第16話 おならみたいな返事はよして

 「焼いたのが美味しいらしいな? 」


 俺の服も派手だし、リーダーは服も存在自体も目立つから、道行く人がガン見してくるぞ、ジロジロ見られたくないよ。

 俺はスローライフが希望なんだ、ひっそりと生きたいんだぞ。


 「ううん、焼いたのも良いけど、酒蒸さかむしが最高よ。 ムシムシたまらないわ」


 無視したいところだけど、出口を教えてほしいし、もう歩きたくないんだ。


 「えぇっと、出口はどこでしょう? 」


 「きゃははっ、大当たりのズバコンね。 ただし、条件があるわ。 そのイケてるシャツを買ったお店を教えなさい」


 また意味不明なことをはくな、イケてるって言うのも分からん。


 「はぁ、このつぎはぎの服のことか? 」


 「もぉ、〈ゆうまちゃん〉、おならみたいな返事はよしてよ。 そのシャツでズバコンよ」


 少し危険はあると思ったが、迷子はもう嫌だったので、俺は、〈太陽の薔薇〉のリーダーに手をつながれて市場を出ることが出来た。


 「手を繋ぐ必要はないんじゃないかな? 」


 うぅ、手が分厚くて脂脂あぶらあぶらしているのが、とても気持ち悪い。


 「はぁ、何を言っているのよ。 直ぐ迷子になるくせに」


 宿につくなり、〈太陽の薔薇〉のリーダーが、まごつく〈サト〉さんに、悪魔のような凶悪な顔と声で、パッチワークの服を見せろと脅迫きょうはくし始めた。


 俺は止めようとしたんだけど、腕の一振だけで、ボンと後方へ弾かれてしまう。

 なんという怪力なんだ、〈豚鬼〉の何倍もあるぞ。


 〈サト〉さんは泣きそうになりながらも、旦那さんの服を決死の覚悟で持ってきたが、その体はブルブルと震えている。

 すごく怖い思いをさせてしまったな、俺が迷ったせいで、本当に申し訳ないです。


 「おぉぉぉ、これは最高におしゃれじゃない。 色の配置が素晴らしいわ。 派手なのがイカしているん」


〈太陽の薔薇〉のリーダーが、〈サト〉さんが作ったパッチワークの服を握りしめて、雄叫びあげている状況だ。


 この語尾はなんだ、許せない。


 「いい加減にしろよ」


 俺は怒ってみたのだが、何も聞いちゃいねぇ。


 「ねぇ、奥さん、私にもこんな素敵な服を作ってよ。 前金で払いますから、ね」


 「はぁぁ、服なんですか」


 「えぇ、そうよ。 だから服を見せて欲しいと言ったでしょう」


 「そ、そうでしたね。 ただ端切れが無いのです。 かなり待っていただく事になります」


 「うふふっ、その心配は不要だわ。 端切なら一杯持っているから、私も服を作っているのよ」


 「そ、そうなんですか」


 「そうなのよ。 〈ゆうまちゃん〉、端切れを一緒にとりに行くわよ」


 「えぇー、俺は良いです」


 「少しも良くないわよ。 誰が奥さんに届けるのかしら」


 言い争いをしても、俺では勝てないと分かっていた、だって迷子だもん。

 それに服が売れるのは、とても喜ばしいことに違いない、誰に売れたかなんて、この際どうでも良いだろう。


 「分かりましたよ」


 〈サト〉さんは恐る恐る採寸をしている、まるで初級冒険者が〈豚鬼〉に組みついているように見える。

 〈サト〉さんの勝算はかなり薄いと思う、体格が圧倒的に違うからな、頭がリーダーの胸までしかないぞ。


 だけど、〈サト〉さんは負け無かった、採寸しているだけだし当然ではある、俺の例えが間違っていたよ。


 「凄腕のあんちゃん、トンボ帰りか。 わははっ、それにしても派手な服を買ったな。 似合って無いけど、変質者よりかは少しマシだな」


 「はぁん、嫌だいやだ。 中年のジジイって、どうして、こうセンスが壊滅的なのよ。 どうしようもないわね」


 「ちっ、薔薇のリーダー、言い過ぎだろう。 俺はまだジジイじゃない」


 船員さんはセンスよりも、ジジイじゃない方が大事らしいな、俺も全面的に賛成だ。


 「ふん、それならイケてる服を着なさいよ。 まっ茶色じゃ泥と見分けがつかないわ」


 仕事中じゃしょうがないだろう、無茶を言うよ。


 「もう止めようよ。 おっさん同士が、いがみ合ってどうするんだ」


 「きぃー、私はおっさんじゃないわ。 よく見なさいよ」


 「リーダーの言うとおりだ。 俺はまだ40だから、おっさんじゃねぇ」


 「二人とも十分に、おっさんじゃないか、現実を直視しようよ。 自分を偽っても悲しいだけだ」


 「〈ゆうまちゃん〉の方が、おっさんよ」


 「あんちゃんこそ、おっさんじゃねぇか」


 二人とも意味不明なことを言っていたが、冷たく無視をして、タダ券を見せ俺は渡船に乗りこんだ。


 おっさんのじゃれ合いに、これ以上つき合っていられない、俺までおっさんになってしまう。


 「へぇー、〈ゆうまちゃん〉は永久タダ券を持っているのね。 どうやったの」


 はぁ、俺が不正して手に入れた感じで言うなよ、人聞きが悪いだろう。


 「あぁ、それはな。 あんちゃんがエグイことをしたんだよ。 まあ、おかげで渡船は復活出来たんだけどな」


 「うわぁ、やっぱり。 超ド級のエグイことをしたのね。 聞きたくない話だわ」


 俺の記憶では、新技〈絶対高温・嘘〉を発動して華麗に活躍したんだぞ、そこは聞いてくれよ。




 〈アヴェの町〉にある、〈太陽の薔薇〉のアジトは、ピンク色の薔薇のアーチが素敵なペンション風の建物だった。


 三階建ての建物は淡い水色に塗られ、出窓ではレースのカーテンが揺れている、全体がメルヘンしている感じだ。


 予想どおりと言えばそうだろう、意外と言えばそのとおりだな。


 〈カイ〉が軟禁されたまま、いじられ続けてなく、本当に良かったよ。

 心を壊されてしまった少年は見たくない、男のあえぎ声は聞きたくない。

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