第4話 ギルドと冒険者の試験

 ギルドの中は人でにぎわっていた。高い天井の下に受付や待合のテーブルや掲示板らしきものが並んでいる。


 ここも様々な姿かたちをした人々が行ったりきたりしている。しかし、全員大きな剣だの槍だの、杖だの大きな本だのを持ち、いかにも冒険者といった格好をしているものばかりだった。



「やぁ、ミュゼ」


「セシルさん、フェリスさん。お早いお帰りですね。キラースネーク10体の討伐はもう終わったのですか」


「ああ、それはとっくに終わってる。いつもならもうちょっと素材でも集めるんだが、今日は他に用事が出来てね」



 来るなりセシルは受付のメガネのお兄さんと話していた。なんというか、あまり表情がない気難しそうなお兄さんだ。



「用事?」


「ふふ、この方が冒険者になりたいそうで、試験を受けさせてもらいたいんです」


「ほぅ?」



 受付のお兄さん、ミュゼはメガネをくい、と上げると俺を見た。



「失礼ですが、どういったご身分の方で?」


「異国の剣聖様だ。名をミキト・ササモトと言う」


「私たちが上位のサイクロプスに襲われているところを助けてくださって、なんと一人で倒してしまったんですよ!!」


「ほほぅ?」



 ミュゼはその硬い表情を少し和らげた。



「そういえば、ヒューゼン砦から討伐依頼が来ていましたね。砦を襲った上位のサイクロプスが西に逃げたと。ここまで来ていたとは」


「ヒューゼン砦、遥か東じゃないか。そんな遠くから来ていたのかあいつは」


「なんでも、砦の外壁を破壊して内部を荒らしまわり、兵士にもたくさんの負傷者が出たとか。『二つ名』を与えることも検討中だったそうですよ」


「そ、そんなに強かったんですねあのサイクロプス。やっぱりミキトさんはすごかったんですよ!」



 なんだか分からないが、あのサイクロプスは相当な強さだったらしい。そんなにすごかったのか俺は。さすが『剣聖』とかいう仰々しい名前のスキルなだけある。



「なら、試験を受けるまでもないんじゃないか? この場で冒険者登録完了だ」



 セシルは言った。なぜだかすごく得意げだった。



「いえ、そういう訳にはまいりません」



 しかし、ミュゼはにべもなくきっぱり言った。



「規則は規則、それにミキト様の人格もまだ判別できません。冒険者の資格欲しさに夜盗が紛れ込んだ例もありますからね」


「や、夜盗!? 馬鹿な、ミキトは断じてそういう類ではない! 私たちの命を救ってくれたんだぞ!」


「たとえの話です。とにかく、どれだけ実績があるとはいっても試験は受けていただかなくてはなりません」


「む、むぅ」



 どうやら、このミュゼという男、かなり厳格な人物らしい。まぁでも、しっかり審査してもらった方が俺の方も安心なので別に構わないが。



「す、すまないミキト。あんな失礼なことを言われてしまって....」


「いいよ。ちゃんと審査してもらった方が俺も安心だ。こういうのが雑だと後でごたごたすることもあるし」



 会社の手続きとか口約束で済ませたらすごく面倒なことになったことあるし。



「では、とりあえずこの書類に必要事項を」



 そう言ってミュゼが出してきた書類はまさにお役所の登録書といった感じの書類だった。しかし困った。名前、年齢は書けるが、



「あ、あの。住所って俺どうしたら」


「そうですね、まぁ、あなたのように異国から来て冒険者になる方は『域外』とだけ書いていただけたら」


「それで良いんですね」



 見た目より緩い書類らしかった。住所以外はなんとかなるので書き込んでいく。職業は『剣士』にしておいた。我ながらむちゃくちゃ書いてるなと思いつつ書きあがった書類をミュゼに渡す。



「なるほど、年齢31歳、剣士。ずっと放浪を?」


「まぁ、そんな感じです」


「非合法な仕事に関わったことは?」


「それはないです」



 どうやら、軽い面接が始まったようだ。ミュゼは質問をしながら書類になにか書き込んでいく。



「頑張って下さいミキトさん!」


「ミキトなら大丈夫」



 なぜだか後ろでフェリスとセシルが応援している。



「所持金は今おいくらほどです?」


「ええと....ゼロです....」



 当たり前だが持ち合わせなどあるはずがなかった。



「ゼロ? では今日までどうやって生活を?」



 どうやってって言われても....。うまく合わせるしかないか。



「一週間前まではいくらかあったんですけど。底をついてしまって。それで冒険者になろうかと」


「なるほど」



 一応ミュゼは納得してくれたようだ。



「冒険者になってまず目標などはありますか?」


「ええと、暮らしができればそれで」



 それ以上は特に望まない。



「ミキト! なにを馬鹿なことを! ミキトならすぐにでもレジェンドクラスになれるんだぞ! そしたら大きな仕事も入って富も名誉も思うがままだ!」


「い、いや。別にそういうのは」



 セシルがものすごい勢いで食いついてきたがいなす俺。



「なるほど、欲はなしと」



 サラサラとミュゼは俺が欲がないという事実を書き込んでいく。少し恥ずかしい。



「さて、こんなところですか」


「この程度で良いのか?」



 これで俺の身分が証明されたのか本当に? もうちょっと疑った方が良いんじゃ。さっき夜盗がどうとか言ってたし。



「一応人となりは読めましたから。後ろ暗い部分はなさそうですし。どうもいくつか隠していることもありそうですが、それは法を犯す類のものではないでしょう」


「!?」


「警戒しなくて良いですよ。こういう面接を長くしているとなんとなくそういう匂いが分かるものなんですよ。大体、冒険者などというのは本当に色んな身分のものが居ますからね。元兵士や亡命者、果ては王族崩れまで。いちいち詮索していたらキリがありません。法さえ犯さないなら基本的に誰でも受け入れるんですよ」



 そういうものなのか。思ったより厳しいような緩いような、妙な面接だ。



「まぁ、放浪の剣士ならいろいろとあっただろう」


「私たちも詮索しませんよ!」



 セシルとフェリスも口をそろえてそう言っていた。平和ボケとは違うのか。これが冒険者の暗黙のルールみたいなものなのかもしれない。



「じゃあ、ミキトは合格だな。手形を発行してやってくれ」


「いえまだです。実技があります」


「馬鹿な。二つ名をもらいかけたサイクロプスを倒したんぞ。パスで良いだろう」


「規則ですので」



 ミュゼはさらりと、しかしかたくなに言った。



「実技?」



 俺は問う。冒険者の実技というとつまり、



「あなたの剣の腕を見せていただきます」



 そういうことらしかった。

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