第50話 最終試練06

これで思いは全て受け取ったよ。


——そう思った瞬間、また、追加のいちご牛乳が降ってきた。

空から どーん とまるで祝福のように降り注ぐ。



しずくは、ぽかんと空を見上げた。


「はは……ゆうくんったら。」


彼の思いが、まだまだ こんなにも溢れている なんて。

彼の「しずくへの想い」が形になったように、いちご牛乳は絶え間なく降り続ける。


「ねぇ、ゆうくん。」


しずくはそっと目を閉じた。


「ありがとう。私のこと、こんなに想ってくれて……。」


——僕は、しずくが好きすぎて、思いが強すぎて怖いって。


ゆうくんは、そう言っていた。

それほどまでに 強い感情 を、私だけに向けてくれている。


「私もね……ゆうくんが、大好きだよ。」


しずくは、両腕を広げる。

まるで、降り注ぐいちご牛乳を すべて抱きしめるように。


ゆうくんの想いを、全身で受け止めるために——。


「こんなにたくさんくれるんだね。」


いちご牛乳は、しずくにとって 生きるのに必要なもの になった。

ただの飲み物じゃない。

ただの栄養でもない。


——これは、ゆうくんの 愛。


彼が私を想い続ける限り、決して尽きることのないもの。


「ゆうくんは言ったよね?」


——しずくなら大丈夫だって。


だから、私は諦めない。

ゆうくんの想いを、ちゃんと 受け止める って決めたから。


「うん、わかってるよ。」


しずくは 最後の願い を、そっと心の中で唱えた。


——ねぇ、ゆうくん。

私のすべてを満たして。


目も、耳も、鼻も、喉も、口も——私のどこにも隙間がないくらいに。


「そうすれば……ずっと一緒だよね。」


しずくは微笑んだ。

それは、満ち足りた笑顔だった。


そして——


ゼリーが、とんできた。


やわらかく、温かく、しずくの全身を包み込むように。

じわり、じわりと、ゆうくんの思いがしずくの奥へと染み込んでいく。


「んっ……ふふ。」


身体の中に流れ込む ゆうくんの気持ち を、しずくは 穏やかに受け入れた。


音が消える。

視界が白に染まる。


——揺れる世界。


ふわりと浮かぶような感覚に包まれながら、しずくの意識は ゆっくりと深い場所へと沈んでいった——。



---


——意識が混濁し、しずくは白い世界に浮かんでいた。


まるで重力が消えたように、身体はふわりと宙に漂っている。

目を開いても、広がるのはただの白。

音も、感覚も、すべてが遠のいていく。


「……ああ、私、死んじゃったんだ。」


不思議と、怖くはなかった。

むしろ、心は 穏やかで満ち足りていた。


「これが、死後の世界……?」


ふと頭に浮かんだのは——


いちご牛乳。


そして、ゆうくんの思い。


それをすべて受け取ったことを、しずくは確信していた。

どんなに強くても、どんなに濃くても、私は 最後まで受け止めた。


——思いは共鳴し、私たちは繋がっている。


だから、私は 幸せになれた。


「間違ってないよね……?」


静かに問いかける。


「だって、あんなに愛してもらえた。

私が ゆうくんの世界で一番好きな女の子 だって、証明できたんだから。」


——だから、もう 思い残すことなんて、何もない。


こんなに幸せなのに、何を願うことがあるんだろう?


ふと、自然に笑みがこぼれる。


——振り返れば、ゆうくんの いちご牛乳 を飲んでからの道のりは、長かった。

最初は とても飲めるものじゃない って思った。

でも、こうして 私は変わった。


「飲んでみて。」


——ゆうくんがそう言ったから、仕方なく飲んだ。

ただ、それだけだった。


だけど、気づいたんだ。


いちご牛乳は、ただの飲み物なんかじゃない。

それは、ゆうくんの想い、そのもの だった。


「飲まなきゃ」 と思っていたのが、「飲んであげたい」 という気持ちに変わる。

そして——


もっと飲みたい。

もっと、もっと……。

どこまでも、深く、彼の想いを受け入れたい——。


気づけば、もう これなしじゃ生きられない くらいに。


それほどまでに、ゆうくんを 愛してしまっていた。



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