内閣府直轄公文書館責任編纂 / ウィンチェスター王国史 ~後世の歴史家を悩ます聖女と王子の短編集~

尾岡れき@猫部

後世の歴史家は、王国史編纂作業を前に困惑中①

「エル殿、これはなんと――」

『ボクは教えないって言ってるでしょ』

「そこをなんとか!」

『しつこいオトコは嫌われるんだゾ。次期聖女の依頼ならまだしも。それ以外のお願いは聞く気はないし、聞かなくて良いと先代から言質げんちはとっているけど?それとも王族令を反故にする?』

「ぐぬぬぬぬ」


 そんな怖い顔で睨まれても、知らないよ。

 ふよふよ、漂いながら眷属妖精ボクは苦笑する。


 王国歴2025年。

 ボクが愛した聖女も、王子ももういない。それは時の流れだから、仕方がない。でも命はめぐるもので――。


「ねぇ、エル。あの人達は何やってるの?」

「あぁ、チェリー姫。ここは公文書館ですぞ、貴重な資料がたくさんあるのです! 姫はまだ4歳、ここに来るのは、まだ早い――」

「きちょー?」


 そう言いながら、紙片を乱暴につまむ。


「あぁぁぁぁっ! それも貴重な資料です! だめ、そんなクシャクシャにしちゃ! 聖女様のお母様、聖母陛下が、残された遺文ですぞ」


 流石に、それは良いんじゃないかな?


 ――10/18は櫻の文化祭。絶対に休む。

 それ、ママさんが走り書きしたメモ書きだから。


「聖女様による祭りとなれば、世界樹を交えた降臨祭の可能性も。聖母陛下より、国民に安息日の御触れ。これぞ、今の国民の休日にまつわるルーツの可能性が!」


 まぁ、キミらがそう思うのなら、そう思ったら良いと思うよ。


「室長! 先般、入手した北部の遺構からの出土品ですが」

「うむ、早急に解析を行う。やはり、異世界文字で書かれて……これは、なんだ?」

「……わ、分かりかねます」

「法則があるはずだ、即、検証するぞ!」

「分かりました!」


 なんて、書いてあったと思う?

 こうだよ。



 ――アス、大好き (*-ω(ω-`o likelikelike大スキッ♡

 彼らが悩んでいるのは、顔文字の部分である。


(……文字としては、たいした意味はないんだけどねぇ)


 ふよふよ漂いながら、思わず、遠くを眺めてしまう。


 あのね、櫻。

 キミがテスト問題の裏に書いた、落書き……とは言えないか。


 素直に言えないから、走り書きしたんだもんね。

 それが、今や研究材料だ。本人が知ったら、きっと顔を真っ赤にして断固抗議するだろう。



「エルー」

『どうしたの、チェル?』


 ボクは、次代の聖女様を愛称で呼ぶ。


「暇ー。エル、チェルと遊んでー」

『仰せのままに、チェル


 ボクはふんわりと微笑む。


 時は巡る。

 土に還ったとしても

 気脈をめぐり、龍脈を越えて。


 また帰ってくる。

 アス王子の氣も遠くで、感じる。



(確かにね)

 って思う。




 ――世界が二人を分かつくらいで、俺の誓いが揺らぐわけないでしょ?

 その約束は、現在進行形で有効?



 しつこい男は……いや、櫻はそれぐらいが良い。現に、チェルは、有能な兄君と姉君を前にして、臆している部分がある。現国王は言葉が足りないから「いらない子」って勝手に解釈してしまってたんだ。王妃が急逝した影響は、チェルにとって、本当に大きい。


 


 気脈の声を辿って「そうじゃないよ」ということは易いが、ボクにその権限はない。




 早く来いよ、アステリア。

 聖女を幸せにするのは、王子の役目なんでしょ?




 チェルは、お前のことを待っているよ?






「私、聖女様と王子様の物語が聞きたいなぁ」

『良いよ、ここじゃない所でね』

「エル殿、せひ我々も――」

『イヤだね』



 ――転移トランスポート

 お話は、世界樹でしよ?




 チェル、キミには聞く権利があるからね。





________________



思わせぶりな展開ですが、1話完結型。「世界樹~」の短編集です。

思いつき次第、更新していきますので、よろしくお願いします!



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