第36話 灼熱の玉座に挑む者たち

 次の瞬間——


 とてつもない熱気が肌を焼くように押し寄せた。


 エリゼたちが降り立ったのは、まるで火山の内部のような場所だった。


 地面は赤黒く熱を帯び、足元にじわりとした圧を感じる。


 広がる大地の直径は、およそ百メートル。その外縁には、煮えたぎるマグマの海が広がり、赤い光がゆらゆらと立ち昇っている。中央には、石造りの階段がそびえ、その先には王座のような玉座が置かれていた。


 ——そして、その玉座に、堂々とした姿でガルムが座っていた。


 「ガルムっ……!」


 エリゼは唇を噛み、目を鋭く細めた。


 炎を背に、玉座に鎮座するその姿は、まるで火の王そのものだった。


 すると——


 ガシャン——!


 金属が擦れるような音が響く。


 「……っ、なんだこれ?」


 エリゼが周囲を見渡すと、ラグナ、リュシオン、ミレイアの三人が、全身を黄金の鎧に覆われていた。さらに、それぞれが巨大な黄金の盾を両手に持っている。


 「なんだこの鎧……めちゃくちゃ重いぞ!」


 ラグナが不満げに唸る。リュシオンやミレイアも、突如としてまとった鎧に不信感を抱いていた。


 「脱げる……?」


 ミレイアは黄金の兜に手をかけ、脱ごうとした——その瞬間だった。


 「おっと、待ちな!」


 大地が揺れるような低い声が響く。ガルムが、大声でこちらに呼びかけたのだ。


 その声は、まるで身体の内側まで震わせるような圧を帯びていた。


 「今から行うのが——第一層の最終試練だ。」


 ガルムは玉座に肘をつきながら、どこか愉快そうに言葉を続ける。


 「ルールは単純明快だ。俺に一本でも攻撃を入れられたら、お前たちの勝ち。」


 そう言いながら、ガルムは不敵な笑みを浮かべる。


 「ちなみに、その黄金の鎧は脱いでも構わないぜ?」


 そう言った後、ニヤリと笑い、


 「——だが、脱げるかな?」


 そう言いながら、指を鳴らした。


 パチン——


 その瞬間。まるで呼応するかのように、マグマが激しく沸き立ち——次々と剣を持った骸骨が現れた。


 「……っ!?」


 骸骨たちは、まるで炎の中から生まれるようにして立ち上がってくる。片手に剣を持ち、妙にしなやかな動きを見せている。


 しかも——その骸骨たちの全員が、桃色の浴衣を纏っていた。


 「……浴衣?気味が悪いな」


 「何なんだよ……この妙なセンスは……」


 リュシオンとラグナが困惑しながら呻くが、それを冗談にしている余裕はない。


 骸骨の数は、およそ100体——。


 彼らはゆっくりと包囲網を縮めながら、剣を構え、確実にエリゼたちへと迫ってくる。


 リュシオンはすぐに状況を把握した。


 「警戒しろ! 奴らがどんな奴らかまだ分からない!」


 ガルムが満足そうに笑いながら、指をトントンと肘掛けに打ちつける。


 「さぁ、どうする? 俺に攻撃を入れるために、どう動く?」


 エリゼは拳を握りしめる。


 黄金の鎧を纏ったまま、100体の骸骨を相手にしながら、どうにかしてガルムに一撃を入れなければならない。


 それが、第一層の最終試練——。


 「くそっ……!」


 ラグナは黄金の盾を乱暴に地面へ叩きつけるように捨て、剥き出しの怒りを露わにした。


 「こんなもん、いらねぇ! 俺が直接ガルムにぶちかましてやる!」


 その言葉と同時に、彼は前へと踏み出そうとした。——その瞬間。


 「ラグナ、待って!」


 ミレイアの鋭い声が響いた。


 「まだ、この盾が何のためにあるのか分かっていないわ。勝手に捨てないで!」


 ラグナは苛立たしげに振り返るが、ミレイアの真剣な眼差しを見て、舌打ちしつつも足を止める。


 「……クソッ、で? どうするんだよ?」


 ミレイアは迷いなく答えた。


 「一旦、この盾を持ったまま、ガルムの元へ向かうしかないわ。 何のために与えられたのかは分からないけれど、無闇に捨てるより、使い道を見極めるべきよ。」


 リュシオンが頷き、ラグナも不満げにしながらも納得する。


 「……分かったよ。チンタラしてたら置いていくからな!」


 エリゼは三人を見つめた。


 「私は?」


 「エリゼは……」


 ミレイアは僅かに逡巡したが、すぐに決断する。


 「今は無理に前に出るより、私たちと足並みを揃えて行動しましょ!」


 エリゼは悔しさを滲ませながらも、頷いた。三人は黄金の鎧と盾を携えたまま、炎に包まれた大地を駆ける。熱気が肌を焦がすように押し寄せる中、正面にはガルムが玉座で彼らの様子を楽しむように見下ろしている。


 しかし——


 「出やがったな……!」


 道半ばで、骸骨兵の大群が進行を阻むように包囲を形成した。


 無数の骨がカタカタと鳴り響き、まるで生きた兵士のように剣を構える。


 「チッ、邪魔すんならぶっ飛ばす!」


 ラグナが両手に構えた巨大な黄金の盾を横薙ぎに振るう。


 その瞬間——骸骨兵たちは圧倒的な衝撃を受けてバラバラになり、白い骨片が四方へ吹き飛んだ。


 「ははっ、なんだよ、こんなもんか!」


 ラグナは不敵に笑ったが——


 次の瞬間、彼の表情が凍りついた。


 バラバラになったはずの骨が、まるで逆再生するかのように空中で組み上がり、元の骸骨兵の姿に戻ったのだ。


 「……嘘だろ?」


 ラグナが力強く振るった盾の一撃を受けても、骸骨兵たちは何事もなかったかのように剣を握り直し、再び襲い掛かってくる。


 「どうなってるんだよ……!?」


 リュシオンが鋭く叫んだ。


 「くそ……マジで倒せねぇのか、こいつら……!」


 そして——


 エリゼたち四人は、骸骨兵の大群に完全に包囲されていた。


 「とりあえず、今はエリゼを守るわよ!」


 ミレイアが咄嗟に指示を出す。


 「私たち三人でエリゼを囲んで、守りを固める!」


 「分かった!」


 ラグナとリュシオンも即座に頷き、黄金の盾を構えながらエリゼを中心に三角陣形を組む。


 剣を振り上げる骸骨兵が四方八方から襲い掛かる。


 だが——


 「うおおおおっ!!」


 ラグナが左側からの攻撃を黄金の盾で弾き返す。


 リュシオン、ミレイアも正面から突き刺される刃や剣撃を黄金の盾で受け止める。


 「エリゼを守りつつ、防御に専念しながら、ガルムの元へ少しずつ進めそうだ……!」


 リュシオンの分析通り、黄金の鎧がある限り、骸骨兵の攻撃は脅威にはならなかった。


 しかし——


 「このままじゃダメよ! 防戦一方じゃ、ガルムの元にたどり着けても攻撃できない!」


 ミレイアが焦燥の滲んだ声を上げる。

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