第2話 フェンリルとビーフシチュー(前)


20**年12月**日(水)


 翌日。早速裏山探索へ!






 行かない。図書館に再び来た。

 いや、普通に考えてなにも調べずにまだ見ぬよくわからない存在「魔物」がいるかもしれない山?に行くなんて危険が危ない。

 いやまあ真裏にそんな山がある時点でこの家も大概だろうけど。


 少し調べると裏の山は「魔物領」らしい。

 別世界日本(もうめんどくさいのでこれ以降はニポンって名付ける。)は1つの国家ではあるものの、主に言葉を喋る人間寄りの種族(人間、獣人)の住む「人間領」と上級魔物をはじめとした魔物、動物の住む「魔物領」に別れるらしい。


 それがニポンだけならず、世界各地にバラバラと点在してるらしい。

 その境には強力な結界が張られていて、基本的には関所的なところからしか行き来出来ないらしい。


「ほーんならあそこに家があってもまあ危険ではないのかー。それにしても結界かー。挿し絵見る感じだと緑色に淡く光ってるみたいだけど、家の裏にそんなの無かったけどな。」


 基本的に相互間の行き来は自由だし、両者の関係も友好的だが、その領内でなにがあっても責任は取れないとか。要は反人間派の人に殺されても知りませんよ~ってことだ。なので魔物領に入る人族は、基本的に両者を繋ぐことの出来る上級魔物の案内人(?)を頼むなり雇うなりして魔物領へ行くらしい。


「ほらやっぱり危険じゃん!迂闊に入らないで良かった!」

 目玉が飛び出るかと思うくらい目を見開き、大声を出したここは図書館。


「あ、ごめんなさい。」

 赤面し本を戻し早足で図書館を後にする。


ーーー


「てことらしいよーラルさん。」

 家に帰ってきて外で話す1人と"2"匹。


〔そーなんだー〕

『そうだぞ。そんなことも知らんのか。稀有な存在よのう。』

「ごめんなさいね~こっちの人間じゃないからね~」

〔なあタニグチ。〕

『ほう、こっちとは?』

「あーなんかラル蔵君と玄関のドア開けると元の世界とは別の世界に繋がってそれがここって…」

〔なあ!〕


 渓口の腕に噛みつく。勿論甘噛みだ。


「ハイ、ナンデショウ。」

 涙目でラルさんに返事する。勿論噛まれたから涙目な訳ではない。


〔だれ!〕

「わ、わたすもわからん…でも話し聞いてくれるからきっと良い犬さんだと思う…少し大きいけど…助けてラルさん…」

 プルプル震えてラル蔵に助けを乞う渓口。


〔えぇ…タニグチかっこわるい……〕

 1人と1匹のイチャイチャを横目に謎の薄汚い白いモフモフ…多分犬形の魔物?が口を開く。


『そう怖がりなさんな。ワシはリルじゃ。』

「〔リル……〕」

 名前を聞いて1人と1匹「マジか」と思った。思っただけ。顔には出てないはず。多分。


『なにがじゃ。』

「んじゃこっちも自己紹介するよ。俺は渓口。んでこっちが…」

〔ラル!〕

「"ラル蔵"ね。まあ本犬はラルのほうが気に入ってるみたいd…」

 言い終わる前に興奮したリルが被せてくる。


『おお!一文字違いか!こりゃなんかあるな!』

 無いです。あなたと会うの今日がはじめてです。何かあったら怖いです。


「ところでリルさん。あなたって人の言葉喋るし上級魔物…ってやつですか?」

『人間の間ではそう言われてるな。あと敬称つけんでええ。敬語もやめい。』

「んじゃ遠慮なく。リル、もう1つ質問。なんで結界の外にいるの」

 そう。今話してる場所は家の横の芝生。本来魔物がいるのはおかしくは無いけどどっちにしろここは(多分)この家の土地。勝手に入ってきてるのに変わりはない。


『簡単な話よ、結界をこうひょいッと。』

「ひょいっと?」

『パリんと。』

「パリんと!?」

『壊した。』

「はぁぁぁぁぁぁ??????」

 造作もない。朝飯前と言わんばかりに鼻を鳴らす目の前のでっかい犬。


『大丈夫じゃ、ワシぐらい強くならんと壊せんしほれ、そこから入ってきたがもう塞がっとる。』

「ほれって言われても見えないし。」

『なんじゃお主魔力持ってるのに見えんのか』

「いや持ってない…と思うけど。」

『そりゃ気付いとらんだけじゃ。ほれ。』

 ほれ、の掛け声で体が吹っ飛ぶ。リルに肉球パンチ(強)を食らった様子。


〔ガルルルルル…〕

 ラルは臨戦態勢でリルに挑む…が前脚で頭を抑えられてなにも出来てない。かわいい。


「このバカ犬!いってー……くないね。なんで?」

 何故か痛くない。普通に体のいろんな所骨折しててもおかしくないと思ったけど。


『バカとはなんだバカとは!あとワシは犬じゃないぞ!お主の魔力を引き出してやったんだぞ!痛くないのは魔力を消費して無意識のうちにクッションを作ったからじゃの。』

 フンッ!と鼻を鳴らして目の前のデカイ犬が説明する。


「魔法って普通の人は使えないんじゃないの?調べたら血筋がどうとかそんな感じの事書かれてたけど。」

『血筋じゃなくとも使えるやつは使えるぞ。ただ高度な魔法…例えば空飛んだり強力な魔法は賢者…人間領だと魔法使いか…そう言う職業につけるような血筋じゃなきゃ使えないってだけじゃ。さっきみたいな簡単な防御の他に、小さい火球とか水をチョロチョロ出すとかなら一般人でも出来るじゃろ。それよりほれ、後ろ見てみ。』

 そう言われ背後の山の方を見てみる。


「なるほどね…誰でも魔法使いになれるって訳ではないのね。おー、これが結界ってやつ?」

 目の前に現れたのは緑の膜のようなもの…本物見たこと無いけどオーロラみたいな感じ…これが結界なのか。


「本当だ。どこも穴空いてないや。」

〔ラルはねーまえからみえてたよー〕

「そうなの!?」

 やっぱりラルさんは魔物なのか?


『それにしてもお前さん面白い体の構造しとるな。』

「?」

『普通魔力は体を循環しとるもんじゃ。その存在に気づいてなくてもそう言うもんじゃ。それなのにタニグチ、お前さんは左の胸辺りに貯まっておったぞ。』

「左胸…」

『なにか心当たりがありそうじゃの。』

「んー。あるね。これしかないでしょって思えるとっておきのやつ。」


ーーー


 渓口は病気の事、左の肺を取り出してること、余命宣告されてること、残りの人生はやりたい事をやること、この世界の人じゃない?こと、ラルさんがこの世界で喋り始めたこと…厳密には俺がラルの言ってることを理解出来るようになったこと等々…自分の身に起こったことを話した。自分でもなんで話そうと思ったのか不思議だが、リルには全部話した。


『なるほどのう。不思議なこともあるもんじゃな。』

 ガッハッハと笑い冗談交じりにリルは言う。

 結界も壊せるくらい強いリルですら核心的なことは知らない様子。


「んでさ、相談なんだけどさ"やりたい事"第一弾としてね、この裏の山に入ってみようと思うんだよね。」

『なぜじゃ?面白いもんなんてなんもないぞ?魔物くらいしかおらんぞ。』

「だからだよね。見たこと無いから気になるって言うかー」

『じゃが1人…ラル含めても1人と1匹で入るのは頂けん…あーそう言うことか。ワシに案内人をしろと。』

「察しが良くて助かりますわリルの兄貴~仲良くなったついでにお願いしますよ~ご飯おごっちゃうから~」

『まあ別に構わんが…美味しいのを頼むぞ。』

 意外と乗り気だぞこの犬。


〔ラルも食べるー〕

「山から帰ってからねー。リルもそれで良い?」

〔はーい〕

『後払いかい。』

「残念ながら今食料が無くてね。それにリルって魔物と言えど犬っぽいし食べれないものとかあるでしょ?」

『いや、嫌いなものはあるが基本的に食べれないものは無いぞ。それとタニグチ、ワシは犬じゃないわ、そろそろ泣くぞ良いのか?』

 あらなにこの子、かわいい。リルに浮気しそう。てか犬じゃないならなに?狼とか?狼ってこんなに人懐っこいのか?いや、喋れるから対等な関係が成立してるだけか?


「魔物って皆が皆なんでも食べれるのか?」

『知らん。少なくともフェンリルは食べれないものはないと思うぞ。』

「へー、ってあんたフェンリルなのか。あっリルってフェン"リル"から取ってんのか…」

『そうだぞ、ワシは崇高なフェンリルであるぞ』

 誇り高そうに「フンッ!」と音が聴こえそうな鼻息を鳴らしてるけど…


「いやまあ確かにでかいしそんな気もしてはいたけど…その……なんと言うか……輝きが感じられないと言うか…」

言葉を濁す渓口。


〔きたない!〕

 ズバッと容赦なく言うラル蔵。流石人間換算5才児。


『んなっ…』

「うん。もう言っちゃったから言うけど薄汚れてるよ…」

 そう、このフェンリル(仮)、汚れてる。真っ白なイメージのフェンリルだけどなんか…くすんでる。


『水が嫌いなんじゃ!』

「おお、思ったより正直。プライド高そうだし簡単には折れなさそうと思ってたから意外。」

『水の冷たい感じが嫌なんじゃ…』

「お湯なら良いのか。なら風呂入ってくー?多分狭いだろうけど」

『暖かいのか?それなら入るぞ!』

 と言うとボン!と煙が立ち、リルが煙に飲み込まれていった。

 煙から出てきたのはラル蔵(ゴールデンレトリバー・成犬)より少し大きいくらいの白い汚犬。


「ワーオ小さくなった。魔法かなんかか。もうなにも驚かないわ。」

『ワシはフェンリルだぞ、こんくらいお茶の子さいさいだぞ』

「さっきまではおじいちゃんって感じだったけどこの大きさならラルのお兄ちゃんって感じだな。」

『ラルは何才なんだ?』

〔なんさいなんだー?〕

「えっとな。次の3月で7才。」

『なんだ。あんまり変わらんじゃないか。ワシは産まれて10年じゃ。』

「(そのしゃべり方とあの大きさで10才なの…?待てよ、10才ってことは、もしかしてまだ物をよく知らないのかな。リルの親?に会えればこの不思議現象のこともわかるかも?)フェンリルの割にめちゃくちゃ若いな。それじゃこれからよろしく頼むよお兄ちゃん?」

『兄貴分か!良いのう!よろしく頼むぞ!』

〔よろしくーだぞーおにいちゃん〕

 そう言って家の中に愛犬と汚犬を連れ込んだ。


ーーー


「なんで怒られてるかわかるかな"おにいちゃん"?」

『えっと、湯浴み場で縮小魔法が解けてタニグチを吹っ飛ばしたからです…』

 耳をペタンとして下を向いて威厳もなにもないフェンリルのリル(10)がそこにはいた。


「最初に確認したよね?途中で魔法解除されたりしないよね?って」

『はい…その…湯浴みが気持ち良くてつい気が抜けてしまったのだ…』

「言い訳無用です。」

『………』

 そう、このフェン公、あろうことか風呂場で水を切る動作…ブルブルをした途端に、縮小魔法が解けたのだ。


 そのお陰で風呂場は色々散乱して、自分は思いっきり吹っ飛ばされた。幸い、ミートテック装備してる屈強(笑)な体なので大きな怪我はなかったから良かった。


「なんか言うことは?」

『面目ない…』

「…よし、この話は終わり!」

『もういいのか?』

「要は魔法解けたのは不本意だったんでしょ?それじゃ事故だし…なにが悪いのかわかって謝れたならそれでおしまい。ただし次は無いからね…?」

 そんなこと言ったけど多分本気でやりあうってなったら自分が100%負けるだろうけど。


『かたじけない…』

 突然大きい犬が現れてめちゃくちゃびびったけど、最終的にこの世界で新しい友達?仲間?が出来たしまあいっかな!


~~~



20**年12月**日(水)


 リルと出会ってから一週間後、この日、遂に裏山へと踏み込むのだ。

 この一週間色々準備した。"日本"に戻ってホームセンターで着火剤とかコップとか十徳ナイフとか寝袋とか…言ってしまえばキャンプ用品を買ってみた。長居する訳じゃないから必要最低限ではあるけど買ってみた。寝袋は何かあったときのために一応ね。

 "どうせ死ぬし経済がどうなろうと自分には関係ないし"と言ってたものの、未だに"ニポン"ではお金を使ってない。何かあっても嫌だし。


ーーー


 準備はなにも探索のためだけじゃない。探索終了後のご飯についてもだ。

 リルに食べたいものを聞いたところ『茶色いトロッとした液体で中に牛の肉や芋や人参が入ったやつ。あと玉ねぎも入ってたな。あれを食べたいぞ。』とのこと。ビーフシチューかな?地味にめんどくさいもの頼むなよ。

 てか魔物さんそんなの食べれるんだ…それともフェンリルだから?てかそんなの食べさせたら大変だろなぁ。口回りが。なにか食べてるところをまだ見たこと無いけどシチューでベッタベタになるだろ。まあそのあと風呂にぶちこめばいっか。


ーーー


20**年12月**日(火)


 時は少し遡り探索前日。

 食材を買ってきた。デミグラス缶と牛肉とじゃがいもと玉ねぎとニンジンをそれなりの量。

 誰も手の込んだものを作るとは言ってない。料理を作ることは好きだ。だからってめんどくさい行程が好きな訳じゃない。


「そんじゃ始めますか~」



 まずは材料を切ってく。じゃがいもは角切り、人参は乱切り、玉ねぎはくし切り。牛肉も少し大きい一口大に適当にカット。



「リルにはかぶりつけるくらいの大きさの方が良かったのかな。まあ切っちゃったしもう遅いか。」

 アハハーと笑う渓口。



 牛肉を圧力鍋に入れて加圧。柔らかくしてく。

 その間にもう1つ鍋を出して玉ねぎを炒めてく。飴色玉ねぎを作ってく。最初は強火で、しんなりして薄く茶色がかってきたら中~弱火に。途中途中で水を少量入れて鍋にくっついた焦げを落としながら炒めてくと割と短時間で終わる。

 玉ねぎを炒め終わったら取り出してそのままミキサーへin。少量の水を加えてペースト状になるまでぶん回す。玉ねぎペーストの完成。

 鍋の方は洗わずに、油を引き直してじゃがいもと人参を炒めてく。火入れはこの後煮込むときにするので、この時はあくまで焼き色をつけてくだけ。面倒ならこの行程は飛ばして良いかも。飛ばす場合は少量の水を入れて鍋の焦げをこそいで玉ねぎと一緒にミキサーへ。

 色付け終わったら取り出して鍋を洗う。これくらいで圧力鍋の牛肉も良い具合になってるだろうから圧力鍋の圧力を抜いてく。圧力が抜けたら牛肉を救出。

 洗った鍋に玉ねぎペースト、じゃがいも、にんじん、圧力をかけた牛肉と赤ワインを投入。煮込んでく。

 灰汁が出てきたらそれをすくって、デミグラス缶と調味料を入れて煮込む。



「あとは煮込むだけ~疲れた~…そこで何してるんですかラルさん。」

 匂いに釣られてか、少し離れたところでよだれ垂らして尻尾降ってお座りしてるのはラル蔵君。


「残念だけどこれは今日のご飯じゃないのよ。それにこれはラル蔵食べれんのよ。」

〔ハッハッハッ…クゥーン……〕

 全てを理解していじけるラルさん。んーかわいい。


「安心し~ちゃんと別で作るから~」

 勿論、ラル用に小さくカットしたじゃがいもと人参、牛肉に塩をほんのり使い、水で煮込んだ薄味のスープみたいな物を作る予定だ。

 シチューは作るのに時間かかるからね。前日に仕込んどかないと。


〔ワン!ハッハッハッハッ…〕

 自分の分もあるとわかり、再び尻尾を降り上機嫌なラルさん。かわいい。


ーーー


 再び戻って探索当日。


「そんじゃ今日はよろしく頼むよ~重いだろうけど乗せてくれてありがと~」

 リルに股がり礼を言う。


『うむ、任せろ!あと全然重くないぞ!』

 あらやだなにこの子、イケメン。違うイケワン…ワンじゃないか。イケフェン……


〔さんぽーしゅっぱつー!〕

「散歩…なのかな。まあいいや。所でどこから裏山入るの?」

『どこってそこからじゃ。』

 指差す(リルの場合脚で指す…なのかな)のは家の裏側。勿論、件の関所なんてない。


「え…まさかまた壊すのかよぉぉ!?!?

 こっちの事を考えずに走り出すリルとそれを楽しそうに追いかけるラル。それと風圧で死にかける渓口。


 絶許。


~~~


「あああああストップぅぅぅぅ!!!」

『なんじゃ。なにか忘れ物か?』

「いや、そうじゃなくて!速いって!死ぬかと思った!」

 ワシなんか間違ったことしたか?と言わんばかりのリルをポコスカ叩く。まあダメージなんて通るわけ無いけど。


『こうでもせんと結界割れんしのう…』

「関所って近くにないの…?」

『んー近くには無いのう。遠いぞ。』

「そこに行くにはどうしたら良いんだ?」

『電車とやらに乗って少し行ったところにあるらしいぞ。それかワシに乗って走るか?多分そっちの方が速いと思うが。まあ一番速いのはここをぶち破ることだが。』


 どうしよう。

 まず電車…こっちでお金使うの気が引けるし乗れないかな。そもそも犬二匹は乗れるのか?獣人が普通にいる世界だし、モフモフ専用車両みたいなのがあるんだろうか。あれ、ちょっと乗ってみたい…と思ったけど多分モフモフに痴漢して終わる。ギリギリで自制が効いてる。危ない危ない。

 次にリルに乗って走る。目立つ。却下。それにラルが置いてかれそう。


「となると…結界破るしかないのか…」

『お!破るのか!では行くぞ!』

「待て待て待て、そもそも結界破った所で捕まったりしないのか?器物損壊とかそんな感じので。そもそも同じ国内と言えど、性質が違う人間領と魔物領を行き来するのに密入国にならないの?」

『そこら辺は問題ないぞ。今まで捕まったことはないぞ。』

 渓口の難しそうな言葉の羅列(リル視点)にあっけらかんと答えるリル


「いや、捕まったことないとかじゃなくて捕まるか捕まらないか聞いてるんだけど…」

『………さあ?』

 これまたあっけらかんと答えるリル。10才だもんな。わからないかー。


 ちなみにこの後、リルの住み処に行く事になるが、そこにいるリルのお母さんに聞くと、結界を壊せる一部の上級魔物は、結界を壊したところで双方向に意図してない生物の流入がなければ、別に壊しても良いらしい。その分、壊した直後は穴が塞がるまで監視するのが壊した魔物の義務らしい。良かった。捕まらなそう。


〔ねーいかないのー?〕

 ラル蔵に催促される。キラキラした目で見ないでくれ。困る。


『ちなみに密入国にはならんぞ。相手領での保証がないってだけで基本行き来自由だからな。』

「…そっかー」

 渓口は考えるのをやめた。もうどうにでもなれ。最悪"日本"に逃げりゃ良い。


「結界って破ったらすぐ塞がるのか?」

『いんや、2~3分位は猶予あるぞ。』

「そしたらリルが先に破ってくれないか?そのあとそそくさと入るからさ。」

『心得たぞ。それじゃ早速…』

 目にも止まらぬ速さで結界に向かって突進してくリル。突進するとその周辺のみガラスのように結界が割れる。なんか悪いことした気分電気




「それじゃ行こっかラルさんや」

〔さんぽー!〕

 ラルさんはお気楽だなぁ。


ーーー


 結界の中に入り結界が閉じるのを見守る。


「なあこれって誰が治してんだ?それとも自動で治ってくのか?」

『賢者が管理・監視してて遠隔で治すらしいぞ。人間の世界で言う魔法使いじゃ。』

 ここでも出てくるのか魔法使い。本当に魔法使い一人勝ちだな。他の廃れた職業がかわいそうになってくる。

 そんな話をしてたら穴が塞がったのを確認。


『時に渓口、探索とは言うが、具体的に何がしたいんじゃ?』

「んーこれと言って決めてないんだよね。とりあえず体力の無い自分でも歩けそうな道に出て散歩とか?」

『そんなんでエエのか。』

「んまあ探索ってそんなもんじゃん?知らんけど。」

『知らんのか…』

〔はやくいこー〕

 ラルさんに急かされる。


「んじゃとりあえずラル蔵でも歩けるところを通って人でも歩けそうな道まで乗せてくれない?」

『わかったぞ』


ーーー


「おお、こんな広々した道があるのか。と言うか車が走れそうなくらい広い。」

『あれ、言ってなかったかの?ワシみたいな四足歩行は無理だが、上級魔物の中でも二足歩行する者ら…オークとかミノタウロスとかは車を運転するぞ。まあ魔物や動物が頻繁に飛び出してくるから、速く移動するため…と言うよりかはゆっくりでも良いから大量の荷物を運ぶためだがのう。』

 縮小魔法をかけて小さくなったリルが得意気に話す。

 それもそうか。一応は同じ国で人間領は"日本"と同等の文化水準なんだ。魔物領は遅れてると言うのもおかしな話だ。


『だからたまに車が通るから気を付けるのじゃ。』

「〔へーい〕」

 1人と1匹、揃って気の抜けた返事をする。


『して、どこか行きたい場所はあるのか?湖とか川とか集落とか。』

「集落かーやっぱり魔物の種類ごとに離れて暮らしてるのか?」

『そうじゃなーさっき言った二足歩行の上級魔物は街と言って差し支えない規模の集落を築いてるのう。ワシらみたいな動物に近い四足歩行の魔物や下級の魔物、動物は普通に森の中や洞窟に住んどる。』

「へ~。んじゃ質問ついでにも1つ質問。二足魔物見てから気になってんだけど、二足歩行の上級魔物と人間領に住んでる"獣人"は何が違うんだ?どちらも同じように見えるけど。」

『そうじゃなぁ…まず手足を見てみるのじゃ。獣人…は今ここにおらんからあれじゃが手足や関節の構造が人寄りなのじゃ。一方、二足魔物は手足や間接の構造が元の動物寄りなのじゃ。外見でわかる大きな違いはそんなとこかのう。その違いゆえに二足魔物は基本的には二足歩行じゃが、走るときは四足歩行じゃ。獣人は走るときも二足歩行じゃのう。』

 確かに…!言われてみれば!と納得する渓口。

 なに話してるかわからず、置いてきぼりを食らい、拗ね始めてるラル蔵。尊い。


「な~るほど。これまた似て全くの別物なのか。」

『そう言うことじゃ』

「はえ~ためになりましたわ~さすがフェンリル様~」

〔さま~〕

『おう!もっと讃えてもいいのじゃぞ?』

「はいはいすごいね~」

〔すごいー〕

 リルの調子に乗った感じに棒読みで返す1人と1匹。


『お主らなんとも思ってないだろ。』

「そんなことないよ~」

〔ないよー〕

『主とその飼い犬。似た者同士じゃな…』


ーーー


 山に入って3時間くらい経った。

 太陽が結構高いところに昇ってる。そろそろお昼時。多分。きっと。おそらく。maybe.


「そろそろお昼ごはんにしよっかー疲れたし」

『おお!昼飯か!何を食べさせてくれるんだ!?』

 おお…もらう気満々なんだ…いやまあ見越して作ってきたから良いけどさ。


「まずラルのね。はい。ドックフードカリカリ君。」

〔わーい〕

「待て、まだ食べちゃダメだよ。こっちの準備もするから。」

〔…………〕

 よだれをダバダバ垂らすリル。


「はい次にリルね。」

『おお!何を食べさせてくれるんだ!?!?早くしてくれ』

 こちらもよだれを滝のように流すリル

 やっぱり少しでかい犬だろこいつ。


「はいこれね。」

 そう言って取り出したのは至って普通のハムのサンドイッチ。


『おお、パンと薄い肉と葉と…この白いのはなんだ?』

「マヨネーズって言う生卵の黄身と油とワインビネガー…お酢って言う酸っぱい液体を混ぜたソースだな」

2匹の前にご飯の用意が出来た。


「ラル!お手!」

〔はい!〕

「おかわり」

〔ハッハッハッ…〕

「…………ヨシ!」

 いつものルーティンを終わらせOKの合図が出たその瞬間、目にも止まらぬ速さでがっつき始めるラル蔵。


〔ウマーーイ!〕

「あ、リルもどうぞ~」

『今のは何をしたんだ?ってうまいな!なんじゃこれ!?』

「あーなんて言えば良いんだろうな。まあごはん食べる前の準備体操みたいなもんだよ。」

『なあ!タニグチなんだこれ旨いぞ!』

 聞いといてこっちの話を聞いてないリルさん。


「それがマヨネーズの味だよ。って聞いてない…まあいっか…」

 そう言って青空の下、1人と2匹で昼ごはんを口に運ぶ。




 続く





小説家になろう投稿版#4~6を加筆修正して投稿。

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