俺の周り、美女しかいないんだけど…全員元男!?
ずー子
第1話
キーンコーンカーンコーン
「ほら!授業中はスマホ禁止!使ったら欠席扱いだからな?」
俺はいつもの通り生徒たちに注意をして授業を開始する。苦学生だった俺は安定を求め比較的マシな高校の教師になった。男子校だから浮いた話もなく、未成年に手を出して捕まるなんて心配もない。真面目だが実はオラついてた先輩教員がどこかの女子生徒に手を出して、責任問題で大変なことになったと言う話を聞いたときは肝が冷えた。そもそもだ。
「…現代日本の少子化問題についての原因は諸説あると言われている。更に問題なのは、生まれてくる子どもの男女比だ。産み分けが科学的に未知数なところもあるが、家長制度の関係から男女の比率が大きく偏りつつある」
そう、今の日本は男が圧倒的に多い。染色体のせいなのか、食生活のせいなのか、それとも環境問題のせいなのか、原因は不明だ。
「その問題に対して、政府は男女比の是正を政策として掲げた。そして、その政策の一環として性転換技術が……」
「先生」
俺の話を遮って生徒の一人が手を挙げた。
「……なんだ?」
「性転換技術は、少子化対策のために生まれた技術なのですか?」
「それは……」
俺は言葉に詰まる。確かにそうだ。この政策は少子化対策として行われているが、それが本当に効果のあるものなのかは疑問視されている。
「オイオイ委員長、梅ちゃん困ってるぜ?あんまり難しいこと聞くなよ」
生徒の一人がそう言って笑う。カーストトップの成海だ。生徒なのにいつも俺を誂う成海に助け舟を出されたことに少しイラッとしたが、確かに少し分かりづらいところがあるのも事実だ。
「そうだな、じゃあもう少し簡単なことから始めよう。現代日本が抱える少子化問題は、ここ数年深刻化している」
俺は資料を開きながら更に説明を続ける。
「統計によれば女性の晩婚化に原因があるとされているが、その原因には経済的負担が大きいことが指摘されている」
この学校の生徒は良い子ちゃんが多い。その生徒たちは真剣に俺の話を聞いている。特に優等生であり委員長である誉は、目を輝かせながら俺の話を聞いていた。俺は調子にのって少し饒舌になる。
「だが、だからといって少子化が続くと社会の持続が難しくなる。一方で、働きたい女性はキャリア形成の観点から子どもを産まないという意思を尊重すべきであると言う声も少なくない」
3分の1以下となってしまった女性達だが、依然として意識は高い。むしろ減ったから尚更、権利を声高に主張しつつある。
「そこで、政府が編み出したのが男性を女性に変えてしまう『性転換技術』である。これは一定の要件を満たした戸籍上の性別が男性のものに対し政府からの通達が届き、受け入れた場合補助金と助成金が支払われる」
「その一定の要件とは?これは、性転換後に妊娠する可能性が高いと総合的に判断された場合とあり、詳細は非公開となっている」
「性転換技術は、遺伝子情報を書き換えることで男性を女性に変える技術だ。性転換するにあたり、遺伝子情報の書き換えに要する時間は約1年。その間は妊娠することができない。この技術は、性転換する前と後で遺伝子情報に差が生じるため、その差異を補正する必要があるからだ」
生徒たちが感心したように頷く。俺はさらに説明を続ける。
「この技術の最大のメリットは、男性から女性への性転換が可能であるということだ。これはつまり、男性同士でも子作りができるということだ」
3分の2が男性の社会となった今、男性同士のカップルは珍しくない。
「もちろん、性転換に抵抗感を持つ人は少なくない。だが、本人たちの合意があればこそではあるが、それでもこの技術は少子化対策として有効な手段と言えるだろう」
俺はそう締め括った。そして授業終了のチャイムが鳴る。生徒たちは素早く片付けを始めた。そんな中一人座ったまま動かない生徒を見つける。誉だ。ボーッとしている誉の様子を見て不思議に思うが、俺には関係ないのでそのまま次の授業の準備を始めることにする。
しばらくして俺も立ち上がり職員室へ戻ろうとしていた。
「うーめちゃん」
からかうような声がして顔を向けると、成海が猫みたいに笑っていた。
「なんだ?成海」
「さっきの話、もっと詳しいこと俺聞きたいんだけど」
「詳しいこと?」
「そ。例えば、政府から連絡が来たのを断っていいかとか、オンナになる時痛いとか」
「それは……」
俺は答えに詰まる。成海がなぜそんなことを聞いてくるのか分からなかったからだ。
「……そういう質問は、不安をあおる場合もあるから実際に話が来ない限りはしないことになっている」
そう言って誤魔化そうとすると、成海は少し驚いた顔をした後ニヤリと笑った。
「ふーん?じゃあ梅ちゃん、俺に教えてくれない?」
「え?」
「だって俺、よく分かんないし」
そう言うと成海は俺の腕を摑んでくる。その目は獲物を狙う肉食獣の目だった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、まさか…」
俺は成海から逃れようとするが、成海の力は強かった。
「…俺、市役所?からこんなの来たワケ」
そこには『性転換対象者のお知らせ』と書かれていた。俺はそれをみて驚いた顔をする。
「成海、お前…」
「あはは、梅ちゃんがんな顔すんなって。ただやっぱちょっと怖いっつーか、もっと知りたいワケ。わかるっしょ?」
チャラついているが、成海だってまだ高校生だ。不安な気持ちはよくわかる。
実はこの技術だが、俺の叔父の研究所が主体となって始めたものだ。だから俺は普通の人間より多少、いや、大分詳しかったりする。リスク、リターン、被験者へのケア等。俺は成海が心配になった。
「分かったよ。でも、この話はここじゃなくて……」
「あ!じゃあさ、今日俺ん家来てよ」
「え?いやでも、お前親御さんが……」
「いーのいーの、梅ちゃんなら大歓迎だって!」
そう言って強引に話を進めてくる成海に、俺は渋々了承した。この時点で気づくべきだったのかもしれない。
「でも梅ちゃん童貞なのに性転換技術の授業すんのしんどくね?」
「…か、関係ないだろ、童貞は」
「え?マジで?マジで童貞?」
「う、うるさいな!」
「はは、ウケる」
成海はケラケラ笑う。スクールカースト上位だけあって、成海はモテる。ストリートショット?とかがSNSでバズったりと、俺は疎いからよくわからないが、整った顔が受けるらしく、ただでさえ母数の少ない女性を独占しているらしい。
「まぁいいや、じゃあ放課後よろ〜」
「……わかったよ」
俺は渋々頷いた。正直気が重いが、授業で教えた手前無責任なことはできない。それに、生徒が俺を頼ってきたのだ。無下にはできなかった。
「…モテるから、女体化を推進されたとかじゃないといいな」
少し可哀想な気もしていた。だがそれは杞憂だった。
***
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます