げて来たんじゃないの? 」


 「いやー、王都ならともかく、この町に来るのは初めてなんだよ」


 「やっぱり。 王都からはるばる探しに来たんじゃないの。 とんでもない事をしでかしたんでしょう? 」


 「いやー、軽いことしかやっていないよ。 あんな事でわざわざ探しに来ないと思うな」


 俺と〈太陽の薔薇〉のリーダーとで、やっかいの原因を押しつけあっていたら、馬車の扉がバタンと開いて、立派な服を着た青年貴族が外へ出て来た。

 真直ぐこちらにやってくるが、当然ながら見た事もない男だ。


 「突然で悪いが、君の着ている服をゆずってくれないか。 譲ってくれたら、相応そうおうの礼をしよう」


 おっ、予想の斜め上をいく事を言ってきたぞ、貴族の割には丁寧なしゃべり方だ。


 俺の目を見ていってきている、〈太陽の薔薇〉とじゃ体格が違いすぎて、ガバガバで着られないためだろう。

 でもどうして、このパッチワークでぎはぎの服が欲しいんだろう、貴族のクセに変な男だ。


 「えっ、お貴族様が。 この服は継ぎはぎだらけですよ? 」


 「んっ、継ぎはぎだと。 これはパッチワークと言うんだ」


 ちっ、機嫌が悪くなったぞ。

 〈太陽の薔薇〉とセンスが同じ人種なのか、パッと見はそう思えないな。


 まるで意図がつかめない、ここは慎重に答える必要がある、相手はなんと言ってもお貴族様だからな。


 〈太陽の薔薇〉は、いつものふざけた雰囲気をしまって、冒険者の鋭い目に変わっている。

 不測の事態ふそくのじたいに備えているんだろう。


〈サト〉さんと〈サニ〉は、いきなり貴族にからまれてしまい、驚きと不安で体が固まっているようだ。

 平民が貴族と関わるなんて、普通じゃないから無理もない。


 「これはとんだ失礼をしました。 そうです、この服はパッチワークで御座います。若くして亡くなった者が、生前愛用していた形見かたみなのです」


 「うっ、形見の品か。 大切なものを譲れとは言えないな…… 」


 この貴族、こちらの気持ちを考えてくれているぞ、貴族のクセに。

 良いヤツなんじゃないか、貴族の中では珍しいと思う。


 「お貴族様は、この服がどうして良いのです? 」


 「幼い頃の私の想い出なんだ」


 〈サト〉さんが旦那さんに作った服が、なぜこの貴族の想い出なんだ、繋がりなんか無いはずだ。

 そうだ、継ぎはぎと言ったらムッとしていたな、パッチワークをけなされたく無いんだ。

 それに形見に大きく反応したぞ。


 「幼い頃に、パッチワークの服を着られていたのですか? 」


 「あぁ、そうだ」


 たぶん、身近な人が、乳母とかが、作ってくれたんだろう、この貴族のかけがえの無い人だったのだろう、だから平民に対しても無茶を言わないんだな。


 「お貴族様、提案が御座います。 この服じゃ無く、新しい服ではどうでしょう? 」


 「ふん、この服を作れる者など、近年聞いたこともない。 簡単そうに見えるが、高度な技術がいるんだぞ。 王都でも探したが、もう作る者がえたらしい」


 「でも、お貴族様、このおっさんの着ている服は、新しそうに見えませんか? 」


 「おっ、たしかに言われてみれば、真新まあたらしくて綺麗に見えるな。 作った者を知っているのか? 」


 「いやだぁ、綺麗だなんて、照れますわ」


 〈太陽の薔薇〉も、この貴族に対して警戒を解いたのだろう、解きすぎて不安になってしまう。


 「あっ、お貴族様、私が作りました」


 〈太陽の薔薇〉の戯言ざれごとを綺麗にスルーして、〈サト〉さんがすんなりと答えてしまった。

 この人は正直者だし、ちょっと自信がついてしまったからな。


 後はなんとかなる事を祈るしかない。


 「ご婦人にたずねるが、このパッチワークの技法はどこで習ったんだ? 」


 「習ってはいません、独学です。 ある貴族の奥様のお召し物めしものが、あまりにも素敵でしたので、まねをしたのです。 なにかおとがめがあるのでしょうか? 」


 「そんなものは無い。 それより、その貴族の奥様の名は? 」


 「前のご領主様の第二夫人でいらした、〈サトラ〉様です」


 「おぉぉ、そうか。 似ていると思ったんだ。 あははっ、ご婦人のパッチワークはすごいぞ。 良く再現してくれたな」


 この一連のやりとりに、俺はポカーンだ、〈太陽の薔薇〉もポカーンだ、〈サニ〉はブルブルと震えているから手を繋いでやった。


 だけど〈サト〉さんは微笑んでいる、堂々としたもんだ、自信がついて怖いものしらずだな。

 ひょっとしたら、はこうなのかもしれない。


 「お貴族様は、ご領主様の次男であらせます〈ガルトラ〉様ですね。 お顔が〈サトラ〉様と良く似ておられます」


 「そんなに母上と似ているか?  ふふっ、嬉しいことを言ってくれる」


 よく分からない展開で、俺達は領主の次男と、会食をすることになってしまった。

 シーフードレストランの特別な個室に、全員ぶち込まれてしまったんだ。

 大変居心地が悪くて、ずっと落ち着かない。


 あぁ、もっと気楽に名物の貝を楽しみたかったな。

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