第25話 上級試験
しずくは、ここ最近、毎日500ミリリットルの特製いちご牛乳を飲んでいた。
最初は苦痛だったのに、今ではすっかり慣れ、むしろ「ちょっと足りないかも」と思うほどだった。
そんなある日、ゆうくんから「上級試験」の連絡が届いた。
「上級試験の内容だけど、熟成いちご牛乳を1リットル飲むことだよ。」
テーブルには、巨大なトロピカルグラスが置かれていた。
中にはどろりとした濃厚な熟成いちご牛乳がたっぷりと注がれている。
しずくは思わず「わぁっ……」と声を上げた。
まるで巨大なスイーツパフェを目の前にしたかのような気持ちだった。
「特製いちご牛乳をさらに熟成させてるから、濃度が上がってるよ。」
ゆうくんが説明を続ける。
「味や匂いはもちろん、ゼリーも大きくなってるし、トッピングとしてフレークが追加されたんだ。ちょっとしたパフェみたいなもんだね。ストローとスプーンを使って食べていくんだけど、フレークはそのまま食べてもいいし、中に入れてもいいよ。」
「すごい……!」
しずくは思わず感嘆の声を漏らした。
「最近、500ミリリットルでも足りないかもって思ってたんだよね。ふふ……昔はあんなに嫌だったのに。」
くすくすと笑いながら、続ける。
「今日が楽しみで朝から何も食べてないんだよ。空腹にしとかないと、もし吐いた時に困っちゃうし。」
「はは、それも考えてるんだね。」
ゆうくんは優しく微笑んだ。
「でも、無理しなくていいからね。ゆっくり飲んで大丈夫。全部飲んでくれたら嬉しいけど、もしダメだったら諦めてもいいから。」
「ううん、大丈夫。私は絶対に飲むよ。」
しずくは巨大なグラスをじっと見つめ、決意を固めた。
まずは、じっくりと"観察"する。
熟成いちご牛乳は、乳白色の薄いピンクに、ほんのりとした黄色が混ざった色をしていた。
ゼリーの塊はぬるぬると光沢を放ち、フレークがところどころ浮かび、茶色がアクセントになっている。
「……きれい。」
自然と、ぽつりと呟いた。
次に、スプーンで軽くかき混ぜる。
どろっ……たぷんっ……。
グラスの内壁に液体がまとわりつき、粘り気をもってゆっくりと落ちる。
そして驚いたのは、ゼリーの性質だった。
──液体がないと、グラスの壁に張り付き、落ちない。
──液体に触れると、じわじわと滑り落ちる。
──半固形のゼリー同士がぶつかると、くっついてさらに大きくなる。
──そこにフレークも絡みつき、"新たな塊"が生まれる。
まるで"生きている"かのように、形を変えていく。
思わず、しずくは目を輝かせた。
「……すごい。」
この新しいいちご牛乳の"可能性"に、子供のようにワクワクしてしまう。
「さて、どれから食べようかな……。」
悩みながら、スプーンでゼリーをすくい、一口。
──ぬちゃっ……ぐちゅっ……。
どろりと口の中に広がり、咀嚼するたびにぐちゃぐちゃと音を立てる。
ゼリーの弾力が舌を押し返し、ストローでいちご牛乳を吸うと、一緒に流し込まれていく。
──とろっ……どぅるんっ……。
のどをゆっくりと滑り落ちていく感触が心地よく、全身にじんわりと広がる。
「……はぁっ。」
ふっと息を吐く。
その瞬間、**ビクンッ……!**と、身体が震えた。
「……なに、これ。」
身体の奥から、何かが込み上げてくるような感覚。
"いちご牛乳の思い"が、全身に行き渡っていくようだった。
次はフレークを単体で。
──サクッ……サクッ……。
「んっ……。」
見た目通りの軽い食感。
けれど、口の中で広がるのは、強烈な発酵臭とチーズのような濃厚な香り。
「っ……!」
一瞬、えづきそうになる。
単体で食べるのは少しきついかもしれない。
試しに、フレークとゼリー、いちご牛乳を一緒に口へ運ぶ。
──ネチャッ……ぬちゃぬちゃっ……。
フレークが液体を吸い込み、ネチョネチョと膨張する。
それがゼリーと混ざり、口の中で一体化していく。
──ブクッ……ブクブクッ……。
"ブクブクうがい"をするように、口の中でいちご牛乳を転がしてみる。
すると、泡が発生し、それがゼリーやフレークと混ざり合い、さらに複雑な食感へと変化する。
「……最高だよ……。」
しずくは恍惚とした表情で目を閉じた。
気づけば、残りはあと少し。
1リットルという量にもかかわらず、しずくはもはや"飲む"というより"楽しんでいた"。
途中、何度か嗚咽したり、吐きそうになったりしたが──
それすらも、今のしずくには"いちご牛乳の醍醐味"に感じられた。
「……あっ。」
気づけば、グラスの底が見えていた。
最後の一口を、名残惜しそうにストローで吸う。
──ごくっ。
「……もう、なくなっちゃったんだ。」
ほんの少し、寂しくなった。
何気なく、お腹に手を当てる。
──ぽっこり。
「……えっ。」
思わず、お腹を見下ろす。
(私……いちご牛乳で、太っちゃった!?)
わずかに膨らんだお腹をさすりながら、しずくはふと考えた。
「でも、ゆうくんのいちご牛乳って、甘くないよね? ノンシュガーだよね?」
それなら、いくら飲んでも問題ないはず。
「……後で、ゆうくんに確認しなきゃ。」
そう呟きながら、しずくはそっと唇をなめた。
──まだ、いちご牛乳の味が残っている。
(もう少し、飲みたかったな……。)
しずくは、新たな境地へとたどり着いた。
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