死にかけ男と喋る犬のパラレルスローライフ(仮題)
ヤガチ
第1話 死にかけ男性と不思議な犬
この物語は1人の男が緩やかに死へ向かっていく物語。
20**年12月**日(月)
〖大変残念だけど余命1年…長く見積もって2年かなー〗
「そっかー。それって薬使っても伸びない感じ?」
先生からの気の抜けた宣告に、気の抜けた返事を返した。
〖伸びるっちゃ伸びるけど、また一日中吐き続けるし髪も抜けるよ。〗
「病院幽閉コースかー。それはやだなー。なんか無いー?良い方法。」
〖………〗
「あー難しい感じねー、もう病気になって7年経ってるししゃーなしか。ハハハ」
乾いた笑いで先生に言葉を掛ける。
〖…まああくまで"そのくらい"だからな。〗
「へーい。」
〖と、ここまでが医者としての見解ね。こっからは"良き友人"としての発言だ。〗
「…」
〖ぶっちゃけ気の持ちようだから。〗
「は?」
医者らしからぬその言葉に間抜けな声が出た。
〖いやね、この仕事してるから今まで何人も余命宣告して見送ってた訳よ。〗
「はあ…」
〖んでね、"生きるぞ~!"って前向きになってた人の多くは宣告より長く生きてたんだよね。〗
「…」
〖そんで逆に"生きる気力なんて無い…"て言う人は宣告まで持たなかった人がそれなりに居るんよ。〗
「"根性論"とか"努力すれば報われる"とかそう言うの嫌いだなー」
〖そうだな。言うなれば根性論。"医者"的には根性論とか言う、根も葉もないようなことで一喜一憂させたくないのね。でもね、"友人"としてはこういう事実もあるってことを少し考えといてほしいなって思ったわけよ。〗
「……なーるほーどねー…」
〖あ、そうだ、今度どっか出掛けるか。車出すから。〗
「お、いいね~」
〖こういう楽しみがあるのも生きる気力に繋がるもんさ。〗
「ありがとね~」
先生…こと、年が10も離れた友人の「ユージ」がかなり緩く宣告してるのは、なんか重大なことを宣告する時は、かしこまらずにいつも通り緩くお願い。と事前に言っといたからだ。
ーーー
「はえーそっかー死ぬんかー自分。」
そう言って自分の心情とは裏腹に、気持ちいいくらい真っ青な空のもと1ヶ月に一度の病院からの帰り道を歩く。
ーーー
そう言えば名前がまだでしたっすね。彼は「
あ、私ですか。天の声です。たまーーーに出てくると思います。
彼がかかったのは原発不明がんと言うとても珍しいがん。どういう癌なのかと言うと、元々あったであろう癌が転移して見つかったけど、どこから転移したのかわからない…と言う癌。
彼の場合は胸に出来たこれまたものすっっっごく珍しい…確率で言うと宝くじに当たるより低いとか言われる癌が肺付近に発症。なんだったら宝くじが当たってほしかったもんっすね。そんな癌を片方の肺と共に切除したものの、恐らく取りきれてなかった物がこの「原発不明がん」に繋がった…んだと思うっす。
"思う"と言うのは先生ですらちゃんとわからないからっす。それ故の「原発不明がん」ですから。
ーーー
先程から口に出す言葉は、どこか他人事と言うか…事態を軽く受け止めてると言うか…
「ん~死ぬんかー。でもなんか癌で死ぬのは嫌だなーなんか負けた気がする。いや理由がなんであれ、老衰以外で死んだ時点で負けてるような気もするけど。でも死ぬなら自分の意思で死にたいよね~てか死ぬなら異世界とか言ってみたいよね~なんかでっかいワンコとかネコとかと戯れてみたい…ってなに考えてんだろう。死ぬこと考えてるなんて余命宣告って思ったより精神的にダメージ来てるっぽいなぁ。こうならないために緩く宣告してもらったのになぁ。まあ体も心もまだまだ元気ではないけど元気だしだいじょー……」
横断歩道を渡ってたら横から突っ込んできますは2トントラック。
「あっ」
(終わったかも?)
ーーー
「終わってなかった。」
事故(未遂)の目撃者に消毒液やら絆創膏やらヌリヌリペタペタされながら、事故(未遂)現場で手当てされながらポツリと呟いた。
とりあえず結果から言うと死んでない。と言うか轢かれてない。ベタな導入は回避できたようだ。
直前まで「死」と言う考えをしてた割に、体は正直なようで、咄嗟に前に全力でジャンプーーはい、そこ、デブの割に俊敏じゃんとか言わないーーして赤信号を無視してきたトラックになんとか轢かれるのは免れた。ただ、コンクリートでスライディングしたようなもんなので擦り傷だらけ。
[どこ見てんだおめぇ!!]
とトラックの運転手は窓を開けて叫び散らすが
「赤信号で突っ込んできたのお前やろがい!」
と言い返したものの、そのまま運転していなくなってしまった。
「あ~あナンバーと会社名くらい控えとけば良かった。やっぱり人って肝心なときに冷静になれないもんだねー」
そんなことを手当てしてくれた方に呟き真っ青だったはずの空を見上げた。いつの間にか雨雲が立ち込めいつしか雨が降り始めた。頬を水が伝った。
ーーー
「…てことがあってさ~本当嫌になっちゃうよね~」
…と至って普通のゴールデンレトリバーの成犬「ラル
〔ワン!ハッハッハッハッ…〕
「おんめなんも考えてなさそうで羨ましいや…まあいいやご飯にしよっかね~」
"余命宣告"、"事故未遂"と言うイレギュラーなことが連続で起こったこんな日も、いつも通りお腹は空くし、いつも通りの時間が流れ、夜は終わってく。
ーーー
20**年12月**日(火)
ジリリリリリリリリリリリリ…
昔ながらの鐘を鳴らすタイプの目覚まし時計が朝6時の家に鳴り響く……と言うかあの音ってストレス貯まるよね……そんな時計を止めるのはもちろん渓口…ではなくラル蔵。
器用に時計を止めると、まだ渓口が寝てる布団にダイブ。そこから起きるまで馬乗りになり布団から出ている部位をひたすら舐め始める。
「う゛っ゛…ラルさんや…朝から激しすぎやしませんかね」
〔ハッハッハッハッハッハッハッハッ…〕
「ハイハイ起きますからどいてくださいな」
布団から出て散歩の用意をする。多少他の人より体力は落ちてても、片肺無いからと言って普段の生活が出来ないわけではないのです。さすがに長時間走ったりは厳しいけども。
ーーー
「さて準備出来ましたし行きますか」
〔ハッハッハッハッ…〕
と、玄関のドアノブを回した。
ガチャッと扉を開けて目の前に広がるのはいつもの風景……を鏡のように左右反転させた風景。
「……………ん?」
一度家の中に戻った。
さっきまで眠気もあったけど、流石に目が覚めた。
「なんかおかしくね?なにこの……なに?」
〔ハッハッハッハッハッハッハッハッ…〕
とりあえずもう一回出てみる…と言うか覗いてみることに。ドアノブを回す。
そこに広がるのはいつもの風景。もちろん反転なんてしてない。
「あれ?なんだったんだ…昨日のがまだ精神的にきつくて幻覚でも見たかな…」
〔ワン!ハッハッハッハッ…〕
「おっと、散歩行こか。」
そうラル蔵に語り掛けて、いつも通りの反転してない世界に歩を進めた。
「なんだったんだろう…」
ーーー
その日はなんにも手に付かなかった。余命宣告が一番の割合を占めてるけど、事故や今朝の謎空間もよくわからないしで仕事も休んで一日中ラル蔵をワシャワシャしてた。
「なんだと思いますーラル蔵さんや」
〔ワン…クゥーン……ワン!ハッハッハッハッ…〕
「答えてくれるわけ無いよな~でもやっぱりかわいいなお前はー!!!」
ワシャワシャワシャワシャとラル蔵をこねくり回す。
〔ワン!〕
「返事だけはイッチョマエだなぁ!…とそろそろ夕方だし散歩行こっかー……まただ。」
目の前に現れたのは反転したいつもの風景。再びドアを閉じ冷静に少し考える。
「なーんで!?2回目は流石に気のせいとか幻覚じゃないでしょ!?!?なぜ!?」
冷静になれるわけが無い。
〔ハッハッハックゥーンハッハッハッハッ…〕
えらく動揺してる主人を横にその場でくるくる廻るラル蔵君。動揺が伝染した様子。
「…ちょっと今日は散歩行かなくていいかな…?」
〔ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛…〕
くるくる廻るのを止め唸るラルさん。どうやら散歩は行かなきゃいけないみたい。
しょうがない。覚悟決めて扉を開けると…いつものnot反転世界。
「なんなんだよこれ…」
ーーー
「どう言うことなんだ…?」
散歩から帰り、風呂で考える。
「とりあえず何があったか羅列するか。」
・扉を開けたら反転した世界。
・扉の隙間から見た感じ、反転してるだけでこれと言って変わった感じはなさそう。
・人も普通に歩いてた。
・車も走ってた。けど右側通行になってたような?
・驚いて扉を閉めて再び開けると元の世界。
・昼間に扉を開けたときは回数関係なく至って普通の風景が広がってた。
「なーーーんもわからんね。知り合いに言っても信じてくれんだろうしどうしよう。」
その後も考えること1時間。
逆上せました。
ーーー
「ケッキョクナンモワカランカッタ」
逆上せて回らない頭で考えた結論がこれ。ダメだこりゃ。
「とにかく明日の朝、散歩に出る時考えよ。明日は明日の自分がなんとかするさ~」
ーーー
20**年12月**日(水)
ジリリリリリリリリリリリリ…
今日は流石に自分で目覚ましを止めて起きた。扉の謎が気になりすぎる。
「顔洗った!スースーするガム噛んでる!眠気ゼロ!よし行くぞ!…反転してますね~」
もう三度目だし驚かなくなった。
〔クゥーン…〕
ラル蔵も慣れた様子。
今回はすぐには閉めない。扉を全開にして見える範囲で周りの調査をしてみる。
ただ反転してるだけだと思ったけど、どうやら違う様子。元の世界では真横に隣接してた家がない。詳しく言うと5軒分くらい家がない。その分空き地…と言うか芝生が広がってる。柵の構造を見るに、ここも(別世界の)この家の敷地みたい。広い。羨ましい。
「よいしょと…」
玄関から覗くように家の裏側を見てみる。
驚くことに家の裏に山がある。勿論元の世界には無い。見える範囲だとそこまで高さは無いけど広大そうな雰囲気。
「なんか思ったより全然違う世界だね。」
〔クゥーン〕
相槌を打つように鼻を鳴らす。
緊張しつつも扉から一歩踏み出してみる。
「行ってみる?よくわからないけど。」
と、答えるはずもないラル蔵に語り掛ける。
〔いいよーいこー〕
答えた。
「じゃー行こか…はあああ!?!?」
聞こえるはずの無い人語に驚く。
「お前が喋ったの!?」
〔いつもしゃべってるよー、タニグチはしゃべってることむししてはなしてくるけどー〕
当たり前だと言わんばかりに話してくるのは他の誰でもない。やっぱりラル蔵である。意味がわからない。また謎が増えた。
あのあと家の中に戻り、また扉を開くと元の世界。ラル蔵も勿論喋らない。とりあえず散歩を済ませて家に帰宅。もうなにがなんだか…
ーーー
余命宣告から2日経った今日。散歩から帰ってきて着替えて会社へ。会社に退職届を叩きつけた。嘘。そんな勇気無いので下から下から申し訳なさそうに届を出した。
幸い養う家族はラル蔵だけだし、住んでる平屋の一軒家は引き継いだ持ち家。2年くらいならなんとかなるくらいの貯金もあるし、あとは好きなことだけしようかなと思ったのだ。足りなくなったら最悪バイトでもすれば良い。
「と言ったものの…好きなことかー。」
昔、病気になる前は、カメラやらドラムやら色々趣味にしてたけど、病気になってからは体力が落ちたこともあり、両方ともまともに出来なくなった。
それ以来これと言った趣味…と言うか"やりたいこと"が皆無なのである。
まあそのお陰で貯金も出来たけど。
片肺ごと腫瘍を取り、病気も緩解した…そんな折に飼い始めたのが不思議レトリバー(に昨日なってしまった)ラル蔵である。
「お前なんなんだよ~」ワシャワシャ
ラル蔵の顔をまさぐりながら話し掛ける。
ラル蔵はあれ以降喋らなくなった。いやそれが普通なんだけど。
〔クゥーン〕
鼻を鳴らし、だらしなくベロをだしてよだれ垂らしてるラル蔵君。
「昨日やっぱり喋ったよなラルさん。まだ信じられんのだけど」
〔ワンワン!ハッハッハッハッ…〕
「ハハハなんも考えてなさそうで羨まs」
言いかけたところで昨日のラル蔵の一言を思い出す。
(いつも喋ってるよー喋ってること無視して話してくるけどー)
「なんか喋ってるんだっけか。ラル蔵さんや。」
〔ワン!〕
「まあ考えたところで答え出ないし、今は趣味ラル蔵君ってことでいっか。」
と結論付けたところで
「……明日別世界行ってみるかーなんとなく行ける条件もわかったし。」
ーーー
20**年12月**日(木)
翌日。
「さーて。行ってみる?別世界。」
〔ワン!〕
「んじゃ行きますか。」
別世界に行ける条件。それは至ってシンプル。ラル蔵を連れていくこと。
「それじゃー早速…せーの!」
景色が反転してる。やっぱり条件はラル蔵みたいだ。
「そんじゃ出掛けてみるか~」
〔いこかー〕
「やっぱりこっちの世界来るとあんさんの言うことわかるようになるんだな~」
もう今さら驚かない。全てを受け入れましょう。ええ。
ーーー
余命宣告から4日、別世界の存在を知って3日目、やっと別世界の玄関の外へ。
ただ反転してるだけと思ってたこの世界も、家の裏に山があるなど違いがある…となると元の世界基準で出掛けると迷子になりそうなので、スマホの地図アプリを開く…が元の世界のデータのままで使えなさそうなので、とりあえずノートと書くものを持って出掛けてみる。
「で結局ここってなんなんだろう。パラレルワールドってやつなのかな。」
〔さぁ。どこだろねー〕
初めてだけど初めてじゃない、そんな風景を恐る恐る歩く渓口とは裏腹に、ワクワクなのかしっぽブンブンしてグイグイリードを引っ張るラル蔵さん。多分アニメとかだったら目がキラキラ輝いてると思う。そのくらいルンルンが隠せてない。
「あんまり引っ張んないでくださーい。迷子になる」
〔だいじょーぶだいじょーぶ。はないいからかえれるよー〕
「そっかー。いつも自堕落だけど腐ってもワンワンだもんな~お前。」
そう過信してノートにメモを取るのを止めて、ラル蔵の思うがままに進んだ。
そう、過信した。
ーーー
「つ゛か゛れ゛た゛~゛」
そう言ってソファーに倒れ込む。
結果から言うと似てるようで全然違う世界だった。
基本的には元世界が反転してる世界だと思ってたんだけど全然違った。
・町並みは家近辺の山、庭(?)を除いて、元世界そのまんまの風景を反転させた景色が広がってる→これはまあ想像通り。恐らく元世界と変わらずこちらも令和。
・文字は日本語、ただし反転してるからか横書きが右から始まる。→明治かな?大正かな?昭和初期かな?
・元世界から持ってきたお金も普通に使える…かもしれない。自販機で100円玉を入れたら認識した→そのあとレバー引いて手元に戻ってきたけどそのまま使ってたらどうなるんだろう…その…経済バランスとか崩れないの?まあ崩れようが知ったこっちゃないけど。
・魔法使い(?)が箒(?)で空飛んでた→早速想定外。この世界自力で空飛べるの?すご。
・それじゃファンタジーとかでよく居る剣士とかもいるのかなーと思ったけど散歩した限りだといなかった→まあ町中で剣ぶら下げてるの怖いよね。
・人形態の犬とか猫とか居た(よくファンタジーで出てくる獣人?みたいな)。周りの反応見るに、居るのが普通みたいだ→もふもふ毛並みの上から普通に服着てたけど…不快指数高そう。
・以前扉の隙間から見たのは気のせいではなく、車や電車が右側を走ってた。それどころか街行く人を見るに左利きが多い。右利きがマイナーっぽい?→元世界の海外は右通行とか左ハンドルとかになるけど、別世界海外も別世界日本とは逆なんだろか。少し気になる。
・元世界で知人の家があった場所に行ってみると、知人が住んでた。知人も元世界から来た自分を見てなんの違和感もなくコミュニケーションを取った→こっちの世界にも自分が居る?それじゃどこに住んでる?こっちに元渓(元世界の渓口。自分)がいる間、別渓(別世界の渓口)はどこへ…?
・別世界への扉を閉じたあともう一回開くと元世界に繋がる(恐らく)(要検証)。
・ラル蔵の鼻は役に立たない。迷子になった。2時間くらい彷徨った。
と、使わなかったノートに羅列していく。
以上のことから推測すると…
「不思議世界があるんだな~」
〔ワフ〕ベシッ
「いたっ」
ほんわか考えてたらラル蔵君怒りの鉄槌(肉球パンチ)が頭に炸裂。
家の中に入ったことで、再びワンワンしか言わなくなったラル蔵君だけど、流石に今のはどういう意図かわかった。言葉を交わせたからか、以前より何が言いたいのかなんとなくわかるようになった…気がする。
「まー猶予はあまりないけど、仕事辞めて時間はあるし少しずつあの扉の向こうのことも考えてみよっか~。あっちだとラルさんとコミュニケーションも今以上に取れるしね~」
〔ワォーン〕
(そだねー)と言ったような気がする。
「それに…あと2年だしやりたい事とことんやってみるかー」
~~~
20**年12月**日(月)
宣告から1週間。この日は"別世界"の図書館に来た。と言うのもここがどういう世界なのか調べに来た。
スマホが使い物になら無いこの世界、ネットカフェとかでも良かったんだけど、別世界で身分確認とかで仮に止められても厄介だから、そう言う心配がない図書館に来た。
ラル蔵には玄関まで来てもらって別世界への扉を開けてもらってからお留守番である。どうやら扉越しに1人と1匹が揃えば扉は開くらしい。検証中に間違えてこの状態に陥ったときは戻れないかもと肝を冷やした。
「…それにしても……」
歴史書を前に突っ伏す。
「読みづらい。縦書きはまだしも、横書きの文がすごい読みにくい。」
そう、縦書きは右上から左下に向かって読むので元世界と変わり無いが、問題は横書きである。横書きも右上から左下…要は元世界の昭和初期まで見られた書式なのだ。結構疲れる。
「てかそもそも嫌いなんだよな…本読むの。」
まさかの活字全否定。
「まあよくわからん言語じゃないだけマシかな…日本語以外からっきしだし。」
そう言って再び読み始める。
ーーー
図書館で調べた結果はこうだ。
・この世界には人の言葉を使う種族は「人族」「獣人族」そして「上級魔物」と呼ばれる動物の亜種の三種だそう。
・大昔に動物と人間が交わった結果、人の血が濃く残って二足歩行になったのが獣人、動物の血が濃く残ったのが後述する「上級魔物」らしい…
・動物も元世界と少し違う。
元世界に普通にいる「動物」と元世界で言うファンタジーゲームに出てくるような「魔物」とで区分されてるらしい。魔物はさらに人語を理解、使用する「上級魔物」とそれ以外の「下級魔物」とあるらしい。
「いや、本当に似てるようで全然違う世界だなこりゃ。」
ノートにまとめてたら上からよだれがポトり。
〔ハッハッハッハッ…〕
「あとはお前だよフシギーヌ!」
そう。てっきりこっちの動物は基本喋るもんだと思ってたけど、そう言うわけでもない様子。
ーなんでラル蔵は別世界限定で喋る?ー
別世界の常識で言うと、言葉を喋る動物は上級魔物に分類される。てことはラル蔵は上級魔物。
でも赤ちゃんの頃に知り合いから里親探しで貰い手がなかったから引き取った…つまりラル蔵の親が魔物だった?だとしてなんで元世界にいるんだよ。てか見た目はママ犬も目の前のラル蔵も普通のゴールデンレトリバーだけど…そもそもの話、なんであの扉は別世界に繋がってるんですか????
「ダメだ。あっちの世界知ろうとしたら謎がまた増えた。なんも解決してないよ。」
ーーー
夜になった。散歩から帰ってきて、すぐに家には入らず少しラル蔵とお話しすることに。折り畳みの椅子を広げて座り、ラル蔵を上に乗っけて引っ張り出してきた毛布で1人と1匹くるまる。
「ラルさんや。あんたって魔物なんですかい。」
〔まものってなにー?〕
「知らないか~」
〔しらないねー〕
「そっか~」
まあそんなもんだろうなと思ってた。だって赤ちゃんの時点で元世界にいたんだから。
「そしたら次の質問な」
〔はーい〕
「前からずっと喋ってたんでしょ?」
〔しゃべってたよー〕
「なに喋ってたの?」
〔あそんでーとか、おなかすいたーとか、あそんでーとか。〕
(おーさすが
「かわいいな~」
そう言いラルの体をワシャワシャする。
〔それいまいや〕
「エッ」
〔ワシャワシャいまいや〕
「あっ、ごめんなさい。」
突然の拒否ゴルさん発動につい敬語に。
「もしかして今までもワシャワシャしてたけど、たまに嫌な時とかあったの?」
〔ある〕
「……………」
〔さむいねー〕
「…中入るか。」
〔そだねー〕
椅子と毛布を畳んでラルさんと一緒に玄関に入る。
「寒かった~」
〔ワァンワウ。〕
「やっぱり家入っちゃうとなに言ってっかわかんないね」
〔クゥーン…〕
(家の中でも言ってることがわかれば良いのになぁ。)
いくらか言いたいことがわかるようになったと言っても、やっぱり話してくれた方が断然わかる。当たり前だ。
「風呂入って暖かくしてさっさと寝るかー!」
〔ワン!〕
~~~
20**年12月**日(火)
別世界の存在を知ってから1週間経ち、あっちの事もよくわかった(わかってない)し、そろそろこの2年で一番大事なこと"やりたい事"を考えてみることに。
「と言ってもなぁ…」
そう言って机に突っ伏すのは渓口(28)。それに馬乗りになるラル蔵君(6)。
〈前話でも突っ伏してたなお前。あ、どうも1話ぶりの天の声っす。どういう立ち位置かわからない?まあこのお話しの語り手…的なポジションの人だと思ってくださいっす。それにしても…どうしようもないっすね~この人は。2年とちょっとしか時間残ってないってのに。え?なんで残り時間がわかるかって?なんでっすかね~。まあとりあえずヒントあげてみましょ。ほい。〉
「〔!!!〕」
突然なにかが落ちた音に1人と1匹驚く。
音のした方を振り向くと本棚から数札の本やノートが落ちた。
「おーなんだ、いきなりギッチギチに仕舞ってあった本が落ちるって…この家まで遂に不思議ハウスになっちまったか~?もうなにが起ころうと今更驚かねーぞー」
そう言って本棚から落ちてきた…飛んで出た?本を元に戻す渓口の手に一冊のノート。ノートの表紙には「やりたい事ノート」と如何にもな名前が書かれてる。
「そう言えば癌なりたての頃にこんなの書いたな。結局ほとんど書かずに放置してたような気がする…」
ペラペラとめくると何個か"やりたい事"が書かれてた。
「旅ねぇ。料理ねぇ。作曲ねぇ……作曲?こんなん書いたっけ?」
ケラケラ笑いながら書いた記憶の有るような無いようなノートを捲ってく。
〔ハッハッハッハッ…〕
その横でよだれ垂らして覗き込むラルさん。
「冷たいです。よだれ垂れてます。私に垂れてます。」
そう言いながらティッシュに手を伸ばし、よだれを拭き取る。うん。獣臭い。
「旅かー。ラルさん飼い始めたからいつの間にか選択肢から外れてたんだよねー…いやね、ラルさんが悪い訳じゃないのよ。行こうと思えばペットホテルとかあるから行けるわけだし。」
そう言ってラルさんに弁明する。
〔ハッハッハッハッ…〕
(気にしてないでー)と言わんばかりに肩にポンと前脚で叩く。あらやだなにこの子、かわいい。
「そう言えばラルさんや、あなた文字わかるの…ってここで聞いてもわからんか。外行こっか。」
リードを持つとお出かけ(散歩)の合図。それをわかったように玄関へ走ってくラル蔵君。
ーーー
別世界の家の外に出て、再びさっきの事を聞いてみる。
「ラルさんはこれわかるの?」
持ってきたさっきのノートに書かれた文字を指して質問。
〔…?わかんなーい〕
「そっか~お話しできるだけなのね。」
〔そだねー〕
「そっか~」
そう言い手元のノートに目を落とした。
(やりたい事ねー…)
今度は青空が微かに見える曇り空を見上げて
「探そうと思うと見つからないよね~…」
〔なにがー?〕
「やりたい事。」
〔へー〕
「まあ、あんさんが居るだけでだいぶ充実してるしこのままのんびりダラダラ残りの時間すごしても良いんだけどね~」
〔さんぽいこー〕
「話が噛み合ってないな…マイペースだな…」
そんなのワシは知らんと言わんばかりにリードを引っ張り散歩に行こうとするラル蔵さん。
「えー雨降りそうだけど行くの?やだよー。てか元世界戻ってそっちで散歩しようよあっち晴れてたし。」
〔えーいいけど、あっちだとおはなしできないよー〕
「お話ししたいの?」
〔したーい〕
ああ、かわいい。尊い。そんなこと言われたら断るわけにいかない。
「んじゃ雨カッパ持ってくるから一回中入って~」
〔え゛っ゛あれいや!〕
拒否ゴル発動。会話はしたいけどカッパは着たくない。ワガママ放題だなあんた。
ーーー
結局散歩は別世界でお話ししながら、雨がポツポツ降ってきたら急いで家に帰る。と言うことにしたのだけど…
「まあいくら急いで帰ってこようと、ワシ体力無くて走れないしびっしょびしょになるよね。」
1人と1匹、帰宅後風呂場へ直行。まずはラル蔵のお風呂タイム。
「こう言う時意志疎通出来れば結構楽なんだけどなぁ。窓開けとけばワンチャン喋れたりしない?犬だけに。なんつって(笑)」
ちょい寒いけど窓を開けてみる。
〔おもしろくないよ〕
「うわ喋った!」
これアリなのか。
「喋ってる…けど寒いよね。どこかお痒いところございますか~」
〔無いよー〕
「はーいじゃあ窓閉めまーす。あ、そうだ。ブルブルするの合図するまで待ってね!?あれでこっちに水飛んでくるの地味に嫌なの。」
〔わかったー〕
ラルの返事を待って窓を閉める。
〔ワンッ!ワンッ!〕
「はいはい。じゃあお湯流すよ~」
ーーー
それから一旦待避したあと、ラル蔵渾身のブルブルをしてもらって水を飛ばしタオルで吹いてドライヤーで乾かして…で次は自分の番。
1人の時間になって考えることはやっぱり"やりたい事"。
「なんだろなーやりたい事って。」
湯気でモクモクの浴室の天井を見上げる。
「………」
〈小さいことからでいんじゃないっすかー〉
「え、なに今の声。誰?」
突然の知らない声に戸惑う。
「……まあいっか。小さいことからね~…そう言えば家の裏の山少し気になるんだよね。どっかに遊歩道みたいなのあるのかな。有るなら行ってみるの良いかも。」
ザバッ!と音を立てて浴槽から立ち上がる。
「裏の山に行ってみよう!」
ーーー
「てことで裏の山に行ってみることにします!」
〔ワフッ!?〕
「まあ準備とか色々してからね。」
〔ワフゥ…ワン!〕
「うん。わからん。あ、窓開けてみれば良いのか。」
窓を開けた。
〔ワン!ワン!〕
「あれ?」
さっきの要領で聞こえるようになるかと思ったけどそんなこと無かった。さっきはなんで聞こえたんだろう?
湯冷めするのも良くないし、窓を閉めた。
「まあなにが言いたいのかは明日教えてよ。今外出たら湯冷めしちゃうでしょ。」
〔クゥーン…〕
「さてと、夜ごはんにしますか」
〔!!ワン!ハッハッハッハッ…〕
なんか言いたげな感じだったけどご飯の話をしたら機嫌が治ったみたい。そこまで重要なことではなかったのかな?
こうして今日も何気ない1日が終わってく。
1年経過まで
あと356日。
2年経過まで
あと721日。
小説家になろう投稿版#1~3を加筆修正して投稿。
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