アイスクリームサンデーのように

はい

1 洗礼者ヨハネ:【陸斗】

 僕は比留間陸斗ひるまりくと。今日は新学年の新学期。都心の学校だが、芸術コースがあることでさまざまな生徒が目指して通うのも特徴だ。遠くから通う生徒もいれば、近くの生徒もいる。高校三年の今年、僕は芸術コースのクラスを選択した。三年ともなれば、進路に沿った選択をする。僕の家は大企業・比留間ホールディングスで、家を継ぐのは兄。後妻の息子で次男の僕は、系列の比留間芸術財団を任されることになる。僕は家の目的に合わせ、アートマネジメントの道に進むことにした。

 アートマネジメントとは、現代社会と芸術文化をつなぐこと。文化庁によると「芸術を発展させるために不可欠」とある。つまり、うちの会社の持つお宝を任されるということだった。

「あれ、比留間。芸術取ったの?」

 去年も同じクラスで割と仲良かった女子、亜美ちゃんが声をかけてきた。亜美ちゃんは「なんであんたが芸術を」と言わんばかりの語気の強さだ。

「うん、進路で必要なんだ」

「へー! 比留間ホールディングスも美術品持ってるんだ。さっすが~。御曹司!」

「亜美ちゃんはアニメーター志望だもんね」

「……わ、府玻ふわと同じクラスだ。芸術ってこのクラスしかないからか。あいつ感じ悪いんだよね~」

 亜美ちゃんが言ったが、誰のことか特定できないままチャイムが鳴った。

 芸術コースは一クラス三十名なので多分少ないと思う。初日の今日はクラス全員で「ひとこと自己紹介」を行った。

「比留間陸斗です。二年までは二組でした。今年から芸術コースにしました。アートマネジメントを学ぶ進路を考えています」

 去年まで同じクラスだったメンバーもちらほらいて、手を振り合ったりした。座席は番号順で、僕の後ろの席は最後列の府玻くんだった。僕のうしろで席を立つ音がしたので振り返った。

「府玻ヒカルです」

 府玻くんはその一言だけを言って、着席した。切れ長の目は冷ややかで、このクラスの誰にも興味がありません、という態度だった。クールビューティ。髪は伸ばしっぱなしなのか、襟足が長めだった。高く通る鼻筋に、ポテッとした唇はとても色っぽかった。色が白く、制服の襟から見える首筋は凛としていた。府玻くんの美しさには気高さがあって、僕はすぐに前を向き直った。

 自己紹介が続く中、僕の背後から「おい」、「お前だよ」と声がした。恐る恐る振り返ると、呼んでいた主は府玻くんだった。

「僕?」

「お前、ガイジン?」

 府玻くんが突然言った。

「クオーター」

「綺麗な顔しているな。……今度モデルやってよ」

「モデル? 絵の?」

「うん。やって。顔が綺麗だから」

「いいよ。いつでも」

 ……って、え? 綺麗なのは君のほうですけど、と思ってしまった。絵のモデルか。何だか面白そうだ。

「いつやれば良い?」

「え、別に決めてないよ。今思いついただけ」

 府玻くんが少し困った顔をしていた。楽しみにしちゃったな、と思ったら顔に出ていたのか。

「……わかったよ。お前やりたいのか。今度プラン立てとくよ」

 と府玻くんが気を遣って言ってくれた。

「僕は比留間陸斗。席も前後だから仲良くしてね」

 と改めて自己紹介をした。

「……さっき聞いたよ」

 あ、そっか。と思い、僕は前を向いた。亜美ちゃんが言うほど感じ悪くない。ただ、めちゃくちゃカッコいい。

 ホームルームが終わり、帰りがけに「府玻いる? 二年来てる」とドアから声がかかり、帰ろうとしていた府玻くんが帰るついでに廊下に出た。僕はちょっと興味があって、体を伸ばして廊下に目をやった。開いたままの引き戸の隅が見える。どうやら、女子から手紙を受け取っていた。

「また文化祭のポスター描いてください!」

 などと言われて、女子たちが走り去ったのと同時に、府玻くんが帰って行った。

「また府玻がモテてるよ。比留間は府玻と仲良くなったの?」

 亜美ちゃんとその仲間が僕の席に来た。

「仲良く……とまでは」

「府玻には友達がいないけど、ウチの彼氏が噂で聞いたところによると、どうやら悪い先輩たちとツルんでるらしいよ。この辺の良くないところに出入りしてるとか聞いた。影響されて、比留間のボンボンが非行に走らないように」

 亜美ちゃんたちはそう言い残して帰って行った。そうなのか、と感心めいた気持ちになった。府玻くんは不良なのか? さっきの二年の女子が言っていた通り、毎年文化祭のポスターは府玻くんが描いていた。府玻くん以外の描き手が立候補しないからだ。府玻くんのポスターは、水彩だった。最近はグラフィックを使用したイラストも主流の中で、たしかに府玻くんはアナログ手法をとっていた。昨年は、校内で一番大きな椎の木を描いていた。突飛な作品ではなかったけれど、緑豊かで、その悠然とした木の姿は印象的だった。本当に不良なのだろうか? 悪い人の描く絵ではないと思う。

 あんなにクールで、カッコいい人が同じ学年にいたんだということに驚いた。

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