第386話 出世した副長

 ラターニアの敗戦によって我が帝国軍も組織改編が行われた。

 現在、軍上層部は事務方と官僚が多い。

 戦場に出た【将】と【佐】が死にまくった結果である。

 さらに公爵会の壊滅によって上位の領主も不足する。

 その結果このエディ・アンハイムにも昇進の順番が来てしまった。

 エディ・アンハイム大佐。

 そしてエディ・アンハイム上級侯爵。

 肩書きに【上級】が生えてきやがった。

【皇室の親戚扱いですよ】って意味だそうで。

 頭痛がする。

 しかも大佐である。

 いや、これは予測していた。

 なんでも前任の大佐が定年退職で軍を去ったらしい。

 領地に戻って復興に尽力するそうだ。

 文句の一つも言えないほど完璧な理由である。

 それで空いた席に……というか穴だらけすぎるので予定を前倒しして大佐に任命したそうである。

 軍に抗議したら「だってみんな死んだんだからしかたねえじゃん」という内容が丁寧に書かれた書類が来た。

 殴りたい。

 ついでに元公爵会の惑星のいくつかが俺の領地になった。

 帝国さぁ!!!

 さて、そんな俺は軍の命令でレオをスパイしている。

 もちろん命令が下った瞬間、ヴェロニカちゃんに言いつけた。

 当たり前だ。俺は忠誠を誓う相手は選んでる。

 皇帝陛下とレオを裏切る気はない。

 そしたらヴェロニカちゃんは「かまわん。提出するレポートのコピーを妾に提出しつつ続けよ」と命令された。

 軍の命令は「ジェスター能力の評価」ということである。

 レオとアリッサ、それにタチアナを観察せよとのことだ。

 俺だってわからないのに人に説明できるはずがない。

 なのでこういうのの達人に助けを求めた。

 婚約者のミネルバである。


「エディ、そちらに向かうね」


 そう言われたが……どうやって?

 二週間くらいかけてミネルバがやってきた。

 あのあとミネルバは軍を退役し、いまは大学生になった。

 奨学金もゾーク戦争の勝利の特例で契約期間は短縮。満額出るらしい。

 奨学金が決まる前、「学費出そうか?」って聞いたことがあるんだが「いらない」って言われた。

 こういうときだけは自分の未熟さを思い知らされる。

 俺……少しキモかったかも?

 ただ、その大学なのだがゾーク戦争の影響で講義はほとんど行われてない。

 帝都の大学は単純に建設が間に合ってないのだ。

 だからミネルバも暇はあるようだ。

 来てくれることはうれしい。

 ミネルバを鬼神国の宇宙港へ迎えに行く。

 軍服で宇宙港に行ったらなぜかサインを求められまくった。


「あの聖女様一行の!」


 タチアナちゃんのおまけとしてか。

 ま、そんなものだろう。

 求められるままにサインをしてると帝国からの船が来た。

 運んでるものの半分が貨物で半分が客という貨客船だ。

 外宇宙への訪問は特別な許可を受けたものしか許されてない。

 商社の社員やレオとクレアの会社の社員に俺たち軍人の家族、その護衛くらいか。

 婚約者は家族枠だ。

 船が到着する。

 すぐに護衛の駆逐艦の物資搬入が行われる。


「アンハイム大佐に敬礼!」


 偉くなるとこういう無駄な挨拶が挟まれる。

 少佐の方が気分が楽だ。

 中佐から上は基地の総責任者クラス。

 だから、こういうのが必ず入る。

 俺が敬礼を返すと作業員が仕事に戻る。

 そもそもだ。

 ミネルバを迎えに来ただけなのに。


「殿! 受け入れ準備完了にゴザル!」


 末松さんたちアンハイム騎士団の精鋭もついてきていた。

 俺の護衛である。

 それと……。


「大佐殿! 物資搬入完了しました!」


 エッジが敬礼した。

 実は今回のミネルバのお迎えなのだが、エッジやアリッサの操船実習も兼ねている。

 これやっておかないと昇進させられないそうである。


「諸君、一時間後に出発する。それまで休め」


 さーて、ミネルバと合流してメシでも食おうっと。

 ミネルバが船から下りてきた。


「久しぶりエディ」


 もう軍属じゃないから階級呼びじゃない。


「ああ、久しぶり。元気そうだね」


「いつまでたっても学校始まらないから暇で暇で。声かけてもらってよかったよ」


「おかげで助かった。俺一人じゃどうにもならんかったよ。じゃ、移動しようか」


「移動って? ラウンジ?」


「それがさ……」


 鬼神国のスタッフに案内される。

 V.I.P.ルームに通された。

 護衛は交代で別室にて食事。


「ぶ……V.I.P.嘘でしょ……」


「大佐なもんで」


 俺も宇宙港に出店してるチェーン店の方がいいよねって思うけど、大佐になるとそうもいかないようだ。

 一般兵と同じ物食べて、食堂で仕事してるレオが異常なのである。


「お食事をお運びいたします」


 仲居さんに言われる。


「お食事って?」


「帝国の寿司屋のコース料理だって」


「三つ星だって……あ、この人。国営放送で特集してた人だ」


 メニュー表に載ってるおじさんを見てミネルバが声を上げた。

 そんな偉い人なのか……。


「そうなのぉ?」


 商社が会議する場所だからそうなるのか。

 俺は仲居さんを呼ぶ。


「すみません。予約してる部下たちのコースにこれとこれを追加してください」


 体育会系なのでこの量じゃ腹を空かせてしまう。

 さすがにお酒は出せないが腹だけは満たしてやろうと思う。

 するとミネルバが驚いてた。


「……慣れてるのね」


「基地の総責任者だからね。お酒頼む? もう解禁でしょ?」


「え、いいの?」


「いいよ。俺は飲めないけど……」


「どうして?」


「血中アルコールが一定量を超えると問答無用で通報されることになってね……」


 そもそもだ……イチゴ騒動の時に士官学校勢からピゲットさんのイチゴ酒を勝手に飲んだバカが出たのである。

 それで酔っぱらったところを捕獲、そのまま反省室送りになったわけだ。

 ヴェロニカちゃんは激怒。

「お前らの代わりがおらんのじゃ! バカども!!!」ってね。


「あいかわらず闇が垣間見えるよね……」


「ま、それだけ心配してくれてるってことで」


「そうだね。そっちの方がいいか。精神衛生上。えっと、じゃあ、これ飲んでみたい」


 ということで注文。

 俺はお茶。悲しい。

 前菜が運ばれてきた。

 鮨職人が目の前で握ってくれるスタイルじゃなさそうだ。

 この部屋は密談もするからこうなのか?

 よくわからない。


「あ、これおいしい!」


 酢の物を食べてミネルバがニコニコする。

 俺には料理の名前すらわからない。

 だが美味しいのだけはわかる。

 ああ、レオのおかげで遠くまで来たものだ……。

 外宇宙で婚約者と高級寿司食ってるとか言っても去年の俺は信じないだろう。

 ああ、なんて幸せなのだろう。

 なんて幸せと共に小さな巻き貝を噛みしめてた。うまいなこれ。

 でも俺は知らなかった。

 鬼神国の宇宙港に危機が迫ってるなんて。

 屍食鬼のアホどもがこっちに現われたなんて知らなかったのである。

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