無駄遣いするデブと言われましたか?いいえ必要経費です

猫田33

第1話 結婚というものは契約ですのよ

「無駄使いするデブとは離婚する!」


 蒼獅子騎士団長を兼任しているジャン=ドゥ・コレール伯爵の戯言に妻であるエルメスは、食べかけていたアイスクリームを味わってから聞くことにした。

 言いたいことが色々あるものの、アイスクリームが冷たい時に食べるに決まっている。形を無くす手前のアイスクリームも好みではあるが、気が利かないジャンが最後まで待っていらるとは思えなかった。


「いま食事中ですの、食卓につくか外でお待ちくださらないかしら」

「その大きい体でまだ食べるのか。俺の給料で食べる食事は、さぞ美味しいだろうな」

「食事が美味しいのは、心を込めて料理してくれたシェフのおかげですわ」


 被害妄想に入った夫の話は、長そうなので先にアイスを堪能する。コレール伯爵領特産の牛の中でも濃厚な旨味を感じられる乳牛から絞られた牛乳で作られている。粗削りだがこれから外部へ向けて売り出す特産品として及第点をあげられる味わいになっていた。


「牛乳の味が濃くておいしいわ。でもそのぶん他のフレーバーを入れる余地がなさそうなのよね」

「さようですか」

「同じ味は、飽きられやすいから今後を考えて牛乳の美味しさを残してベリーとかのフレーバーを入れられるように改良しましょう」

「いい加減にしろ! さっきから人の話を聞かないくせにバクバクと」


 さすがに待たせすぎたようでジャンが怒り始めたので、エルメスが居住まいを正した。


「さて、さきほどの言葉に対してですが必要経費ですわ。金遣いが荒いだけでは離婚に応じられません」

「充分離婚理由になるはずだが。食いつぶす気か」


 ジャンが苛立たしげに舌打ちしながら言っていた内容と、これまでの態度を思い出し理解出来ていないのではと思った。


「言い方が悪かったですわね。何に私が金額をかけたとおっしゃいますか」

「食費と衣装代だ。そうでなければそんな体型になどなるまい。結婚前は、痩せていただろう」


 確かに結婚前は、エルメスも普通体型だった。しかし嫁ぎ伯爵夫人として屋敷の帳簿を確認し、収入が規模に対して見合わないと気がついた。そしてありとあらゆる資料を読んだ結果このままでは、伯爵家が潰れると危機感を覚え動いた結果太ってしまった。


「痩せておりましたが何か。伯爵領の現況を憂いて活動した結果ですわ。執事長から報告がされてますわよね」

「報告は上がっているぞ贅沢しているとな」


 ジャンの言葉が本当ならば、伯爵家に愛想が尽きた。穴が空いた船と共に沈みなさい。


「私が何をしていたか本当に理解できなかったのね。離婚に応じます。詳しい離婚内容は、弁護士を通して話し合いましょう」


 エルメスが離婚に応じると言うとジャンは、満足そうな顔を浮かべながら荷物をまとめて出ていけと言った。別居状態だったとはいえ、仮にも夫婦だったのに情もないらしい。


「その言葉、あなた自身に言われないように気をつけることですわね」


 食堂を出ると執事長と侍女長が申し訳なさそうな視線を向けてきた。それだけであの馬鹿が執事長の報告をろくに理解出来ていなかったということを理解した。


「申し訳ありません、奥さま。私の説明が悪かったのです」

「いいえ、あなた達は悪くない。きちんと理解して私をサポートしてくれたわ。私だけ頑張ってもどうしようもなかったもの。ただあなた達の今後が心配だわ」

「奥さま、私どもの心配まで」


 エルメスは、今後苦労するはずの使用人たちに実家の商会への紹介状を書いて一枚差し出した。伯爵家で執事長をしているほどの人物だから姉は、是が非でも欲しい人材のはずだ。だから執事長は、渡された紹介状に驚き深く頭を下げて屋敷を去るエルメスを見送っていた。

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