第2話 人との食事って美味しいのね

 エルメスの実家であるシュルプリーズ子爵家は、商売で財を成し爵位を得た一族である。財を成した現在も慢心せず信頼を第一に帝都でも指折りの商会として続いている。そんな商会なので、帝都で最も賑わう商業地区の一等地に建っていた。

 商会の前では、顔を見知ったドアマンがエルメスを奥に通してくれた。商会長室に入ると、姉のシャネルが座っていた。


「ただいま、姉さん」

「あら、その様子だとやっと離縁したのね。暴力は振るわれていない? その様子だとご飯はしっかり食べられてたのはわかるわ。前の部屋は、片づけてしまっているからひとまず客間を使って」

「ありがとう」

「私からすると貴女はいつまでもかわいい妹よ。ルイも懐いているし遊んであげて」


 ルイは、シャネルの一人息子で活発で可愛らしい少年だ。子どもが嫌いではないのだが、結婚当初から関係が冷え切っていたので子どもが出来るわけがない。


「もちろん、かわいい甥っ子と遊ぶのは大好きだからさせてもらうわ」

「なら今日は、早めに帰らなきゃね。先に帰ってくれる?」

「無理しないでね」


 商会を出た後は、まっすぐにシュルプリーズ子爵邸に向かった。出迎えたのは、甥っ子のルイだ。  


「エルメスお姉さん! いつまでここにいられるの。前に言っていた異国の」

「まぁ、ルイ君。少し見ない間に大きくなったわね。話したいとは思うけどどの話だったかしら」


 ルイがエルメスの手を繋いで邸宅の奥へ案内してくれるのを微笑ましく見ていた。ルイの子ども部屋に案内されて紅茶を振舞われ、話をしていると仕事が終わった姉と旦那のグッチが夕食に誘ってきた。


「思ったよりも元気そうでよかったよ。かわいい教え子が不幸になるのは耐えられないからね」

「そうよ、もっと早くから離婚してもよかったのよ。うちの顧問弁護士にかかれば離婚の慰謝料がっつりとれるんだから」

「大丈夫よ。大変な時にどうすればいいか教えてくれたのは、義兄さんでしょう」


 シュルプリーズ商会は、指折りの商会だが先代のシュルプリーズ子爵夫妻が亡くなり経営難になった時があった。残されたエルメスとシャネルの二人で経営が上手くいくなんて思っていなかった商売仲間たちは離れていった。商会で売るものは、別の商会から買う必要があるので非常に困った。

 しかしグッチのアネシス商会だけが、昔のよしみということで手を差し伸べてくれた。


「先代には、良くしてもらったからね。人として尊敬出来る方だったから早くに亡くなってその宝物たちが大変なことになっているなら助けたいじゃないか」

「えぇ、ありがとう」

「それにアネシス商会への復讐もしっかりさせてくれたしね」


 グッチは、商会長だったが右腕的な人物に騙されて商会から追い出されてしまった。恩返しするべきと、行き場のなくなったグッチを雇ったのだった。それもこれも姉シャネルの初恋の相手がグッチであり、グッチ以上に怒っていた。そして口にするにも恐ろしい制裁を加えていた。


「また僕の前でいちゃいちゃしてる」

「大事な人が出来た時の参考にしなさいな」

「エルメスにする?」

「いい子ね。でも別の人になさい」


 ルイは、頷くと食事を続けた。本日の食事は、川魚のムニエルと玉ねぎと人参、セロリのマリネだ。それに香草を練り込んだパンと提携牧場のバターがつく。


「ムニエルの生地に入れたのはチーズかしらコクが美味しいわ。それと柑橘の香りが最期に来るからレモン汁ではなく皮を入れてる?」

「その通りです。川魚の泥臭さを柑橘の風味をいれることで軽減させています」


 料理人は、エルメスが考え込むのを見て冷や汗が出始める。領主夫妻とエルメスは、仲が良いため気に入られなければ追い出されると思っていた。

 料理人は、自分の店を持つことを目標としておりシュルプリーズが出資した料理人は成功していた。


「言うほど泥臭くないわ。下処理がいいのね。」

「あっ、ありがとうございます!」

「この魚美味しいよ!」


 ルイがニコニコ笑っているのを大人たちは、微笑ましく見ていた。


「提携店で出してみない? 帝都の周辺は海がないから魚料理は、流行るわ」

「レシピの権利だけとってお屋敷でもう少し働きたいですね。ここは、レシピを考えるには良いところですから」

「それでは給金を上げなくてはな」

「給金は充分もらっているので料理に使いたい香辛料を取り寄せしていただきたいです」

「まぁ、面白そうじゃない! どんなものなの」


 エルメスは、料理の話で盛り上がる食卓を見て気兼ねなく過ごせる人たちとの食事はとても美味しいなと思っていた。

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