第31話 しずくの食卓

最近、しずくは 熟成いちご牛乳を毎日1リットル 飲んでいた。

それだけでは足りず、食事のたびに いちご牛乳を摂ることが当たり前 になっていた。


その日も、母親のみつきと 夜ごはん を食べている最中だったが、

しずくは いつもと変わらない様子 で、いちご牛乳を手にしていた。



---


「はぁ、おいしいよ……」


しずくは 恍惚とした表情 で、

グラスに入った いちご牛乳をゆっくりと口に運ぶ。


みつき「しーちゃん、本当にゆうくんのいちご牛乳が好きね。」


食卓には ふんわりとした甘い香り……

というより、少し 発酵したような独特の匂い が漂っていた。


みつきは (これ、結構クセがあるのよね……) と思いながらも、口には出さなかった。



---


「ねぇ、お母さん。ご飯にいちご牛乳かけていい?」


みつき「ええ……? ご飯に?」


驚きながらも、

みつきは しずくの好きにすればいいわ という表情を浮かべた。


みつき「しーちゃんの好きにしていいけど、本当に変わってるわね……。」


娘の行動に 疑問を感じつつも、恋をしている年頃 ならではの 盲目的な熱中 だと思った。


好きな人のことを ずっと思っていたい――


その気持ちは みつき自身にも覚えがあった。

だからこそ、今のしずくに 口を出すのは違う気がしていた。



---

しずくは たっぷりとキャベツにいちご牛乳をかけた。


とろりとした液体が 葉の隙間に入り込み、

シャキシャキしたキャベツを 完全にコーティングしていく。


しずく「んーっ! キャベツの甘みが引き立つ! シャキシャキ感と、ねっとりとした口当たりのコントラストがたまらない……!」


みつき (たまらなくないわよ……)


娘の 熱狂ぶり を見て、みつきはそっと 口を閉じた。



---


「とんかつにも、合うよ!」


次に、しずくは とんかつ を いちご牛乳に浸し、口へ運ぶ。


ねちゃぁ……


……衣の隙間から糸を引くのが見えた。


みつき (……喉が詰まりそう。)


しずく「私、油っこいものは苦手なんだけど、いちご牛乳が油っこさを緩和してくれる!」


しずく「衣がいちご牛乳を吸って、ザリザリした食感がぬるぬるになって、お肉のくちゅくちゅ感と合わさって、めちゃくちゃおいしい!」


みつき (すごい食レポね……)



---


ついに、しずくは ご飯にいちご牛乳をかけ始めた。

まるで お茶漬け のように いちご牛乳漬けにしてかきこむ。


そして――

味噌汁にも、いちご牛乳を投入した。


スプーンで すくい、ゆっくりと口に運ぶ。


しずく「じゅるる、じゅるる……ああ、ゆうくんの味だ……!」


しずく「全部、ゆうくんの味になった……嬉しい!」


満たされたような 表情 を浮かべ、

喉を潤すために いちご牛乳のグラスを手に取る。


ごくり……。



---


「恋の力って、すごいわね……」


みつきは 娘の姿 を見つめ、

驚きを通り越し、感心すらしてしまう。


みつき (ここまでくると、そんなに美味しいのかと思えてくるわね……)


だが――


以前、試しに飲んだときの 強烈な記憶 を思い出し、

みつきは そっと首を振った。


(いや、絶対にあの味よね……)



---


しずく「お母さん! とっても美味しくなったよ!」


しずく「なんか、ゆうくんの味がしないと物足りなくて……。」


みつき「ええっ!? そ、そうなんだ……。」


娘の 言葉の重み に少し 引き気味 になりながらも、

みつきは改めて 娘の恋心の深さ を 実感 する。


しずく「お母さんも、試してみたらわかるよ!」


みつき 「お母さんは、ちょっといいかなー、あはは。」


みつき 「ゆうくんのいちご牛乳をしずくから取ったら悪いしね、あはは。」



---


しずく「そうだよね! お母さん、ありがとう!」


しずく「ご飯、美味しかったよ! ごちそうさま!」


みつき (あれで、美味しかったと言われても……)


思春期は 複雑だなぁ…… と思いつつ、

みつきは 静かに食事を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る