第15話 あなた迷子になっているのね

 〈サニ〉はお腹一杯になったからか、もう寝てしまったので、俺と〈サト〉さんは、薬草茶を飲みながら雑談をしている。

 他に何もすることが無くて、まだ夜は浅い時刻だ。


 「ふふっ、こんなにお腹一杯食べたのは、久しぶりなんですよ」


 〈サト〉さんは、ガツガツと食べているのを俺に見られたから、もうぶっちゃけている感じだ。

 いまさら取り繕とりつくろっても、しょうがないんだろう。


 「宿が上手くいっていないのですか」


 こんな立ち入った事を聞いちゃいけないのに、俺は流れでつい聞いてしまった。

 ますます〈サト〉さん親子に、深入りしてしまってどうするんだ。


 「そうなんです。 夫が亡くなってから、一人で頑張っていたのですが」


 〈サト〉さん夫婦は何らかの事情があって、故郷から遠く離れたこの町で、魚料理が売りの民宿を始めたようだ。


 旦那さんが生きている間は、上手くいっていたが、〈サト〉さん一人では無理だったらしい。

 漁師を兼業している旦那さんがいなくなっては、新鮮で安価な魚を手に入れられるはずがない。


 「しょうがないので、趣味のパッチワークで何とか出来ないかと思ったのですが。上手くいきませんでした。 近所の方に何着か買っていただいたのですが、みんな生活に余裕があまり無いのです」


 「そうですか。 それはそうでしょうね」


 俺はどう言ったら良いんだ、適当なあいづちを返すことしか出来ない。


 それにせたせいか、〈サト〉さんの服がかなりゆるくなっている。

 服の隙間から白い肌がチラリと見えてしまうんだ、動くたびにくたびれた下着もチラチラと見える。


 うーん、やつれた女性って、どうしてこんなにエロいんだろう。


 古くなりダランと伸びた下着は、リアル過ぎて、やけにそそるものがある。

 押し倒せば、直ぐに諦めて簡単にやれる、と男の本能がささやいてくるからだ。


 あらがう体力もとぼしそうだ。


 とても困っている今なら、ちょっとしたものを与えれば、それが欲しくて体を開いてくれると想像出来てしまう。


 困ったことになっているな。


 おまけに、若くして未亡人になっているんだぞ、怒るはずの夫はもういないし、夜が寂しいと思っている可能性も高い。


 「少しは自信があったのですよ。 ははっ、笑っちゃいますね。 口コミで評判を呼ぶんじゃないか、と甘い考えを持っていたのですが、全然ダメでした。 他にどうしようも無いので、〈サニ〉が売ろうとしてくれているのですが、私の心は折れてしまったままなんです。 困った母親ですね」


 「うーん、〈サニ〉は良い子ですが、〈サト〉さんも頑張っているじゃないですか」


 うわぁ、〈サト〉さんは結構ギリギリかもしれないな。


 「こんな女の愚痴ぐちを聞いてもらって、ごめんなさい。 ふふっ、でも〈ゆうま〉さんに話を聞いてもらって、とても気が晴れました。 ありがとうございます」


 「ははっ、俺は何もしていませんよ」


 「うふふっ、そんなことは無いです。 一杯していただきました」


 「そうですか? 」


 「そうですよ。〈ゆうま〉さんは、不思議な方ですね。 まだ合って一日なのに、そう思えないくらいです」


 〈サト〉さんは俺に何を伝えようとしているのだろう。


 だけど、まだ一日だけだ、冒険者は無暗むやみに飛び込んだりはしない、手が届きそうなおっぱいだったとしてもだ。


 それに、〈サト〉さんは痩せ過ぎているから、裸を見ればとても悲しくなると思う。


 「そうですか、バカだとはよく言われますが」


 「いいえ、〈ゆうま〉さんはバカじゃありません。 そんなことを言う人の方こそバカです」


 俺にバカとよく言うのは、嫁の〈いろは〉だ、言われると腹立たしいけど、懐かしくもある。


 「バカを否定してもらい、ありがとうございます。 すみませんが、もうそろそろ寝ます」


 「あっ、こんなに遅くまで、すみません」


 俺はキルトのベッドカバーの部屋でよく眠ったと思う、当然ながら甲板ではよく眠れなかったんだ。


 〈サト〉さんが用意してくれる、この町の名物を食べるために、俺はもう一泊する事にした。

 自分の心に問いかけたら、下心は少ししかないと言っているので、問題はないだろう。


 理由は分からないが、俺の第六感は働かなかった。


 この町の名物は大きなハマグリみたいな貝で、ラメンサ貝と言うらしい、海でとれるのになんにでも河の名前をつけるんだな。

 しかし女神の名前をかんしているだけあり、殻付からつきのままで焼くと絶品みたいだ。

 ハマグリに似ているのならそりゃ美味いだろう、俺でも容易に想像がつく。


 そうなると、貝にあう酒が欲しくなるな、市場へ行って買ってこよう。


 祭礼の日じゃないし、〈サニ〉の案内はいらないと思ったのだが、一発で迷子になってしまった。

 俺は焼酎みたいな酒のびんを抱えて、市場をうろつき回っている、出口はどこだ、情ない。


 「あら、〈ゆうまちゃん〉じゃないの。 あははっ、あなた迷子になっているのね」


 うわぁ、〈太陽の薔薇〉のリーダーじゃないか、どうして一発で迷子と分かったんだろう。


 「うぅ、どうしてここに」


 「渡船が復活したから、名物のラメンサ貝を食べに来たのよ。 今がしゅんだしね」


 リーダーの服は、シャツが真っ赤で白いストライプが入っている、ズボンは真っ黄色だ、さらにシャツもズボンもピチピチしているぞ。

 婚姻色こんいんしょくになった魚のよう見える、ただただ目立つとしか言いようが無い。

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