第23話 暴・走・収・束!

「喝ッ!」

「ぬぉ!?」

「グゥゥゥ!」


 しかしいきなり猛々しい叫び声と共に、とてつもない重力が全体に襲い掛かり、俺とフォンは強制的に地面に押されていく。

 俺は突然のことに驚き、フォンは呻き声を上げる。

 イッ、一体何事だ!? いきなり重力が強くなったような感覚だぞ?

 そう思っていると、上から荒々しい笑い声が辺りに響く。


「ハッハッハ! 何やら騒がしいと思っていたら、まさかこんな事になっているなんてな!」


 俺はそんな笑い声を聞きつつ、何とか見上げる。

 そこにいたのは紅い頭髪に獅子のようにフサフサな髭がある褐色大男であった。

 誰だ? もしかして教員なのか?

 そう思っていると、フォンは褐色大男を睨みながら叫ぶ。


「貴様は……豪傑獅子、レグルス・G・アドルフ。何故だ……なぜ貴様のような馬鹿がここにいるのだ!」


 フォンの叫びを聞いた者は一斉に驚きだす。


「レグルス・G・アドルフって、暴走事象スタンピードを一晩で収め、何体の天魔を倒したあの!?」

「マジかよ、俺あの大英雄初めて見たぞ!」

「ウソでしょ……?」


 受験生たちは褐色大男もといレグルスを見ながら驚き、俺も内心驚いていた。

 まさか大英雄に会えるとは思いもしなかったけど、何でここにいるんだ?

 俺はてっきり戦場にいるかと思っていたぞ?

 そんな疑問を抱えていると、レグルスは大らかな笑い声を上げながら答える。


「ハッハッハ! 実は姉上からソロモン学園の理事長を頼まれたのだ!」

「「エェェェ!?」」

「ハァァァァ!?」


 レグルスから放たれた言葉に、フォンを除いた全員が驚き、フォンは訳が分からずに叫ぶ。

 ハァ!? 本当に一体全体どういうことだよ! というか笑いながら言うものじゃねぇぞ!

 訳が分からずにこんがらがってしまうが、フォンはレグルスに向けて睨みながら叫ぶ。


「ふざけるな! あのトンチキ女がー!」


 フォンはそう叫びながら必死に抗おうとする。

 しかしレグルスは右手に魔力を纏わせ、フォンの首筋を向けてつぶやく。


「絶……」

「ガッ!」


 そう呟いて振り下ろし、魔力の塊がフォンの首筋にぶつかり、フォンはそう言うと気絶した。

 それと同時に体が軽くなり、肩を回しながら息を吐く。

 ふぅ、ようやく重力場が解除されたけど、とてつもない重量だったな。

 肉体全強化を発動していなかったからけど、体の全体にとてつもない重量がのしかかってきたからな。

 そう思いながら体をほぐしていると、レグルスはこっちにやってきながら謝る。


「すまんな、一応こいつが何かしようとしていたから、うっかり一緒に押さえつけてしまったな」


 レグルスはそう笑いながら言うが、こっちはマジで全身筋肉痛になりそうだからな?

 あれは本当に気が緩んでいたら、最悪地面に押しつぶされたかと思っていたぞ。

 俺はそう思いながら体をほぐしていく。

 すると奥から頑丈な鎧を着た兵士たちが来て、気絶しているフォンをどこかに運んでいく。

 あれは地下牢とかに運ばれてそうだな。

 そう思っていると、レグルスはこの場にいる受験生たちに向けて言う。


「一応、脱出試験は迷路の壁を破壊していけない。だが今回はフォンの暴走が起こしたため、この件は無しとさせておく」


 俺はそれを聞いてホッと胸をなでおろす。

 ホッ、緊急事態だったから仕方なくやっていたが、お咎め無しになった事は正直安心したぞ。

 そう思いながら少し辺りを見渡す。

 そしたらエステルとリザが安心し合っていた。

 マァ、俺だけ破壊していたとはいえ、ぶち抜いた穴を使っていたから、お咎め無しになったことが嬉しいんだろう。

 そう思っていると、次は治療箱を持つ白衣の集団がやってきた。

 多分、脱出試験か屍骨鬼スケルトン軍団のケガ人を治療するためにやってきたのだろう。

 そう思いながら多少治療を受け、受験生全員の治療を終えれば、レグルスが今後の予定を言う。


「この後は教員たちで合格者について話し合い、明後日で発表する予定だ。それでは解散!」


 それを聞いた受験生たちは一斉に、この場から解散していく。

 ようやく終わったな。俺も宿に帰って明後日の合格発表を待っておくか。

 そう思いながら、俺もこの場から去ろうとする。

 しかしレグルスは俺の肩を掴んで言う。


「おっと、ルイ・アークだったか? お前は少し話したいことがあるが良いか?」

「アッ、わかりました」


 俺はそれを聞いて、首をかしげながら答える。

 どうして俺だけ呼ばれたのだろうか? もしかして、迷路の壁をぶち抜いたことか?

 呼ばれた理由を考えつつレグルスの後をついていく。

 そうしてエステルとリザを含めた受験生たちから離れると、突然レグルスが俺に向けて貫き手を放つ。

 俺はそれに気づき、瞬時に肉体全強化を発動して回避する。

 しかし反応するのが遅かったから、頬に少し切り傷ができた。

 攻撃を避けなかったなら……想像しただけでも冷や汗が止まらない。

 俺は額から出て冷や汗をぬぐい、いきなり攻撃してきたレグルスを睨みながら叫ぶ。


「いきなりなりするんですか! 下手すれば死ぬかもしれませんでしたよ?」


 俺はそう叫ぶが、レグルスは貫き手を避けたことに感心して言う。


「ほぅ、とっさの判断と身体能力。やはり興味深いな、と言うものは……!」

「ナッ……!?」


 レグルスの言葉に、俺はあ然と固まってしまう。

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