第8話 私は月夜に勝ってほしい
「二本目! 初め!」
月夜は正眼、宍戸先輩は上段かまえる。
そう、宍戸先輩のほうが背が高いけど、誤差の範囲なら有利不利は変わりない。
たぶん、二人とも上段の構えは得意。
「メーーーン!」
想像通り、宍戸先輩が先にしかけた。
かばうように竹刀をたて、いなそうとする月夜。
「宍戸先輩のほうが勢いが強い!」
元々強い筋力の彼女の一撃は重い。
その攻撃をたくみに弾く。
「こぉーてぇええええ! 小手! 小手! 篭手! 籠手!籠手! 小手! 小手! 小手! こたえええエイ!! こてぇーい!」
何ふりかまわない小手の嵐。さすが、まだ、本調子でない月夜にひどい。
もう、何言っているかわからない。
剣道界隈あるあるだけど、何いってるかわからない気合、まさに典型のような嵐。
「えっ、えっ、すごい。こんなに小手が続くなんて!」
驚愕する桃瀬。あんなに私も体力続かない連撃はすさまじい。
「それをしのぐ、天羽も化け物だ」
先輩が感心している。
さばく月夜はとんでもない。
それを竹刀と鍔でいなしていく。
焦りの色が宍戸先輩から見える。
しかし、いつまでさばけるのか、月夜の体力はもつの?
「月夜! 勝ってー!」
私は手をギュとにぎる。
テンポが少しズレる。
そうか、宍戸先輩は面へと切りかえるつもりだ。
途切れた嵐に向かい、月夜の眼光が鋭くひかる。
「メーーーンーー!」
いつの間にか宍戸先輩の小手をすり抜けて、面への打撃をうがっていた。
宍戸先輩の顔がゆがむ、思わぬ奇襲に、面のジクをとられた。
決まった!
『や、やったーー!』
気づけば、私は桃瀬とハイタッチを交わしてしまっていた。
はたと気づき、桃瀬と私は逆方向に目をむけた。
それは、多くの月夜ファンもおなじような行動をとっていたんだけど、私たちほど同担拒否勢はいないのだ。
先生も少し考えているようだ。
考えなくても見事な面だとわかるのになぜ。
そして、キッと前を見て。
「面あり!」
先生が、旗を振りあげる。
「三本目!」
けど、なかなか、構えない宍戸先輩……どうしたんだ。ノリノリでしかけたのに。
何かに悩んでいる。
「さすが、よい面打ちだ。天羽……」
宍戸先輩はいきなり語りだす。
なぜか、面を外していく宍戸先輩。
「これなら、次の練習試合に月夜が出ても大丈夫だな。月夜戦力として期待できそうだ」
ニカリとほほえむ。
そっな、なるほも……入院中に衰えていないか心配でこんな強引なことを
つまり、次の練習試合で月夜が出られるかを確かめていたのか………そんな、こと納得いかない!
「ちょ、宍戸先輩!!」
どう見ても負けそうな事を誤魔化して、試合を中断するなんて、卑怯な。
みていた部員たちは気づいている。これはどうみても、ごまかしてる。
「あ、ありがとうございます!」
感極まったというように目を輝かせる月夜。
月夜……天然だ……納得すな。
「……ちょ!」
1番戸惑っているのは先生かもしれない…いきなり試合させられて、自分勝手にやめたなんて。
先生は戸惑い泣けてくる。
「宍戸さん、そんな言い訳聞きません。三本目、初めなさい!」
しかし、宍戸先輩は。取りつくろうようにまじめな顔になる。
「私の負けでいいです」
えっ、あっさりと認めるなんて……
でも。これってフリだよねフリ。
「やって。負けるより。いい感じに負けを認めるほうが格上感がでるみたいな……」
桃瀬が口にする。
たぶん、それを感じていた。
「先輩。これ以上続けたら、私の方が体力がついていたと思います。私の負けです」
こういう、月夜……私好きだけど、疑おうよ……
「そ、そうなの………」
ほら、宍戸先輩すらも困ってる、というか、試合続けたほうがよかったかなみたいな顔してるんじゃん……先生なんて空を仰いでる。
先生、剣道場では空は見えませんよ……
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