アイスクリームサンデーのように
はい
1 洗礼者ヨハネ:【陸斗】
僕は
アートマネジメントとは、現代社会と芸術文化をつなぐこと。文化庁によると「芸術を発展させるために不可欠」とある。つまり、うちの会社の持つお宝を任されるということだった。
「あれ、比留間。芸術取ったの?」
去年も同じクラスで割と仲良かった女子、亜美ちゃんが声をかけてきた。亜美ちゃんは「なんであんたが芸術を」と言わんばかりの語気の強さだ。
「うん、進路で必要なんだ」
「へー! 比留間ホールディングスも美術品持ってるんだ。さっすが~。御曹司!」
「亜美ちゃんはアニメーター志望だもんね」
「……わ、
亜美ちゃんが言ったが、誰のことか特定できないままチャイムが鳴った。
芸術コースは一クラス三十名なので多分少ないと思う。初日の今日はクラス全員で「ひとこと自己紹介」を行った。
「比留間陸斗です。二年までは二組でした。今年から芸術コースにしました。アートマネジメントを学ぶ進路を考えています」
去年まで同じクラスだったメンバーもちらほらいて、手を振り合ったりした。座席は番号順で、僕の後ろの席は最後列の府玻くんだった。僕のうしろで席を立つ音がしたので振り返った。
「府玻ヒカルです」
府玻くんはその一言だけを言って、着席した。切れ長の目は冷ややかで、このクラスの誰にも興味がありません、という態度だった。クールビューティ。髪は伸ばしっぱなしなのか、襟足が長めだった。高く通る鼻筋に、ポテッとした唇はとても色っぽかった。色が白く、制服の襟から見える首筋は凛としていた。府玻くんの美しさには気高さがあって、僕はすぐに前を向き直った。
自己紹介が続く中、僕の背後から「おい」、「お前だよ」と声がした。恐る恐る振り返ると、呼んでいた主は府玻くんだった。
「僕?」
「お前、ガイジン?」
府玻くんが突然言った。
「クオーター」
「綺麗な顔しているな。……今度モデルやってよ」
「モデル? 絵の?」
「うん。やって。顔が綺麗だから」
「いいよ。いつでも」
……って、え? 綺麗なのは君のほうですけど、と思ってしまった。絵のモデルか。何だか面白そうだ。
「いつやれば良い?」
「え、別に決めてないよ。今思いついただけ」
府玻くんが少し困った顔をしていた。楽しみにしちゃったな、と思ったら顔に出ていたのか。
「……わかったよ。お前やりたいのか。今度プラン立てとくよ」
と府玻くんが気を遣って言ってくれた。
「僕は比留間陸斗。席も前後だから仲良くしてね」
と改めて自己紹介をした。
「……さっき聞いたよ」
あ、そっか。と思い、僕は前を向いた。亜美ちゃんが言うほど感じ悪くない。ただ、めちゃくちゃカッコいい。
ホームルームが終わり、帰りがけに「府玻いる? 二年来てる」とドアから声がかかり、帰ろうとしていた府玻くんが帰るついでに廊下に出た。僕はちょっと興味があって、体を伸ばして廊下に目をやった。開いたままの引き戸の隅が見える。どうやら、女子から手紙を受け取っていた。
「また文化祭のポスター描いてください!」
などと言われて、女子たちが走り去ったのと同時に、府玻くんが帰って行った。
「また府玻がモテてるよ。比留間は府玻と仲良くなったの?」
亜美ちゃんとその仲間が僕の席に来た。
「仲良く……とまでは」
「府玻には友達がいないけど、ウチの彼氏が噂で聞いたところによると、どうやら悪い先輩たちとツルんでるらしいよ。この辺の良くないところに出入りしてるとか聞いた。影響されて、比留間のボンボンが非行に走らないように」
亜美ちゃんたちはそう言い残して帰って行った。そうなのか、と感心めいた気持ちになった。府玻くんは不良なのか? さっきの二年の女子が言っていた通り、毎年文化祭のポスターは府玻くんが描いていた。府玻くん以外の描き手が立候補しないからだ。府玻くんのポスターは、水彩だった。最近はグラフィックを使用したイラストも主流の中で、たしかに府玻くんはアナログ手法をとっていた。昨年は、校内で一番大きな椎の木を描いていた。突飛な作品ではなかったけれど、緑豊かで、その悠然とした木の姿は印象的だった。本当に不良なのだろうか? 悪い人の描く絵ではないと思う。
あんなにクールで、カッコいい人が同じ学年にいたんだということに驚いた。
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