第24話 ゆうくんの笑顔

しずくが去ったあと、花恋はグラスを指でなぞりながら考えていた。


(……おかしい。)


しずくの反応が、あまりにも"違う"。


確かに最初、彼女は動揺していた。

"ゆうくんが初めて作ったいちご牛乳"の話をしたときなんて、驚きが隠せていなかった。


けれど──


私が実際にいちご牛乳を飲んでから、しずくの態度が急に変わった。

まるで、"勝ち"を確信したかのように。


(……何を知っているの?)


ゆうくんが「これは花恋用」と言ったとき、しずくは何の反応も示さなかった。


むしろ、それを"どうでもいいもの"のように受け止めていた。


あんなに動揺していたのに?


(そんなはずない。)


私は、しずくを揺さぶった。

ゆうくんと自分の"特別な繋がり"を見せつけた。

「私はゆうくんにとって大事な存在だ」と、何度も思い知らせた。


なのに、最後に見せたしずくの微笑み──

あれは、負けを認めた女の顔じゃない。

まるで、"哀れむ"ような……そんな笑みだった。


花恋は、グラスに残ったいちご牛乳を見つめる。

ゆうくんが「初めて作ったいちご牛乳」と言ったもの。


たしかに美味しかった。

でも……


なぜか、胸の奥にざわざわとした違和感が広がる。

けれど、それが何なのかはまだ掴めない。


だから、考えるのはやめた。

今は、ゆうくんとの時間を楽しむほうが大事だから。


そう思いながら、花恋はもう一口、いちご牛乳を飲んだ。


甘い香りが広がる。


──ただ、それだけのこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る