第8話 リミッター解除(秋実編)

 夏生に破局を伝えられたことで、ダイエットに対する熱は冷めてしまった。


 ダイエットのために我慢していた、ポテトチップスを豪快に喉に押し込んでいく。あまりにおいしさに、瞳からは涙がこぼれていた。

 

 30分足らずで、10袋のポテトチップスを平らげる。地面には中身が空となったポテトチップスの破片、ゴミとなった袋が転がっていた。


「あー、おいしかった」


 食べかすを放置したままだと、家族に叱責される。ポテトチップスの破片を、掃除機で丁寧に吸い取っていくことにした。


 掃除機をかけた瞬間、ポテトチップスの袋を吸い込んでしまった。スイッチをオフにしたあと、プラスチックの回収にとりかかる。中に何かを詰めたままだと、あれこれいわれかねない。


 ゴミを回収しようとしていると、おかあさんが部屋に入ってきた。


「秋実、今日はしっかりと食べ・・・・・・」


 床に散らばっているポテトチップスの破片を見たからか、おかあさんは続きをいうのをやめた。

 

「秋実、どうしたの?」


「いろいろとあってね・・・・・・」


「食べないのはやりすぎだけど、食べすぎるのもどうかと思うよ。あんまりやりすぎると、体を壊すことになるからね」


「うん、わかったよ・・・・・・」


 おかあさんはポテトチップスの破片に、二つの視線を送っていた。


「いつにもなく、豪快に食べたわね。なんとなくだけど、どんなことがあったのかはわかるような気がするよ」

 

 おかあさんは掃除機を手に取ると、慣れた手つきでゴミを吸い取っていく。散らかった部屋を注意しないのは、おかあさんなりの優しさなのかなと思わずにはいられなかった。


 おかあさんは掃除を終えたあと、


「夕食は脂肪分たっぷりのメニューにするね」


 といった。心の中を見透かされているようで、気分をほんのちょっぴりだけ害していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る