第9話 謎解き

凛花はスマホを手に持ちながら、ベッドに寝転がっていた。画面には先生、もといBABOの最新の動画が映し出されている。動画を見終わった凛花は、心地よい充実感を覚えながら軽く伸びをした。


「やっぱ、先生の作品最高…」


呟きながら、未だに興奮が冷めやらない。新しい作品を見るたびに、新しい発見がある。BABOの世界はどこまでも深く、凛花はその深みへとどっぷり浸かっていくのを感じていた。


しかし、まだ見足りない。新作を見終わった後も、その余韻に浸りながら、すでに見た動画を再び再生する。今日はどれを見返そうか——そう考えながら、気分で作品を選び、過去に見た動画をランダムに再生していった。


だが、何本目かの動画を見ていたときだった。


「……ん?」


画面の隅に、一瞬だけ小さなドットのようなものが浮かんだのが見えた。最初は気のせいかと思った。しかし、次の動画でも、また別の場面で一瞬だけ同じようなものが映った。


凛花はスマホを持つ手を止め、じっくり考えた。


(これ、編集ミス……?)


だが、すぐにそれを否定する。あの先生がそんなミスをするだろうか。BABOの作品は緻密で、隅々まで計算されている。それを考えると、こんな目立たないものが意図せず紛れ込むとは考えにくい。


(……違う。これは何かのメッセージだ。)


確信した瞬間、凛花の胸は高鳴った。BABOの作品には常に「意味」がある。もしこの小さなドットにも何か意味があるとしたら、それを解き明かさない手はない。


凛花はすぐにもう一度、その動画を最初から見直し、問題のドットをスクリーンショットで保存した。次に、他の動画でも同じようなものが映っていないかを確認するため、再びランダムに動画を選び、細かくチェックしていく。


——すると、あることに気づいた。


このドット、すべての動画にあるわけではない。特定の動画にだけ、しかもほんの一瞬だけ映り込んでいる。そして、よく見てみると、ドットの位置や形が微妙に異なっているのだ。


(これ……もしかして何かの暗号?)


そう考えた途端、凛花の心は興奮で震えた。


こういう謎解きは好きだ。特に、先生の出す謎なら解きたくてたまらない。


スマホを握る手に力が入る。今まで何度もBABOの作品を見てきたが、まさかこんな隠し要素があるとは思わなかった。


「やるしかないっしょ……!」


小さく呟くと、凛花は勢いよくベッドから起き上がった。


「BABOの全動画チェック開始!」


目を輝かせながら、凛花はBABOのすべての動画を片っ端から調べることに決めた。


-----


それから1週間、凛花はひたすら動画のチェックに没頭していた。

——とはいえ、学校生活は普通に送りつつ、放課後は変わらず先生のもとへ通っていた。


しかし、先生にこの謎のことは一切話していない。完全にノーヒントで、自分の力だけで解き明かしたかったからだ。


BABOの作品には計算された意味がある。その意図を自力で解き明かすことこそ、この謎を解く醍醐味だと思っていた。


そして今日、ついにすべての動画をチェックし終えた。


結果、123本の動画のうち、「例のドット」が含まれていたのはたったの13本。


動画ごとにドットの位置や形が微妙に異なっていることは最初から気づいていたが、改めてそれらをすべて抜き取り、並べてみた。


——その瞬間、凛花は確信する。


(これ、QRコードじゃん。)


全体を見比べてみると、完全にQRコードの断片になっていた。ただの点ではなく、小さな凹凸があることにも気づいたため、それをヒントにパズルのように組み立てていく。


しかし、ここからが大変だった。13個のピースを正しい形に組み合わせなければならない。一見簡単に見えるが、ドットの形が似ているため、正しい順番を見つけるのに手間取る。


——それでも、凛花は諦めなかった。


試行錯誤を繰り返し、何度も並べ直し、スマホのQRコードリーダーで確認しながら微調整していく。


そうして3時間後——


ついに、1つのQRコードが完成した。凛花はスマホを手に取り、QRコードをスキャンする準備をする。


「……さて、先生のご褒美ってやつ、見せてもらおうじゃん?」


ワクワクしながら、QRコードリーダーを起動。


そして——画面に表示されたコードを、カメラにかざした。

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