第11話 変質者とはおサラバ

 「ひぇー、これはエグイな。 あんちゃんはすごい冒険者だったんだ。 よし、これで渡船は復活出来るぞ。 あんちゃんは一番の功労者だから、これから渡船は一生タダにしてやるよ」


 船員さんは喜びすぎたのか、俺の背中をバシバシ叩いてくる、そんな友愛はいらないよ、痛いだけだ。

 それしても一生タダか、ちょっともらい過ぎのような。


 ただ即決出来るって事は、この船員さんは思ったよりもお偉いさんだったんだ、河を渡れないのは、それほど危機的なことだったのかもしれない。

 ありがたいのはありがたいけど、日当を倍に上げて欲しかったな、渡船よりお金の方が俺は好きなんだ。


 「うわぁー」

 やっちまった、体がもっていかれる。


 金に意地汚いのが悪かったのか、普段の行いが悪いのか、最後に突いた銛に〈魚鬼〉が引っかかってしまった。


 依頼を達成して、カッコ良い技も開発出来たため、集中力をき油断をしていたんだ。

 くっそ、このままじゃ河に引きずられてしまう、〈魚鬼〉は2メートルもある巨大さだ、銛と一緒に俺を河へ引きずりこむ力をゆうしている。


 「おぉっと、危ないな、あんちゃん」


 船員さんにささえられて、何とか落ちないですんだ。

 そして力を合わせ〈魚鬼〉を船に引きづり上げることに成功した、ふぅー、危なかったし、重かったな。


 「あんちゃんは、思いつかなかったらしいが。 危ない時は銛から手を離したら良いんだぞ」


 あー、命の危険があったと言うのに、俺は少しもそれを考えなかった、バカなんだろうか。

 心の底からバカなんです。


 俺は足から力が抜けて、ヘナヘナと膝をついてしまった。

 そしてそれを待ってたように、〈魚鬼〉が俺に噛みついてくる。

 反撃するチャンスを、ぐったりとした演技で待っていやがったんだ。

 違うかもしれないが。


 「ひやぁ」


 俺は何とかそれをわしたが、少しわしきれずに、着ていた服を咬み千切かみちぎられてしまった、くっ、ビリビリだよ。


 「ぎゃはは、そんな半裸状態を女に見せたら、キャーキャー言われるぞ。 変質者がここにいるって。 そして牢屋にぶち込まれるんだな 。出来るだけ早く服を買えよ。 すご腕で、カッコ悪い、あんちゃん」


 「はい、そうします(涙)」



 対岸の港湾都市〈ツィア〉に、俺は疲れ果てながらも、ようやく到着することが出来た。


 〈魚鬼〉の群れに襲われた影響で、渡船で一夜を明かすことになってしまったんだ。

 甲板の上で眠るのは痛かったし、支給されたパンも固かった、それしか無かったし。


 ただ良い事もあった、木製の一生使えるタダ券はもらったし、〈魚鬼〉の肉もいただいた、見た目はアレだけど普通に食べられるらしい。

 食べる機会はこれが最後かもしれないから、もらっておくことにしたんだ。


 桟橋を降りて、町へ入ると沢山の視線を感じる。

 服がビリビリに破けているため、町の人がこっちをジロジロ見ている、あぁ、タダ券よりも服が欲しかったな。


 「なんだ、あれは」

 「目を合わしちゃダメよ」


 うぅ、変質者と間違われないうちに、なんでも良いから、早く服を買いたい。

 だけど、服を売っている店が無いな、もっと繁華街に行かいと、無いのかもしれないな。


 でもそれでは、もっと大勢の人に半裸が見られてしまう、もっと変質者に間違われる可能性が増えてしまう。


 困ったな、んだかも。

 俺は周囲を見渡して、どこに行けば良いのか考えていた。


 「ひぃ」

 「うわぁ」


 繁華街への道をたずねたいけど、なぜか俺が近づくと、みんな逃げるように去ってしまうんだ。

 〈魚鬼〉の肉が生臭いのかもしれない。


 だがどこにでも、変わり者はいるようだ、10歳くらいのせた少年が俺に話かけてきた。

 変質者に自分から近づくとは、この少年の思考は少しおかしいようだ、気をつける必要があるぞ。


 第六感はそう働いていたんだが、それにかまっている余裕は俺にはなかった。


 「おじさんの服、やぶけているね。 このマントを買ってくれないかな? 」


 路上でマントを売るなんて、いよいよ怪しいが、半裸の俺なら高値で買うと思いやがったのか、こいつ。

 それは大正解だ、子供のわりに頭の回転が速いぞ、普通に感心してしまう。


 だけど少年の持っているマントは、良く言えばパッチワークだ、けど、悪く言えば雑多な端切はぎれを縫い合ぬいあわせたものだ。

 つぎはぎだらけのマントにしか見えない。


 端切れが綺麗だったら、マシなんだろうが、地味な色だから汚い感じにしか見えないな。

 これはちょっと売れないだろう、着ている人の感情まで、地味で情けなくなりそうだもの。


 「おぉ、買うぞ。 今直ぐ買いたい。 早く売れよ」


 今の俺には選択肢なんかあるはずもない、銀貨三枚と言われてもだ、絶対に買ってやるぞ。


 「ち、ちょっと待ってよ。 えぇっと、銅貨十枚になります」


 へっ、それにしても安いな、〈魚鬼〉の二年物と同じじゃないか、千円にもならないぞ。

 この少年は全然しっかりしてない、この状況じゃ良心的すぎる価格だ、だがありがたい。


 「なんでも良いから、早く売ってくれよ」


 「あっ、分かりました。 ありがとう」


 俺は少年に銅貨十枚を渡して、つぎはぎだらけのマントを羽織はおった、これで変質者とはおサラバ出来た、きっともう立派な紳士だろう、ふぅー。


 「おじさんは、渡船に雇われた冒険者なんだね」


 「あぁー、おじさんじゃない、お兄さんだ」


 25歳をつかまえて、なんて事を言いやがる、ショックじゃないか。


 「へっ、気にしているんだね。 それじゃ、お兄さん、今日の宿はどうするの? 」


 気にしてなんかないわ、ひたいに手をやって確かめてみたけど、充分フサフサしてたぞ。


 「まだなんにも決めていないな。 んー、なぜ俺が渡船に雇われた冒険者だと分かったんだ」

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