第5話 道なき道
とりで広場の裏手に、一本だけ細い道がある。その道と、園外とを隔てる広葉樹の並木に隠れつつ、とりで広場に近づく。
オリエンは、道なき道を通ったっていいのだ。
背の低い草木の間を匍匐前進で進む。スーパー怪しい人じゃんと思うけど、まぁいい。もう時間はない。茂みの中から、とりでを見る。とりでアスレチックのいちばん高いところに、卓美先輩は仁王立ちしていた。やたら仁王立ちが似合う系女子だ。先輩は、アスレチックをのぼってくる少年少女にいぶかしがられながら、しかしそれをまったく気にする様子はなく、芝生広場の方向を監視していた。
静かに息を整え、こそこそととりでに近づく。先輩はずっと広場の方を見ていて、こちらには気がつかない。いいぞ……が、その時だった。
「あ! また中学生が来たぞー」
「いい年こいてとりで広場に中学生が来たぞー」
伏兵か! と思ったけど、もちろん違う。とりで広場にて遊んでいた善良な小学生である。しかしその声によって、あたしの位置が卓美先輩にばれてしまう。一瞬、目が合う。先輩は露骨に「やべっ」という顔をしてとりでの中に引っ込む。籠城するつもりか?――いや、違う。
すぐに走って、回り込む。とりでの中から芝生広場の方向へ突き出す、一本のすべり台。あれが最短の脱出経路だ。シャッという音とともに、小学生もドン引きの本気スピードで滑り降りてくる女子中学生。だが、あたしの方が一歩速いッ!
「捕まえたッ‼」
「ぐぬぬ……」
というわけで、小学生や幼稚園児に見守られながら、とりで広場すべり台の出口にて、あたしたちの鬼ごっこは無事終わったのだった。
「いやー、負けたわー」
芝生広場に寝転がって、卓美先輩は言う。風子先輩と燐先輩も、じき来るはずだ。
「えへへ」
「この整備された公園で、わざわざ茂みの中から近づいてくるとはなぁ……小学生のころのガチ鬼ごっこを思い出したで」
「それは褒められているのだろうか……」
「褒めとるでー」
卓美先輩は腹筋で上体をおこし、隣に座るあたしの頭をポンポンと撫でる……というか叩く。
「決められた道しか走れへん奴より、アッと驚く道を見つけ出して走る奴の方が、オリエンでは強いんや。それがオリエンのおもろいところでもある」
「だから……」
「ん?」
「だから、陸上やめてオリエンにしたんですか?」
「あぁ……まぁ、せやな。別に陸上が嫌になったわけでもないけど、オリエンの方がおもろそうやって、その時思ったんやろな」
卓美先輩はどこか遠くを見ている。「その時」というのは、卓美先輩がこの中学に来て、オリエン部と出会った時のことだろうか……?
「お、風子と燐が来たで。帰ろか」
「はい!」
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