第18話 テンションが上がり過ぎて変

 それから、俺と〈サニ〉は黙々もくもくと端切れの色分けを始める、それに三日もかかってしまった、どんだけの量があったんだろう。


 その間に〈サト〉さんは、シャツとズボンの型を、白い端切れで作り終えたようだ。


 「ふぅー、改めて見るとすごい量ですね。 何着も出来る量だと思います。 あまった分はお返ししなくてはいけませんね」


 「お母さん、僕はもう疲れたよ」


 「〈サニ〉、ありがとう、助かったわ。 〈ゆうま〉さんも、ありがとうございます。だけどこれからが服作りの本番です。 おー、気合を入れていきましょう」


 〈サト〉さんは、気持ちが高ぶっているのか、ヤケクソになっているのか、キャラクターにないけ声を上げて、俺達のテンションも上げようとしている。

 自分自身はすでに、これ以上なく上がっているらしい。


 俺と〈サニ〉は顔を見合わせて、また「はぁ」とため息をはくしかない、もっとゆっくり作業して良いんじゃないのかな。


 だけど今の〈サト〉さんは、そんなことに全く耳を貸さないだろう。

 自分の技術が認められて、それで大金が入ってくるんだ、あふれるようなやる気しかないと思う。

 あふれた情熱が、俺にも降りかかってきている、〈サニ〉も被害者だ。


 服が完成するまで、ノーブレーキで疾走する、まるで暴走列車だよ。

 見えないけど〈サト〉さんの頭から、しゅぽぽと大量の湯気が噴出されているに違いない。


 〈サト〉さんはとても頑張った、そして俺と〈サニ〉もブツブツ言いながらも、かなり頑張った。


 「あははっ、完成しましたよ」


 すごいテンションだ、あまり寝てないせいもあるようだ。


 「お母さん良かったね。 だけど少し怖いよ」


 〈サト〉さんが大きな声で哄笑こうしょうしているのが怖いらしい、確かに俺もちょっと怖い、テンションが上がり過ぎて変になっている。


 「本当に良かったです。 それじゃその服を納品してきます」


 「そうはいきませんわ。 実際に着てもらい、微調整する必要があります。 連れてきてくだいませんか」


 うわぁ、言葉は丁寧ていねいだけど有無を言わせない迫力がある、〈サト〉さんは変わってしまったよ。



 俺はまた〈アヴェの町〉にある、パステル色をしたペンション風の建物、ムキムキのおっさんが生息している〈太陽の薔薇〉のアジトに行くはめになった。


 スローライフを探して、町から町へ旅をするつもりだったのに、最初の町へまた戻ってきているぞ。

 やっかいな親子に関わってしまったな。


 〈太陽の薔薇〉に事情を説明すると、「それはそのとおりだわ」と直ぐに渡船に乗ることになった。

 この人達は〈交易都市クダート〉に行くと言ってたはずだけど、どうなっているんだ。


 〈太陽の薔薇〉が完成した服を着て、〈サト〉さんがそれを微調整している、実際に着ると吃驚びっくりするくらい派手だ。

 明るい原色を多用しているせいだろう。


 〈太陽の薔薇〉のメンバーは体格が大きいから、これじゃ死ぬほど目立ってしまうぞ。

 派手なムキムキなおっさんに、何の需要があるのだろう。

 よくこんな服を着られるな、俺には無理だし、絶対に着たくない。


 「うおぉぉ、イケてるわ」


 「しゃぁぁ、派手よ。 派手なのよ。 すんごく派手で良い」


 「ごおぉぉ、これよ。 これ。 これがおしゃれん」


 うわぁ、野獣の咆哮ほうこうだよ、なにが〈れん〉だ、ただちに消えてくれ。


 「あ、あの。 これでよろしいでしょうか」


 〈サト〉さんのテンションは恐怖のためだろう、急激にしぼんでしまったらしい。

 そりゃそうなるよ。


 「あはん、良いに決まっているわ。 私達の歓喜の声が聞こえなかったの」


 嘘だろう、あれは歓喜だったのか、そうは聞こえなかったぞ。


 「そ、それと、余った端切れはお返しします」


 「はぁ、そんなの返してもらっても困るわ。 悪いけど処分しておいてね。そ れよりも、せっかく〈ツィアの町〉に来たんだから、ラメンサ貝を食べたいわ。 おごってあげるから、みんなで行きましょうよ」


 誘いを断る勇気は俺達にはなかったから、ぞろぞろと連れ立ち食べに行くことになった。

 繁華街を歩くと、目立つこと目立つこと、道行人がみんな俺達を見てくる。

 正確には、〈太陽の薔薇〉とその着ている服をだ。


 「ふふん、気分は上上じょうじょうよ。  みんな私を見ているわ。 この服のおかげね」


 「本当ですね。 じっと見られています。 少し自信がつきましたわ」


 なんの自信なんだろう、派手な服である自信なのか、それなら俺も認めよう。

 まあ、自信がないよりあった方が良いに決まっている。


 自信が持てたせいか、〈サト〉さんの背がスッと伸び、胸を張って歩いている感じだ。

 もう猫背で、どんよりと暗い顔をしていない、笑顔もかなり増えてきている。


 それと思っていたよりも、〈サト〉さんのおっぱいは大きいんだな。

 胸を張っているからそう見えるのか、それか最近は栄養を十分とれているため、元の大きさに戻ったのかもしれない。


 「そうよ。 あなたが作った服は、とても派手で、最高におしゃれん」


 その語尾は止めれ、まさか自分が可愛いとか、思っていないだろうな。

 おっさんのくせに、そう思っているのなら、今直ぐ消えてしまえ。

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