人よ明日を夢見ろ②

ゴブリン相手に双剣を使った連続技を叩き込むのにも慣れてきたところで俺は一度ログアウトし、睡眠を取ろうとしていた。


「にしても金の亡者が多いというか。攻略情報の一つも落としてくれないとはね」


このゲームに関する情報は極端に少ないその理由は意味深な設定にある。


「またいつ攻勢に移れるかわからない、なんて曖昧な理由からクリア者が出ない期間が一定以上続けば敗者復活もあり得るとか噂あるらしいしな。そりゃ1億チャンスは逃したくないか……」


ごく稀に本当の情報を出してくれるものも存在するが、その他の偽情報によって上書きされるというのが現実だ。つまりこのゲームの攻略法は自分で見つけるしかないということであった。


「人によっても装備の感触とか違うらしいし、個別シナリオによって入手できる武具もあるって噂だし楽しみですなぁ」


翌朝、純也は起きて早々『エデンの果実』にログインする。


「今日はノーマルクエスト一つ目を終わらして、報酬の防具を入手しなきゃな」


ノーマルクエスト、果てなき道への一歩のクリア報酬には対応した防具一式と書いてあった。とりあえずはこの防具を入手して二つ目のクエストに挑むというのが一般的な流れだとSNSで言われていた。情報が確かだとは思っていないが、初心者クエスト達成時に防具の報酬をもらえるっていうのは定番だし可能性はあるので1週間かけてその可能性を確実に潰す。


そうして俺は白髪の老人が指示する通りに技を出す。通常攻撃や連撃、投げナイフも使う絡め手、パリィなんかをこなしていった。そんな中で俺が面白いと思ったのは、このゲーム特有のシステムの一つであるupゲージだ。そのシステムはプレイヤーだけでなく敵エネミーにも適応される。要は攻撃を入れまくるとゲージが溜まる。これが一定以上貯まると攻撃力が上がったり限定スキルの発動が可能になるらしい。中でもパリィで上がるゲージ量は以上に多い


「パリィ前提のゲームの可能性もあるな。いやパリィ苦手なら安心安全の遠距離武器を使おうってことかな?」


事実、遠距離武器は近距離武器とは違い初期火力設定が高い。しかしパリィをすることができないので限定スキルを絡めた瞬間的高火力を出すことに向いていない、という感じだ。


以上を通して俺は思った。これ遠距離で楽すんなよという公式からのメッセージでは?

一億という賞金をかける以上、ゲームとしての名前を売ろうとしている可能性もある。でもそれだけじゃない気がする。なんていうかなぁ


「作者の愛があるタイプのゲームな気がするんだよなぁ。だってこのゲームの製作者は高次優だしなぁ」


ゲーム業界の異常な発展をもたらした、高次優には有名な話が二つある。一つは自信過剰だという話、自分の仕事に異常な自信を持つが故に自身の責を一切認めない。事実、高次優が創るゲームには調整が難しいと言われるフルダイブ型ゲームにも関わらずバグなどの報告が一つもない。だからこそ自分の仕事は全て完璧であると疑わないらしい。もう一つは異常なまでの物語への執着があるという話だった。そんな高次優の作ったゲーム『エデンの果実』には当然本人が求めるストーリー性というものがあるはずだ。


「……ここまで露骨な近距離有利調整は流石に物語の進行上、近距離必須ってことだよなぁ……」


元々純也はそこそこゲームをプレイする側の人間である。だからこそ自由度の広がったフルダイブ型ゲームではごく稀にあるのだ。近距離を強制するようなゲームが。


そしてこれは経験則でもある。純也のプレイした、高次優のゲーム『火の拳』ストーリータイプの格ゲーであり、キャラやボス一体一体にストーリーが存在し、特殊能力を持っていた。例えば火を吹けるといった超能力を持つキャラも存在する。


問題はその制御できる理由であった。火や雷を制御することができるのは、キャラのトラウマによるものが大きいという設定だった。例えば火を使えるキャラは昔、顔に大火傷を負ったことがあるといった具合にキャラのトラウマを更にえぐるチクショーゲームに仕上がっている。誰が嬉しくてトラウマほじくり返されなきゃいけないんだよ。


俺の心を一番えぐったキャラであり1番の胸糞は事故で足が動かなくなったキャラ「ルリ」である。攻撃方法は自分の足が動かなくなった原因である、自動車のエンジンを元にした高火力パンチである。ストーリー上で自分の仲間を救えた力と大怪我をした自分の仲間を救ってくれた文明の力である自動車によってトラウマを克服し、力を失ったがそれ以降も皆んなの役に立つためにサポートに尽くしてくれた。「ルリ」お前が神だ。本当に


そんなこっちの心を削ってくる『火の拳』は確かにストーリーはすごく良かった。何度も泣いたし、何度も感情移入させられた。


ならば何故エデンの果実を近距離有利調整だと疑っているのか。その理由はこのゲームをプレイすることで得た経験が活きる。


作品を優先するあまり、キャラ差が激しすぎたことである。そのシナリオのストーリーに適しているキャラを選べば、1章あたり3時間程度終わるが適していなければ10時間以上かかるという以上っぷり、それを全キャラ12章はちょっと笑えない。それを知っているからこそ、余計に純也は近距離を選ぶ方が良いに決まっていると思った。そしてこんな細かな設定やフラグを気にしなきゃいけないの?と恐怖したことを伝えておこう。






あとがき

upゲージはト○イブナインのテンションゲージを想像してください。あのゲームほどエネミーのゲージ溜まるの早くないけど。にしてもあのゲームえ○きちゃんとつ○子ちゃん強すぎでは?40連2枚抜きは熱い


設定語り

『火の拳』

皆さんにイメージして欲しいのはスト6とかですかね。あれをストーリー特化にしたものと思ってください。ちなみにトラウマが力にっていう設定は自分の書こうとした小説の設定だったりする。じゃあ何故書かないかって?

メンタル的に狂ってる時しか出てこない設定だと気付いたからさ。






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