第41話 必死の一撃
声の主はミレイアだった。
彼女はエリゼの身体を抱え、跳躍する。
次の瞬間——
ガルムの蹴撃が、寸でエリゼのいた場所を掠め、轟音とともに大気を震わせた。
「おお……あの黄金を脱いできたか……」
ガルムが感心したように呟く。
だが、彼の視線はすぐに跳躍した二人を捉える。
「しかし——空中でその体勢でいいのか?」
大斧を振るおうとするガルム。
しかし、その言葉に、ミレイアは冷ややかな声で返した。
「ええ、私たちは四人だから。」
——直後。
ガルムは、背後から襲い掛かる雷の気配を感じ取った。
「……っ!」
咄嗟に振り返る。
雷の収束する音が耳を打ち、リュシオンの
「
リュシオンの叫びとともに、雷の奔流がガルムへと迸る。
「そうだそうだ、こいつがいたんだったな。」
ガルムはにやりと笑い——
「これは、さすがに受けられん。」
寸で跳躍し、雷撃を回避する。
「くそ……このタイミングでも当てられないのか……!」
リュシオンは唇を噛む。
しかし——
ガルムが空中に逃げた。
先に着地したミレイアが、エリゼに振り向く。
「無理しないで!」
そう言い残し、空中のガルムへと駆け出した。
氷の魔力を纏い、アイシクルサイズを構える。
ガルムはその姿を目にし、歓喜に満ちた表情を浮かべる。
「さすがだ……これは感慨深いねえ。やっぱり、来てよかった。」
そう言いながら、大斧を大きく振るい、ミレイアを迎え撃つ。
ミレイアは舞うように身を翻し、アイシクルサイズを大斧に掠らせながら反転し、そのまま眼前まで迫る。
「痺れるよ、本当に君は……!」
ガルムは歓喜の声を上げ、大斧を地面に投げ捨てる。
次の瞬間——
両腕に黒いオーラを纏い、それをクロスさせ、ミレイアの渾身の一撃を受け止める。
——轟音。
ミレイアの一撃を受けたガルムの身体が、重力に引かれるように地面へと叩き落とされる。
——着地点。
そこには、すでに構えを取るラグナの姿があった。
「これで終わりだあああ!!」
燃え盛る炎が渦巻き、ラグナの
「
咆哮とともに、ラグナの技が解き放たれる。
しかし——
「甘いな。」
左足で先に着地したガルムは、その勢いのまま、右足で回し蹴りを放つ。
ラグナの《ボルケーノ・ハウル》と激突し——
業火と衝撃波がぶつかり合い、凄まじい熱風が戦場に吹き荒れる。
ラグナは全力の一撃を込めたはずだった。
しかし——
「温い攻撃だな。」
ガルムの回し蹴りは、炎を切り裂き、ラグナの攻撃を易々と打ち返した。
「もう疲れちゃったのか?——ラグナ。」
ガルムの低く囁く声が、ラグナの耳に届く。
「……っ!」
ラグナの目が見開かれる。
「俺の名前……なんで……!?」
驚愕するラグナ。
ガルムの蹴撃がラグナの身体を捉え——
——轟音とともに、ラグナが数メートル吹き飛ばされた。
ラグナが吹き飛ばされた直後——
空中にいたミレイアが、爆発的な冷気を解き放った。
ガルムはその覇気を敏感に察知する。
「……来るか!」
ミレイアは、ラグナへの回し蹴りの直後で地上で体勢を崩しているガルムに向かって、一気に冷気を放つ。
「
凍てつく極寒の波動が地面を伝い、ガルムの足を凍結させる。
「……ッ!」
凍結は瞬く間にガルムの脚を這い上がり、膝元までを氷で縛りつけた。
しかし——
「まだまだだあああ!」
ガルムは咆哮しながら、両手で自らの両足を殴りつけ、氷を粉砕する。
ミレイアは悔しげに歯を噛みしめたが、その背後で、再び雷の収束する音が響いた。
——リュシオンだった。
彼はすでに雷撃を溜め込み、今まさに放とうとしていた。
しかし、ガルムはわずかに目を細めて笑う。
「その程度しか貯まっていない雷撃なら、怖くねえな。」
言い放つと同時に、地面に突き刺さっていた大斧を引き抜き、リュシオンの雷撃を完全に受け止めた。
雷光が弾かれ、空間に散らばる。
「くそ……この威力じゃダメか……!」
リュシオンは悔しげに唇を噛む。
——だが、その瞬間。
ガルムの側面に、燃え盛る炎のオーラを纏い、突進するエリゼの姿があった。
リュシオンはそれを見て、にやりと微笑む。
「いや……十分に意味はあったかな。」
エリゼは小さく呟く。
「取った……。」
ガルムはその声を聞き、薄く笑う。
「誰から取ったって? まだ動けるその根性は認めるが……結局その動きなら、俺は反応できるんだよ!」
そう言い放つと同時に、エリゼへ向けてノールックで強烈な回し蹴りを繰り出す。
——確実に捉えた。
……はずだった。
しかし。
「っ!?」
ガルムの蹴撃が捉えたのは、影——
エリゼの実体ではなかった。
突如、逆の側面から襲い掛かる、強烈な殺気。
「フェイクだと……!? あの、身体の状態で……動けていることすらおかしいはずなのに……!」
ガルムが驚愕し、視線を向ける。
しかし——
時すでに遅かった。
エリゼの全身から、限界を超えた輝く炎が奔流となって溢れ出す。
「——
その瞬間、エリゼの渾身の一撃が、ガルムの身体に直撃する——
……はずだった。
「……!」
突如、ガルムの全身から、まるで爆発のような強烈な爆風が発生。
「な……っ!」
吹き荒れる衝撃波が、エリゼ、ミレイア、リュシオンを容赦なく吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
エリゼは爆風に弾かれ、地面を転がりながら倒れ込む。
視界が霞む。
「……そんな、……これでも……」
彼女の手から、アグレイヴァスが滑り落ちた。
もう、握る力すら残っていない。
一本。
一本だけでも……
——入れられなかったのか。
絶望が、胸を締め付ける。
そのとき——
戦場の中央。
堂々と立つガルムの大きな笑い声が、轟くように響いた。
「ハッハッハッハ!!!」
エリゼの瞳が揺れる。
——なぜ笑っている?
そんな疑問が浮かんだ瞬間、ガルムが大声で呼びかけた。
「お前たちの勝ちだ!」
エリゼは息を呑む。
「……え?」
「最後の一撃は、確実に入っていた。」
ガルムはどこか楽しそうに、胸を叩く。
「俺は負けるのが大嫌いでな。ついつい力を使ってしまったが——」
彼はゆっくりと歩きながら続ける。
「……あれは回避しようがない。潔く、今回は俺が一本取られたと認めよう。」
その言葉に——
エリゼの心が、ほんの少しだけ揺らいだ。
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