第11話 特別ないちご牛乳

学校の昼休み、しずくはほっと一息をつきながら、心の中で安堵していた。いちご牛乳を無事に飲み干すことができ、胸の中に少しだけ満足感が広がっていた。


「ふぅ…やっと、全部飲み終わった…。」


しずくはため息をつきながら、コップを閉めた。

周りで見られながらいちご牛乳を飲むのがどれだけ

恥ずかしいことか、今日改めて実感した。


いや、いちご牛乳だから恥ずかしくはないのに。


けれど、少し「違う」と思ってしまう自分がいたのだ。たしかに、あれはちょっと普通のいちご牛乳とはかけ離れたものだから、余計に感じる恥ずかしさがあるのかもしれない。


(うーん、ゆうくんのバカ。)


でも、そんな恥ずかしさの中にも、嬉しさが少しだけ混ざっていた。


みんなの前で、私はただの飲み物にすぎないいちご牛乳を、ゆうくんとつながって飲んでいた。私とゆうくんの中だけの秘密みたいで、少しだけ特別な感覚があった。


それが他の誰にも気づかれることなく、あいりにさえ知られてないことが嬉しかった。



その時、突然、あいりの声が聞こえてきた。


「しずくー、今日の放課後、ゆうくんに特別ないちご牛乳飲ませてもらうことになったから、一緒に

行こ。」


しずくは驚愕して言葉を失った。


何がどうしてそうなったのか。あいりが何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。


しずく「えっ…!?」


しずくは、一瞬目を見開き、どう反応すればいいのかわからなくなった。


まさか、あいりがそのいちご牛乳のことを知っていたなんて。


しかも、それを飲むことになっているなんて。


しずく「え、えっと、なんでそれを…?」

しずくは混乱しながらも声を出してしまった。


あいりはにっこりと得意げに笑いながら言った。


あいり「だって、しずくが飲んでる時、めっちゃ隠してたのにあんなに喜んでるし、もらったものって言ったらゆうくんから、もらったしかないじゃん。」 


「あの水筒ももらったんでしょ。バレバレだよ。で、気になったから、ゆうくんに聞いたらさ、今日、私にもいちご牛乳を飲ませてくれるって。」


しずくは心臓がバクバクと音を立てるのを感じた。


(な、なんでそれを知ってるの!?)

 

「そ、そんなこと…」

しずくは思わず言葉を濁しながら、あいりの顔を見た。


あいりは嬉しそうな顔をして、全く躊躇なく続けた。


「しずくさん、どうしたの~?そんなに慌てて。

だって、しずくがそんなに喜んでるんだから

やっぱりそのいちご牛乳、特別なものだよね?」


しずくは動揺しながらも、苦しい気持ちを抑えようとした。でも、何もできない自分が悔しくて、心の中で少しモヤモヤとした。


しずく「ゆ、ゆうくんは、飲ませてほしいって聞いた時、な、なんて言ったの?」


---


あいりはそのしずくの反応を見て、少し意地悪な笑みを浮かべた。


「うーん、なんて言ってたかな。飲む覚悟がどうとか、まぁ、別に「特別」なものでもないから、あいりにも飲ませてくれるってさ。」


しずくの胸が、ぎゅっと痛む。

まるで、今まで大切に抱えていたものを、誰かに奪われたような気がした。


"特別じゃない"—— その言葉が、頭の中で何度も響く。


しずくの顔色が一瞬で暗くなるのを、あいりは見逃さなかった。しずくの反応が想像以上に動揺していることを感じ取る。


「たったしかに、覚悟が必要だよ!おすすめできないし、やめといたほうがいいよ。」


あいりはくすっと笑った。

「うーん、しずくの反応も可愛いけど、ちょっと私には無理って感じ?」


しずくは目を細めて、少し眉をひそめた。

確かに、あいりにとっては、いちご牛乳のようなものはかなりきついかもしれない。


でも、ゆうくんからもらったいちご牛乳があいりの手に渡るなんて、自分だけの特別感がなくなるような気がして、心が少し痛んだ。


「でもね、ゆうくんが言ってたんだから。覚悟して、ちゃんと挑戦しないとダメだよね。」


「そ、それはそうかも知れないけど、わたしはお勧めしないからね。」


あいりは嬉しそうに笑って、しずくの反応を見逃さなかった。


「うん、覚悟しとくね。ゆうくんにもそれ伝えたら、ゆうくんがそれならいいよって。」


しずくは、暗い顔をして、その言葉を受け止めた。心の中でモヤモヤが膨らんでいくのを感じながら、何も言えずに沈黙した。

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