第18話 テンションが上がり過ぎて変
それから、俺と〈サニ〉は
その間に〈サト〉さんは、シャツとズボンの型を、白い端切れで作り終えたようだ。
「ふぅー、改めて見るとすごい量ですね。 何着も出来る量だと思います。
「お母さん、僕はもう疲れたよ」
「〈サニ〉、ありがとう、助かったわ。 〈ゆうま〉さんも、ありがとうございます。だけどこれからが服作りの本番です。 おー、気合を入れていきましょう」
〈サト〉さんは、気持ちが高ぶっているのか、ヤケクソになっているのか、キャラクターにない
自分自身はすでに、これ以上なく上がっているらしい。
俺と〈サニ〉は顔を見合わせて、また「はぁ」とため息をはくしかない、もっとゆっくり作業して良いんじゃないのかな。
だけど今の〈サト〉さんは、そんなことに全く耳を貸さないだろう。
自分の技術が認められて、それで大金が入ってくるんだ、あふれるようなやる気しかないと思う。
あふれた情熱が、俺にも降りかかってきている、〈サニ〉も被害者だ。
服が完成するまで、ノーブレーキで疾走する、まるで暴走列車だよ。
見えないけど〈サト〉さんの頭から、しゅぽぽと大量の湯気が噴出されているに違いない。
〈サト〉さんはとても頑張った、そして俺と〈サニ〉もブツブツ言いながらも、かなり頑張った。
「あははっ、完成しましたよ」
すごいテンションだ、あまり寝てないせいもあるようだ。
「お母さん良かったね。 だけど少し怖いよ」
〈サト〉さんが大きな声で
「本当に良かったです。 それじゃその服を納品してきます」
「そうはいきませんわ。 実際に着てもらい、微調整する必要があります。 連れてきてくだいませんか」
うわぁ、言葉は
俺はまた〈アヴェの町〉にある、パステル色をしたペンション風の建物、ムキムキのおっさんが生息している〈太陽の薔薇〉のアジトに行くはめになった。
スローライフを探して、町から町へ旅をするつもりだったのに、最初の町へまた戻ってきているぞ。
やっかいな親子に関わってしまったな。
〈太陽の薔薇〉に事情を説明すると、「それはそのとおりだわ」と直ぐに渡船に乗ることになった。
この人達は〈交易都市クダート〉に行くと言ってたはずだけど、どうなっているんだ。
〈太陽の薔薇〉が完成した服を着て、〈サト〉さんがそれを微調整している、実際に着ると
明るい原色を多用しているせいだろう。
〈太陽の薔薇〉のメンバーは体格が大きいから、これじゃ死ぬほど目立ってしまうぞ。
派手なムキムキなおっさんに、何の需要があるのだろう。
よくこんな服を着られるな、俺には無理だし、絶対に着たくない。
「うおぉぉ、イケてるわ」
「しゃぁぁ、派手よ。 派手なのよ。 すんごく派手で良い」
「ごおぉぉ、これよ。 これ。 これがおしゃれん」
うわぁ、野獣の
「あ、あの。 これでよろしいでしょうか」
〈サト〉さんのテンションは恐怖のためだろう、急激に
そりゃそうなるよ。
「あはん、良いに決まっているわ。 私達の歓喜の声が聞こえなかったの」
嘘だろう、あれは歓喜だったのか、そうは聞こえなかったぞ。
「そ、それと、余った端切れはお返しします」
「はぁ、そんなの返してもらっても困るわ。 悪いけど処分しておいてね。そ れよりも、せっかく〈ツィアの町〉に来たんだから、ラメンサ貝を食べたいわ。
誘いを断る勇気は俺達にはなかったから、ぞろぞろと連れ立ち食べに行くことになった。
繁華街を歩くと、目立つこと目立つこと、道行人がみんな俺達を見てくる。
正確には、〈太陽の薔薇〉とその着ている服をだ。
「ふふん、気分は
「本当ですね。 じっと見られています。 少し自信がつきましたわ」
なんの自信なんだろう、派手な服である自信なのか、それなら俺も認めよう。
まあ、自信がないよりあった方が良いに決まっている。
自信が持てたせいか、〈サト〉さんの背がスッと伸び、胸を張って歩いている感じだ。
もう猫背で、どんよりと暗い顔をしていない、笑顔もかなり増えてきている。
それと思っていたよりも、〈サト〉さんのおっぱいは大きいんだな。
胸を張っているからそう見えるのか、それか最近は栄養を十分とれているため、元の大きさに戻ったのかもしれない。
「そうよ。 あなたが作った服は、とても派手で、最高におしゃれん」
その語尾は止めれ、まさか自分が可愛いとか、思っていないだろうな。
おっさんのくせに、そう思っているのなら、今直ぐ消えてしまえ。
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