第7話 勇者視点――剣聖の力があるんだから、努力なんてしなくていいよね
「やった……! まさか本当に“勇者”として転生できるなんて。僕ってば、運がいいなぁ」
僕が転生したのは勇者のアーク。
ベッドの上でごろりと寝転びながら、僕は改めてこの現実を噛みしめる。
生前、僕は日本でニート生活を送っていた。
まぁ、両親がそこそこ金持ちだったからできた人生だ。
好きなゲームを買い漁り、アニメを見放題、毎日が自由で楽しかった。
……とはいえ健康管理なんてまともにするはずもなく、不摂生がたたって二十代半ばで死んでしまったんだけど。
でも、後悔はそんなにしていない。
だって幸せだったし。やりたいゲームは全部やって、大量のフィギュアに囲まれて人生をエンジョイしてたんだから。
そして死んだと思ったら、今度はまさかの“ゲームの世界”に転生していた。
しかも“勇者”だ。――自分でも驚くよね?
「ふふ、最高じゃん。……ああ、そういえばこのゲーム、確か女性向け要素もあるRPGだったよな。いや、パッケージは乙女ゲーっぽいけど、実際は主人公がガッツリ戦闘もこなす系のやつ……」
そう。このゲーム、名前は多少うろ覚えだけど、男女問わず人気があったRPG。
物語は“勇者”の存在がキーになる世界観で、メインストーリーには恋愛要素も盛り込まれていた。
僕は昔からこのゲームが大好きで、ニートのくせに課金要素があれば親のクレジットカードを使って無制限に課金するほどやり込んでいた。
おかげで実家には怒られたが……それも今はいい思い出。
で、気づけば僕はこの世界に“勇者”として生まれていた。
両親も貴族階級のようだが、詳しいことはあとでいい。
僕はとにかく、この世界でどれだけ俺TUEEEできるかが楽しみなんだ。
“勇者”は最強スキル【剣聖】を持ち、さらに他のスキルもサブで獲得していくらしい。
とにかく圧倒的戦闘力がある存在――少なくとも僕がプレイしたルートではそうだったし、原作でも勇者が最強のはず。
ちょっと気になるのは、物語中に“悪役貴族”というのがいて、そいつは勇者に絡んできては最後に破滅するというストーリー。
名前はたしか……レオン? いや、なんだっけ? 記憶があやふやだ。
まぁ、どうでもいい。
ゲーム上では勇者の邪魔をしてくる嫌味なやつだし、何なら僕が剣でサクッとやってもいいか。
「はは、ああ、早く学園生活が始まってほしいなぁ。ハーレムとか作ってみたいし。美少女とイチャイチャもしたいし。あ、でも王都にいる貴族の娘とか、お姫様とか、誰を攻略しようかな。……うん、楽しみだ」
僕は布団の上を転がりながら、ニヤニヤと妄想を膨らませる。
前世の僕は彼女いない歴=年齢で、二次元にしか興味がなかったから、女性とまともに付き合ったことがない。
けど、今度こそは違う。
なにせ“勇者”だもの。
ステータスだって周囲の一般人より断然高いし、将来的には王城からのバックアップだって期待できる。
そうなれば自然と美女も金も集まってくるはず。
そんな幸せな妄想に浸っていると、ノックの音が聞こえてきた。
ドアを開けると、そこには筋骨隆々の男性――僕の“指南役”らしい。
名前はガイツ・ローハンとか言ったかな。
「アーク様、本日の訓練の時間です。剣技の基本から、魔物討伐のシミュレーションまで、しっかりと行いましょう。どうか、こちらへ――」
ガイツはまるで騎士みたいに恭しく頭を下げる。
でも僕は正直、めんどくさい。
「……訓練? 別にいいよ。僕、もう強いし。スキルだって【剣聖】だから、努力なんか要らないでしょ?」
「しかし、トウマ様。学園に入られたときのためにも、基礎はおろそかにしないほうが――」
「うるさい。やる気ないし。今は寝たいから、出てってよ」
バタン、とドアを閉める。
前世では自由気ままに生きてきた僕だ。今さら誰かの言いなりになんてなれるわけない。
それに、このゲームの設定上、勇者は放っておいても最強に近い。
特に【剣聖】っていうスキルは、武器適正がとにかく高くて、少し触れば覚えるし、実戦経験なんか無くても初見からモンスターをサクサク斬り倒せるんだ。
「まあ、努力しなくても最強なら、それでいいでしょ? 学園が始まるまでの数か月は、このまま好きに過ごすか……」
僕は布団に潜り込み、再び妄想の続きを楽しむ。
悪役貴族? そんなやつ、学園で見かけたら速攻で斬るか、適当に罠にはめて“ざまぁ”してやろう。
どうせストーリー上でも、そいつは破滅するだけの存在。
僕がほんの少し手を加えれば、もっと早く退場させられるかもしれないし。
ハーレム構築の障害になるなら、排除するだけ。
「えへへ、最高に楽しい世界だよな……。前世よりよっぽど夢があるわ」
こうして、僕は“勇者”としての人生を謳歌し始めるのだった。努力? そんなの必要ないって思ってる。
数か月後、華やかな学園生活が始まれば、僕の人生はますますバラ色。早く来い、春! この僕が最強だって、世に知らしめてやる。
―――
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