第13話 ドラゴンとの楽しい修行
「カルマ。カルマは動きを目だけで追っているな。それでは対応が遅れてしまうぞ? 目は当然使って問題ないが、先を読むことも大切だ。相手がどういう手癖を持っているか。自分の動きに対してどう咎めてくるか。情報を取捨選択する思考も持たなければならない。さもないと――」
「いってぇ!」
楽しそうに喋りながらマグノリアの木剣が俺の手首をしたたかに打つ。
ここは家の近くにある広場。今はまだ学園に人も少ないし、俺たちだけで悠々と使える。広くて心地の良い場所だ。でもなんで――
(なんでいきなり戦闘狂に修行という名目でボコボコにされてんだよ!)
手放して地面に落ちた木剣をゆっくりと拾いなおしながら思う。
明らかにマグノリアルートの弊害が出ている。
『尻ア』ではマグノリアのルートに入ると、各シーンの隙間でマグノリアが修行に誘ってくるようになるのだ。マグノリアのコミュニケーションは一にバトル。二にバトル。三から十もバトルが基本。故に個別ルートのイベントも当然バトルが増える。
気に入った相手に笑顔ですっ飛んでいく様子は子犬を彷彿とさせて可愛らしいが、中身はドラゴンなので体力もパワーも桁違いだ。まだ数分しか経ってないけど体がすごい疲れてる。でも原作だと普通に夜通し修行してるシーンもあったな。主人公、よくこの修行に付き合えたよな……。
そんな悪い所ばかりに見えるこの修行であるが。
ただ――デメリットばかりでもない。
マグノリアが振り下ろしてきた木剣を、体を捻りながら払い避ける。
「ほう……」
呟きが耳に届く。つまり俺の動きは悪くない。
上がったステータス分強化されている。
さっき生徒手帳を確認したらわずかだがステータスが上がっていた。『黒の守衛』を倒したせいだろうか。原因はそれしか考えられない。レベルにしたらまだ微々たる数値だろうが、強化は強化だ。希望だったステータスの強化が実際に起こってありがたい。だからこうしてマグノリアの修行にも付いていけている。
(今なら一本……)
取れるかもしれない。
勢いのまま防御の空いた腹部へと木剣を振るい、勝利が頭をよぎった瞬間――凄まじい速度で切り返してきたマグノリアの木剣に防がれた。
「なん……っだ今の!」
「ははは! 少し危なかったな!」
姿勢を崩されたところに鋭く振られた剣先が突き付けられる。……敗北。今回も一本取られてしまう。俺を見下ろして高らかに笑うマグノリアは、魔王みたいに見えなくもない。強化されたとしても、やはりマグノリアと単純な地上戦で戦うのは分が悪そうだ。
マグノリアが剣を戻しながら口の端を吊り上げる。
「うむ。まだ私から一本取るには早い。だが」
「……だが?」
「始めと比べてずいぶん動きがよくなっているな」
そうだ。それもある。
意外な事に、どうやら俺はこの短い期間で強くなっている。
体の動かし方はあまり変わらないのだが――なんというか、マグノリアの動きがよく見える。だから次どう動くかを考えられる。どういう癖があって、どういう動きを得意とするのか。どこを狙うのか。どう戦いたいのか。まだ思考に体が追いつかないから攻撃は通らないが。
特にマグノリアは動きが綺麗だ。龍人種というのはもっと大雑把な人間が多いと思うが、マグノリアの剣技は繊細である。一つ一つ、意味があって動いているんだろう。だからこそ動きを見て、思考をなぞって、俺自身の動きも修正ができる。
未だに謎の残る目元に手を当てた。
(『黒の守衛』倒したから……そこも変わったのか?)
魔眼だってまだよくわかっていない。それともこれはカルマに付随していた能力なんだろうか。原作でそんな感じの描写は見たこと無いけど。
眉をしかめていたらマグノリアがなぜか恍惚とした表情でじっとこっちを見ているのに気づいた。
「……なんだその顔は」
「カルマは素晴らしいと思ってな……」
「……何が」
「何度やられても、お主はずっと勝ち方を模索している」
「…………」
「さっきも私の動きをしっかりと見ていた。目線を逸らした時の私の反応。攻撃の動作。そこに踏み切るまでの流れ。威力や、打ち返しの癖も、ずっとだ。考えることをやめていない。そういう目だ。――私と同じだな」
途中まではありがたかったが、戦闘狂と同じにされるとヤバい奴みたいに聞こえてくる。
「思考を止めるな。私も師匠にそう習った」
「師匠ね……」
そんな設定あったなとぼんやり思い出す。設定資料集によると、マグノリアは箱入りお嬢様なので、『勝手に抜け出して近くのダンジョンのモンスターを乱獲しないように』という理由でお目付け役、兼家庭教師を付けられたこともあるらしい。原作には出てこなかったが。
(もしかして、だからマグノリアの剣技は繊細なのか)
今になってちょっとした違和感の理由に当たりが着いた。
マグノリアが懐かしむようにふと笑みをこぼす。
「……懐かしいな。ミズリ――師匠は子供の頃から面倒を見てもらっていて、姉のような人だった。何度ミズリの寝込みを襲って返り討ちにされたことか」
だいぶ野蛮な家に住んでるな。
「すごく強い人だった。だが、ミズリは色々と理屈を喋るのだが、私は感覚派だから、そこだけは相性が悪かった。話を聞いていないのにできるようになってる私を見て頭を抱えていたものだ」
「それは……弟子甲斐の無い奴だな」
「ははは。ミズリも同じことを言っていた。……そういえばしばらく会っていないな……」
そのミズリとか言う師匠はずいぶんと手を焼いたことだろう。マグノリアなんてだいたい持ち前のセンスでなんとかしそうだもんな。
でもちょっと不思議だ。割と慕っていそうだが、原作は名前も出てこなかった。
ここでなら会えるんだろうか。
「師匠は、カルマとは相性がいいかもしれんな」
ふと思いついたように言われて、俺は無言を返した。やめてよね。お前たちでもうキャラが渋滞してるんだわ。これ以上増えたら処理しきれないよ俺もう。
「私も強くならねば。そして里の皆を守れるようになるのだ」
「おう……それは頑張ってくれ」
原作でも聞いたマグノリアの目標。やはりここでも変わってない。
仲間である龍人種達、そして里そのものを守ること。
それを目標にマグノリアは日々鍛錬を積み重ねている。
「無論、頑張る。そのためにもカルマ! 修行をするぞ!」
「……おーう」
俺を巻き込むのは勘弁ではあるが。
◇
そうして修行という名のハードワークを続け、俺がばたりとうつ伏せで休憩してた頃。
ふとマグノリアがかがんで耳元に口を寄せてきた。
「その……カルマ、今朝から聞きたかったのだが……」
なんだか普段と違う声色である。
「な……なんだ……」
地面にうつ伏せに倒れ伏しながら声を上げた。ほぼ呻き声に近い。俺もおそらく前世よりは体力も増えているとは思うが、それでもドラゴンの体力には適わない。ひとまず修行が止まってるならなんでもいいと思って首だけ動かしてマグノリアを見上げて、なぜか不安げに見下ろしてくる目と目が合った。
「……あの新しいメイド、何者だ?」
一瞬何かと思って、ノエルのことかと気づく。
「……えぇ?」
「えぇ? じゃない! 大事な質問ではないか!」
そんなことかと思って気を抜いたら、マグノリアに怒られてしまった。今度は子供みたいにむすーっと眉根を寄せている。でもたしかにマグノリアから見ればノエルは初対面か。何者かというのは気になるだろうけど。
「何者って言われても、うちのメイドだが」
「あの白い髪のメイドだけではないのか。前は他に人の気配はしなかったのに」
「まぁ雇ったの昨日だからな」
「き、昨日だと!」
愕然とするマグノリア。
「私と寝た後に他の女と会っていたのか!?」
「言い方悪いな」
勝手に布団に入ってたお前も大概だぞ。
「に、人間はそうやって女を侍らせるのが流行っているのか」
「流行ってねえしやりたくもねえよ!」
慄くような顔で言われて全力で否定する。それとは真逆の状態を目指したいのにお前らが来るのだ。
むうっとむくれた顔のままマグノリアが険しい目を向けてくる。
「次からああいう子を雇う時は私にも声を掛けてくれないか」
「なんでだよ」
「わ……わからん。わからんが気になるからだ!」
両手で赤くなった頬を抑えて、どこともつかない場所を見ながら首を傾げている。頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが浮かんでそうだ。
体を起こしてひとまず座る。そんなことを言われても確約はできないし、経験上は変に頷かない方がいい。
「それは、めんどいから嫌だ」
「んなっ!」
「ただ一応、今後メイドを雇う予定は特にない」
「む……」
そもそも前世で一人暮らしをしていた身からすれば、メイドという存在はあまり馴染まない。家事してくれるのはとてもありがたいけど、気後れしてしまう部分もある。まぁ、片方ポンコツだけど。
「そうか……ではまぁ……うん」
「どうせお前は誰がいても来るだろ。あまり変わらん」
「……そうか。そうだな」
マグノリアが自分を納得させるように頷いている。原作でもマグノリアはひとたびルートに入れば、他に誰がいようと修行イベントに移行させるパワーがあった。システムの優先度どうなってんだ。他ヒロインとのデートの約束はどこへ消えた。
「ちなみにカルマ、他に私が知らない女性はいるのか?」
「え゛」
金髪ツインテールが脳裏にぱっと浮かぶ。
「な、なんだその声は。まさか他の女にも手を掛けているのか!?」
「掛けてねえ!」
バッドエンドの時を思い出してちょっと心臓が縮んだ。終盤まで攻略が進んだマグノリアは浮気(超ガバ判定)したら国が滅ぶのだ。しかし流石にまだ国が滅ぶレベルの段階まで攻略は進んでないから何かされることもない。……ないよな?
「……まぁ、会った時にまた聞いてくれ」
「むむむ……」
なのでこのぐらいの対応でもセーフ……のはずだ。これでダメなレベルなら、シーラがいる時点でアウトだし。
「……仕方ない。ではその女と会った時に聞くとしよう」
ぶすっと不満を顔に出しながらではあるが木剣を手に取って立ち上がった。
どうせ近い内に会うだろう。アイビーが来ないわけない。
その後、心なしか攻めが強烈になったマグノリアと修行を続けるのだった。
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