第五話 陽海夜学園
花園にひときわ大きく、神社の社殿のような厳かな建造物がある。ここが陽海夜学園。戦巫女の学び舎である。入口の脇には荘厳な威容とは似つかわしくない最新鋭の電光掲示板が設置されている。過去と未来が融合した感じが、いかにも花園らしい。
そんな電光掲示板の前には、訓練生と思しき制服を着た少女たちが集まっている。
「ええーと、わたしのクラスは、っと」
「むにゃむにゃ。あんまんとシュークリーム、ワシのために争わないで」
その人だかりの中に、舞桜と摩利華の姿があった。
電光掲示板にはクラス分けが表示されている。訓練生の総数は百名弱で、三つのクラスに分けている。ちなみに摩利華は半分眠っているらしく、奇妙な寝言を言っている。
「あ、わたしは一組だ! 摩利華ちゃんは二組だね! 別々だけど一緒に頑張ろう!」
「にく……肉まん……!」
「肉まんじゃなくて二組! 昨日あれだけ食べたのに、もうお腹すいてるの? 摩利華ちゃんのお腹はブラックホールなの?」
🌸 🌸 🌸
摩利華と別れた舞桜は一組の教室の入り口の前に立っている。
(こういうのは最初が肝心だよね)
そんなことを考え、舞桜は入り口の扉を開いた。
「こんにちわかば~‼ 今日から一組でお世話になる、若葉舞桜っていいま~す‼」
舞桜は教室全体に響き渡るような大声で挨拶する。
時間ギリギリに来たこともあり、教室には既に生徒が揃っていた。だがその生徒たちは挨拶に応えることなく、なんなら舞桜を睨みつける生徒も散見された。
舞桜はそんな手痛い歓迎に、少々気落ちしていると、
「やあやあやあ。朝から元気じゃないか、舞桜」
と、そんな声がかかった。そこには、昨日知り合った紅奈が居た。
「紅奈ちゃーん! こんにちわかば~!」
知り合いが居てよほど嬉しかったのか、舞桜は紅奈と熱い抱擁を交わした。
「紅奈……その人、知り合いなのかな?」
よく見ると、紅奈の後ろに一人の少女が背中に隠れ、ひょっこりと顔を出していた。
烏の濡れ羽色の如くつやつやとした黒髪を首元で切り揃えたショートカット。長く伸びた前髪で右眼を隠している。美少年にも見える中性的な顔立ちをした、内気な印象を持つ少女だ。
「うむ! 昨日偶然知り合った若葉舞桜だ。零亜も仲よくしてやってくれ」
「……ふ、ふぅん」
黒髪の少女は、恥ずかしいのか舞桜に目を合わせようとはせず俯いている。
「こんにちわかば! 若葉舞桜だよ! よろしくね!」
「あ……えっと……黒鴉零亜(くろからすれいあ)です」
「こいつ我の幼馴染なのだが、極度の人見知りでな。零亜、戦巫女を目指すのならばいい加減治せ」
「ううう……恥ずかしいものは恥ずかしいんだよぉ……」
そんな幼馴染同士の微笑ましいやり取りを見つつ、
「なんだかタノワクなクラスの予感! このクラスで良かった!」
座席指定はないようで舞桜たちは適当な席に腰かける。
広さは学校の教室よりも一回りくらい大きく、前方の教卓には大きな黒板が設置されていて、その後ろに座席が展開されている。座席は三人掛けの机が横に三列、縦に五列の計十五台。映画館のように後ろに向かって一段ずつ床が高くなっていて、後ろの席からも前の様子がよく見える。
舞桜、紅奈、零亜の三人は一緒に、空いている後ろの座席を陣取った。
「おーい、静かにしろー」
凛とした声が教室に届くと、教室内に木刀を担いだ女性が入ってきた。
煌びやかな金髪のポニーテールが特徴的な、アラサーくらいのオトナな女。180cm程の長身で、豊満な胸を持っている。金色の着物を着飾っており、その胸をわざと見せているように、緩く着飾っている。妖艶な色気を醸し出している淑女だ。
金髪の女は教室にいる生徒を、ぐるりと一瞥し口を開いた。
「オレはこのクラスを受け持つ、皇煌紀(すめらぎきらめき)だ。オレの担当になっちまったのが運の尽きだな。今日から一年間、オメェらを徹底的にしごきまわす。覚悟しておけよ、ぼんくら共ォ!」
バァン! と木刀を地面に叩きつけた暴力的な音が教室に響き渡った。
余りの威圧に場が凍り付く。鬼、悪魔――煌紀という担当教諭を形容する言葉が生徒たちの頭に次々と浮かび上がる。
「まさか、あの皇煌紀氏に教えを乞うことができるなんて、僥倖この上ない」
紅奈一人だけが、恍惚とした目で煌紀を見つめていた。
「……紅奈ちゃんあの人のこと、知っているの?」
舞桜が紅奈にひそひそ声耳打ちする。
「あのお方は、年間魂魔討伐数最多記録を持っている戦巫女の鬼神こと皇煌紀殿だ。今はわけあって戦線を退いていると聞いたが、まさかこのようなところで会えるとは――」
ひそひそと会話していると、ズバンと何かが勢いよく飛んできた。
木刀だ。木刀が舞桜と紅奈の目の前を通過し、後ろの壁に勢いよく突き刺さっていた。
「オメェら、オレの目の前でコショコショ話たぁ、いい度胸じゃねえかよぉ‼」
((さ、逆らったら殺される……))
まだ魂魔とすら戦っていないのに、二人は死の恐怖をいち早く体験したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます