可愛かずみ「現代の遊女」が背負った哀しきデスティニー
11年前の五月に書いた文章。
1997年に、32歳で亡くなった女優についてのものだ。
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今日は可愛かずみの命日。
元恋人の住むマンションから飛び降り自殺してから、17年がたった。
4月には「爆報!THEフライデー」で、親友だった川上麻衣子を中心に、追悼的な企画が組まれ、死の直前に遺されていたメモを父親が公開。
全体的に過不足ない内容だったと思う。
特に、ポルノ映画でデビューした彼女がそれゆえ、女優としての本格的評価を強く求め、それがプレッシャーとなって、薬物依存の傾向をきたしていくところなど、しっかり描かれていた。
あと、再現ドラマのところで「DESTINY」(松任谷由実)が流れたところにも、愛を感じたというか。
女優としての代表作「季節はずれの海岸物語」メインテーマ。
ただ、このドラマもじつに不幸な運命をたどる。
彼女以外にもうひとり、古尾谷雅人も自殺していることや、田代まさしが不祥事で引退状態であるため、DVD化もされてないし、10年以上、再放送もない。
(その原因としては、ユーミンやサザンなどの曲使用が極めて多く、著作権問題が絡んでいる、とも)
ネットにあがっている、画面撮りと思われる写真などで、偲ぶしかない状況だ。
かつて、山城新伍は彼女について、時代劇の薄倖な遊女が似合いそう、という意味の発言をしたが、それを地で行くような人生を送ってしまったのも、結局、そういう運命だったのかな、と。
「季節はずれの海岸物語」・・・素敵なドラマだったし、彼女の演技もよかったんだけどな。
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その後、こんな文章も書いている。
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平成9年に32歳で亡くなった可愛かずみも、川田亜子と似たタイプだった。
それは色っぽさと儚さが同居する魅力だけにとどまらない。
川田がアイドルアナから報道キャスターになりたくてもがいていたように、可愛はヌードのイメージを脱却し、女優で評価されようとして必死だったからだ。
にっかつロマンポルノの『セーラー服色情飼育』でデビューしたあと『オレたちひょうきん族』で中森明菜役を演じるなどして人気の出た彼女は、ドラマ『季節はずれの海岸物語』(昭和63年~平成6年)などで女優としてもそこそこの実績をあげた。
私生活では、プロ野球・ヤクルトのエースだった川崎憲次郎との熱愛を報じられたが、失恋。
しかし、死の2ヶ月後には実業家と結婚する予定だった。
にもかかわらず、川崎の住むマンションに行き、身を投げたのである。
その行動は謎のままだが、死に向かいそうな危うさは以前から漂わせていた。
友人の川上麻衣子によれば、遊び仲間には尾崎豊(26歳で変死)や戸川京子(37歳で自殺)がいたという。
やがて彼女は、あるドラマでNGを連発して自信を失い、鬱や過呼吸発作にも悩まされるようになる。
「かずみちゃんは私には隠していたけど、当時の芸能界は、強い安定剤が手に入るルートがあったんですよ。それを手放せなくなっていたんでしょうね」
そこに、失恋の痛手も加わった。
死の2ヶ月ほど前には、自宅が近所だったという生田悦子がこんな言葉を耳にしている。
「よかった! あなたがいなくなったら私も死ななくちゃいけないでしょ!」
じつはこのとき、可愛の愛犬が迷子になり、生田がそれを獣医に連れていったのだという。
自殺の前にも何度か手首を切っていたという彼女の、思いつめやすく、死を意識しがちな性格がうかがえる。
婚約者は「いったい何が良くて、何が悪かったのか」と頭を抱えたが、川上は「結婚することへの悩み」を指摘して「新しい人生を歩むということへの不安もあったでしょうし」と語った。
死への親和性が高い人には、結婚というおめでたい節目も負の契機になりかねないということだろう。
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ポルノ映画でデビュー、といっても、フルヌードになったのはそのときだけで、2年後にはアイドルデビューもしている。
デビュー曲「春感ムスメ」については、こんなレビューも書いた。
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スレンダーなのに巨乳、にっかつロマンポルノなのに清純派――可愛かずみの魅力とは、相反する要素の共存だった。
それは「薄倖な遊女の役が似合いそう」(山城新伍)という評価ももたらしたが、本人は「昔の仕事のことで人間的に軽く見られるのはつらい」という苦悩を抱えることに。
実業家と婚約中でありながら、元カレのマンションから飛び降りるという最期も、そんな不全感に起因するのかもしれない。
中森明菜の「禁区」みたいなこのデビュー曲(「ひょうきんベストテン」でモノマネをしていたイメージによるもの?)についても、もっと本格的に歌いたいのに、頼りなげな歌い方を強要されたとか。
聴いていても、どこかしら、不全感が伝わってくる。
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ただ、その不全感は彼女の宿命だったのかもしれない。
女優としての代表作「季節はずれの海岸物語」の主題歌「DESTINY」(松任谷由実)のラストフレーズのように、彼女はこの世の幸せとは「むすばれぬ悲しいDESTINY」を背負わされていた。
わかりやすくいえば「現代の遊女」というべき役割が似合い過ぎていたのだ。
彼女は男の庇護なしでは生きていかれないような頼りなげな雰囲気を全身に漂わせていた。
男たちには、カラダを売って生きているような薄倖な女に欲情する心理がある。
可愛かずみのヌードはそんな世の男性の「遊女幻想」とでもいうものにハマりすぎていたため、彼女はそこから抜け出せなくなった。
いわば、現代に生まれた「架空の遊郭」に閉じ込められてしまったのだ。
そこから抜け出そうとしてもがけばもがくほど、息苦しくなる。
晩年、ストレスが原因の過換気症候群に悩まされたのも、象徴的だ。
その不全感は恋によっても解消されず、最期は身を投げるしかなかった。
まさに、遊女のような散り際だ。
死後30年近くがたったことで、さすがに思い出す人も減ってきているように思う。
彼女がアイドル路線に転じるきっかけとなった中森明菜の半分、いや、十分の一でも、気にかける人がいて、評価する声があれば「現代の遊女」の儚い人生もちょっとは報われるかもしれない。
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