第8話 大魔王様、混浴!?
女騎士イーグレット曰く、前魔王の戦死後、『赤鱗王』は
目的は、傷の治療と次なる人間との戦いに備えて力を蓄えること。
それ自体はなにもおかしなことではない。だが、赤鱗王が姿を消して、一年後、あの赤い巨竜が姿を現した。
巨竜は火口に居座り、周囲の魔力を吸い上げて環境を激変させた。火山を活性化させて空を覆い、灰の雨を降らせたのだ。
当然、竜人族の戦士たちは巨竜の排除を試みたが、ことごとく失敗した。赤鱗王を除けば村で最強の戦士であるイーグレットでさえ巨竜には歯が立たなかったという。
その戦いの最中、イーグレットは気付いてしまった。
巨竜の胸にある輝き、その源は赤鱗王の守っていた竜人族の至宝『
なぜ、そうなってしまったか。理由も原因もわからない。
ただ一つ確かなのは、巨竜を、赤鱗王をどうにかしなければこの村と竜人族は滅ぶしかないということだけだ。
そういうわけで、オレこと大魔王は蒼炎山の火口に居座る巨竜を倒さなければいけなくなった。
といっても、巨竜の正体は探していた旧魔軍軍団長が一人『赤鱗王』なので、殺すのではなくどうにかして彼を元の姿に戻さないといけない。そのうえ、巨竜の胸部に埋め込まれているという『赫奕の心臓』も無事に回収する必要がある。
……我ながら無理難題だが、どうすれば解決できるのか、全く見当が付かない。
原作でもこんな事件はなかった。参考にできる知識がない以上、思考の転換が必要だ。
なので、オレは温泉に入ることにした。
「――ふぅ」
竜人族の村の裏手にある温泉に、肩まで浸かって息を吐く。
なんだかんだ言って魂は元日本人。温泉の温かさと湯に浸かる心地よさは骨身に染みる。
せっかくの露天風呂だし、月でも出てれば満点だったのだが、贅沢は言えまい。
なんでもほとんどの温泉は巨竜出現の影響で使えなくなっているが、この湯だけは難を逃れたとのこと。
本当は目的を果たしてからゆっくり浸かるつもりだったが、イーグレットがどうしても勧めるので受け入れた。
それに、考え事をするのに風呂はよい。血流が良くなって普段よりも頭が回るし、なにより、ここにいるのはオレ一人だ。
ラスボスたるもの、こうした完全なプライベートの時間は少ない。
まずは温泉を堪能していると、ふとアルセリアから渡された道具袋のことを思い出した。
その中には、通信機もあった。
アルセリアはこの世界の随一の技術者だ。情報を共有すれば、なにか策を授けてくれるかもしれない。
ラスボスたるもの安易に人を頼ってはいけないが、頼るべき時に頼らないことは逆に格を下げることになる。
道具袋から通信機を取り出す。見た目はトランシーバーに近い。魔力で作動する仕組みになっており、オレが握るとすぐに起動した。
「あー、もしもし?」
『――聞こえてるわ。通信状態良好。火山灰の影響は軽微ね』
その上すぐに繋がる。ワンコールさえなかったところをみるに、アルセリアのやつ、ずっと通信機を手元に置いていたな。
そう考えると、これまでの『あくまで性能実験だけど』と言いたげな態度も可愛らしく思えてくる。
「余だ」
『そんなことは分かってるわよ。待って、いま映像も繋ぐから』
「待て。それはやめた方が――」
だが、止める間もなく通信機から映像が投影され、湯煙の中にアルセリアの姿が浮かび上がった。
デスクに腰かけて、眼鏡越しに眠気眼をこすっていた。
……こうして見ると、普通の幼女だな。なんというか少女博士みたいな感じで微笑ましい。
まあ、今オレはそんな幼女の前で全裸なわけだが。湯船に入っていたのはせめてもの救いだ。肝心なところは隠れている。
というか、テレビ電話とかそんなハイテク機能が搭載されているのか、この通信機。
『…………なんで裸?』
アルセリアはあくまで冷静に、そう尋ねてくる。
よかった、反応まで幼女だったらオレは犯罪者になるところだった。事故かつオレに責任はないとはいえ、そんなことになったらオレのラスボス道に傷がついてしまう。
「風呂に入っている。そなたも事がすんだら、入るといい」
『そんな余裕があるってことは、村は想定よりはマシな状況ってことね。でも、こうして連絡してきたってことは何か問題?』
「さすがに察しが良いな。そなたの知識と知恵を借りたい」
オレはそれから事のあらましについて、アルセリアに語って聞かせた。アルセリアがこの件に関して興味と関心を向けていることは話をしている間の沈黙が物語っていた。
『――『先祖返り』、かもね』
赤鱗王の変身について聞き終わると、アルセリアが言った。
さすがはマッドサイエンティスト。幼女の姿をしていても洞察力と知識は一級品だ。
「それは、なんだ?」
『魔族の先祖は魔物だって話は、セレンから聞いてるわね?』
「ああ。たしか、魔物の中でも知性を持った種が魔族に進化した、だったか?」
『ええ。時折だけど、その逆も起こるのよ。知性を失い、人型の器を失う。結果として、強大な魔力を手に入れるけど、大抵はそのまま死ぬわ』
なるほど。
確かに今の赤鱗王の状態とも見事に一致している。
竜人族の先祖は間違いなく竜だ。そして、この村の竜人たちは赤い鱗を持っている。先祖返りの結果、赤い竜に変身するというのは当然の帰結だ。
そう考えると、原作のゲームで戦闘した魔物の中には先祖がえりを起こした魔族もそれなりにいたのかもしれない。
『でも、いくら先祖返りだって言ってもあそこまでの巨大化は他に症例がない。赤鱗王は確かに強大な存在ではあったけど、外的な要因、それこそ、赫奕の心臓が影響を及ぼしているとみるべきね』
「……では、逆に言えば、赫奕の心臓を取り外せれば、赤鱗王を治療できる可能性もあるということか?」
『治療をどう定義するかにもよる。起こりうる可能性として一番高いのは、宝石を取り外した瞬間、竜が死ぬ、かしら』
「…………他の可能性は?」
『それは現物を見てみないとなんとも』
「では、こちらに合流してくれ。竜人族を救うには、そなたが必要だ」
『…………わかった』
オレがそう念押しすると、アルセリアは少し驚いた表情を浮かべ、それからため息をつく。呆れているというよりは感心しているようだ。
まあ、オレの王としての責任感に驚愕しているのだろう。
ラスボスは自分の言葉を違えない。オレはイーグレットにこの村と彼女の父親を救うと言った。言った以上は、果たさねばならない。
『でも、時間がいる。2日程度かかるわ』
「構わん。状況が動いたらまた連絡する」
現在は膠着状態だ。アルセリアの合流まで二日が掛かったとしても、大きな情勢の変化があるとは考えづらい。問題はないだろう。
通信を切断し、再び湯船に体を預ける。ゆっくりと息を吐いていくと、不意に眠気が襲ってくるので、顔を洗って目を覚ました。
具体的な作戦はまだ思ついていないが、原因がはっきりしたのは大きい。
病気の治療もそうだが、その源を把握しなければ根治はできない。それ同じで、問題解決においてもなぜそうなったかを把握するのはトップの責務だ。
……あとは、アルセリアが合流するまでに、こちらで作戦プランの草案くらいは用意しておくか。
明日はイーグレットに頼んで周囲の地形を詳しく把握する。火口までの道や利用できそうな場所、あるいは協力を頼めそうな近隣の種族などの情報を集めるのだ。
ここが剣と魔法の世界だとしても、情報は強力な武器。集めておくのに越したことはない。
前世でもそうだった。築き上げた情報網のおかげで選挙の対抗馬の不正を暴けたし、有力なコネクションも手に入った。あのまま生きていたら、日本は確実に支配できていただろう。
うーん、返す返すも、惜しいところで死んでしまったもんだ。
だが、オレはめげない。それがラスボスたるものの心意気。今はピンチだが、このピンチこそオレが大きく羽ばたくための踏み台なのだ。
それに、状況は悪いように見えて、希望はある。ラスボスであるオレには一縷の望みでも十分だ。
「――へ、陛下」
そんなことを考えていると、脱衣所の方から上ずった声が聞こえてくる。
この呼び方と声は、イーグレットだ。一体何の用だろう? まさか何か急変が起きたのか……?
「イーグレットか。どうした? 火急の要件か?」
「い、いえ、違います。ですが、その、あの……」
「なんだ? そこからでは聞こえんぞ。もう少し声を大きくしてくれ」
「ぁはい、そのですね、ここには……」
だいぶしどろもどろなイーグレット。
オレの知る限り、彼女のイメージと合致しない。本当に何かあったのか?
仕方ない。まだ浸かり足りないが、温泉から出るとしよう。そう思い、立ち上がったところで――、
「し、失礼します!」
浴場に、イーグレットが飛び込んできた、タオル一枚で。
「ほあっ!?」
い、いかん、ラスボスにあるまじき悲鳴が出てしまった。慌てて湯船に戻ったが、ばっちり視線が合った。
と、というか、なんで入ってきた? なぜタオル一枚? 色々と豊かすぎて上も下も何も隠せていないぞ!? 自分でも恥ずかしいのか、真っ赤になって顔を背けているが、一体何を考えてるんだ!? もしかして、魔界ではこれくらいの露出は普通なのか!?
ま、待て。混乱するな、オレ……こ、こういう時こそ、ラスボス式クールマインドだ。ラスボスは慌てない、騒がない、動じない。
……よし、落ち着いてきた。
この間、僅か一秒。我ながら見事だ。さて、紳士的に、イーグレットに何をしに来たのか尋ねるとしよう。
「イーグレット、一体どうしたと――」
「――イーグレット・エリュテイア! だ、大魔王様にお情けを頂戴しにまいりました! ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたします!」
しかし、オレのクールマインドにとどめを刺すように、イーグレットはそんなことを叫びやがった。
オレの認識が間違っていないなら、この場合のお情けとはつまり、あーそういうことだ。R18的なアレだ。
………………なんで?
――――
あとがき
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