30. 演奏中おっぱいリズムもみもみ

 暗い部屋の片隅で、三人のフードを目深く被った人物の影が揺れる。


「とうとう、あの恐ろしい魔王が蘇ってしまったというのか?」

「このままでは、いくら勇者が覚醒していたとしても、

 我々人類の勝利は絶望的だ……」

「ならばいっそのこと、我が国も『魔王バホメット』の軍門に下るしかあるまい」


 なあ、俺はいつまでこの三文芝居を見ていればいいんだ?


「ぐわははは! 今度の学園祭で我がオカルト部も演劇を披露するのだ!」

「なんで演劇の内容が魔王側が活躍する内容なんだよ!」


 『我がオカルト部』というが、おまえの物じゃないし、そもそもおまえはここの生徒ですらないだろ。

 俺は部室のカーテンを開けた。

 放課後の部室に日が差し込み明るくなる。


「これどうせアホメットが脚本書いたんだろ?

 ルーコもスミレも律儀に付き合わなくていいぞ」


 3人ともフードを外す。


「でもアホ副部長の脚本は興味深い。

 妙に悪魔の描写にリアリティがあるというか」


 スミレ、そりゃ悪魔本人が脚本を書いているからな。

 おまえの討伐すべき悪魔が。


——ガラッ


「やっぱりみんなここにいたんだ」

「お、エレイン! と、レモンも一緒か。オカルト部に来るなんて珍しいな」

「うん、実は学園祭でバンドをやりたいなって思ってね。

 メンバーを探しているんだよ」

「また何かに影響されたのか? おまえ昔からそうだよな」

「そ、そういうことは言わないでよ」

「なぬ! バンドだと? あの、歌ったり演奏したり?」


 なぜか興味津々なアホメット。


「我もやりたいぞ!」

「演劇はどうするんだよ」

「あの、脚本は興味深かったけど、内容は舞台でやるには破綻している」


 スミレの説明によると、地割れが起きて人々が飲み込まれ、空には雷鳴と邪悪な竜が飛び、巨大な悪魔の城が出現する内容だという。

 うん、無茶だ。

 スミレは無茶を知りつつも、アホ部長に付き合って演劇をやっていたのか……?


「わたしも、バンドやってみたいわ」


 ルーコもスミレと同じく無茶を知りつつ付き合っていたクチだな。


「じゃ、みんなもあーしたちと一緒にやるってことで!

 ガールズバンド結成っしょ!」

「ん? ガールズバンド?」

「そうそう! やってみたかったんだよ〜!」

「つまり俺は、蚊帳の外か……」

「あっ」

「いやいや、いいよ気を使わなくて。

 そもそも俺はそんなにバンドに興味なかったし、見学しているよ」


 もともとやる気はなかったとはいえ、最初から人数に含まれていないと思うとちょっと切ない。


「で、みんな何の楽器演奏できる? あーしはバイオリンかな!」

「わたしは、木琴あたりをやりたいわ」

「あたしはフルートだよ!」

「わたしはオルガンかな」

「我は……楽器やったことない……」


 しょぼくれるアホメット。


「ぐぬぬ、悪魔たる我が悪魔の道具を使えぬとは……」


 と思いきや、しかめっ面して何かボソボソ言っているな。 


「アホちゃん、カスタネットとか、タンバリンとか初心者におすすめだよ!

 はい、これ!」

「これか!

 このタンバリンってやつ、叩くとシャラシャラ音がして楽しいな」

「早速、音楽室を借りて楽器に触れてみようよ!」

「おー!」



 ◆ ◆ ◆



 借りれなかった。

 音楽系の部活が優先して使用するらしい。そりゃそうだ。


「うーん、早くも暗礁に乗り上げたぁ〜」

「ここではどう? オカルト部で練習」

「ここは防音じゃないぞ?」

「ならばこうすればどう?」


 そう言ってルーコが立ち上がり、両手を広げる。


「影よ、この部屋の音の気配を隠蔽せよ! ハイドンシーク!」

「えっどういうこと?」

「この部屋の音の気配を消したわ。子供の遊ぶ声や、馬車の中での音と同じ。

 音が聞こえていても、意識を向けなければ、気にならなくなる」

「何でもありだな、ハイドンシーク」

「流石に何でもじゃないわ。気配を消す技の応用。

 研究して練習して、可能性を広げたわ」

「大きな音でも平気ってこと?」

「音の気配を消しただけだから、小さな音でやるに越したことはないわ」


 面々は再び音楽室へ行き、楽器を借りてくる。

 俺はオルガンを運ばされた……台車を借りたけど、重過ぎるだろこれ。


「早速どれかの曲やってみようよ!」

「これとか、簡単そう」


 いくつか曲を試すうち、すぐに気が付く。


「あーしたち、ボーカルいない……」

「あたしはフルートだから、歌えないよ!」

「あーしもバイオリン弾きながらとか、無理っしょ」

「わたし、歌うのは無理だわ。そんなに声、出せない」

「わたしも」

「ぐはははは! じゃあ我しかいないな!」


 しかし。


「アホ! おまえ楽譜読めないのかよ! 音程めちゃくちゃ過ぎるだろ!」

「ぐおお……おのれ人間んん!」


 あまりにも歌うことへの基礎がなっていない。

 これは一朝一夕ではどうにもならなそうだぞ?


「困ったわね」

「誰か、歌える人を探す?」

「あっ」


 スミレが何かを思いついたように俺の方を見る。


「わたし、声のプロに心当たりあるかもしれない。声質もいい感じの人」


 だから、なんでそれで俺の方を見るんだ? 俺は歌わないぞ!


「あの、ナレーションの人」


 誰それ? ナレーション?

 あっ! 『おっぱい揉んだらレベルアップ』スキルのナレーション担当か!

 え? あれに歌わせるつもりか?


「ナレーションの……名前わからないな。おい、アナウン子!」


《ぴー! なんでしょうか、マスター》


「この前の、ナレーションの声のやつと話せるか?」


《もちろんです。交代します》

《ピンポンパンポーン! お呼びでしょうか》


「おい、ナレーションのおまえ……呼びにくいな。ちょっと待ってくれ」


 ナレーションの子だから、ナレーショ子か? ちょっと言いにくいな。

 ナレーション子……を、短くして、そうだ!


「よし、お前の名前は『ナレション子』だ!」


《わ、わたくしにも名前を付けてくれるんですね! うれしいです!》


「で、ナレション子、おまえ歌ってできるのか?」


《できるはずです。やったことはありませんが》


「これ、歌えるか?」


 楽譜と歌詞を見せ……ようとしたが、姿がないのに、どこに向かって見せればいいんだ?


《マスターが歌詞を黙読してくれれば、その情報が共有されます》


 ああ、俺が目で見ればいいのか?


《こんな感じですか? 

 『なみだをこらえて〜♪ またねと手をふる〜♪

 おいかけたつきあかり〜♪』》


 う、うまい!?


「え、上手! 声も素敵!」

「え〜! いい感じっしょ!」

「なあナレション子! バンドに出てみないか?」


《そ、それは……アナウン子お姉様も一緒に歌ってくれるなら、考えます》

《ぴー! わたくしも! アナウン子も、バンドやりたいです!》


 この二人、結構性格が違うのか?

 アナウン子はビーチバレーのときといい、絶対に目立ちたがりだろ。

 ウレション子は、この間まで存在を隠していたくらいだから、逆に引きこもり系なのかな。


「じゃ、二人ともボーカルってことで」

「わあー!」



 ◆ ◆ ◆



「ちょっとエレインが早過ぎるわ……」

「今のは、レモンが早いわ……」

「今度は二人とも遅過ぎるわ……」


 練習が始まったのだが、エレインとレモンのリズムが合わない。

 木琴のルーコは正確にリズムが刻めているな。

 アホメットとスミレもタイミングは悪くない。

 やはり打楽器よりバイオリンやフルートの方が合わせにくいのか?


「うーん、難しいね」

「初日だし、練習重ねていくしかないっしょ」

「そうだね! うまくリズムを合わせる方法、見つけていこ!」

「あっ」


 思い出したように声を上げるスミレ。


「わたし、リズムを伝えるのが上手な人に心当たりある」


 スミレが俺の方を見る。なんだ?

 というか、さっきもこんな感じの流れあったな。


「アナウン子とナレション子以外は知らないぞ?」

「違う。あなた自身。わたしのリズムを、正確にアホ副部長に伝えていた」

「そんなことあったか?」

「林間学校で、アホ副部長を助けた時……」


 んん? 何かしたっけ?

 たしか、スミレのおっぱいに顔をはさんで、かおぱふのタイミングで同時にアホメットのおっぱいを揉んだ……!


「あっ、あれか!」


 スミレは唯一、かおぱふでタイミングを伝える側と、おっぱい揉まれてタイミングを伝えられる側を経験している。

 そのため、俺が正確にリズムを刻めることを体感していたのだろう。


 スミレがみんなに方法を説明している。


「ちょっとまて。あの方法はないだろ」

「たしかに、いくらなんでも、その方法は……」


 レモン、そうだよなあ、常識的に考えれば。


「やろうよ! 少しでも上達したいし、可能性があるならやるべきだよ!」


 妙にやる気のエレイン。


「あたし、ぜったいにこのガールズバンドを成功させたいんだよ!」


 ああ、何に影響されたのか知らないけどスポ根のノリが出て来ている。


「エレっちがそこまで言うのなら……」


 レモン、折れるの早過ぎる!


「俺は普通に練習した方がいいと思うのだが」

「だめだよ! 学園祭まで練習時間は限られているんだよ!」

「だから普通に練習した方が——モゴッ!?」


 椅子に座っている俺の太ももにまたがり、レモンがおっぱいを顔に押し付けてきた。

 両頬にレモンのおっぱいの感触が!


「ひとりはこんな感じだったっしょ?」

「もうひとりは、ここにこうだよね?」


——ふにっ


 この両手の感触は、エレインのおっぱい!


「その状態で、ふたりとも楽器を演奏して」


——キィ〜♪


 スミレの合図で、レモンがバイオリンを構えた気配がする。


「まって、バイオリンを持ったままじゃ、かおぱふできない」

「それなら、わたしがレモンのおっぱいでリズムをとるわ」


——ぷにっ


 背中に、ルーコのおっぱいの感触が!?

 そうか、ルーコは俺の後ろから手を伸ばして、レモンのおっぱいをつかもうとしたんだな。

 自分のおっぱいが俺の背中に当たっていることには気がついているのか?


「じゃ、始めるわ」


——ぷにぽよっ


 前から顔にレモンのおっぱいの感触。

 後ろから背中にルーコのおっぱいの感触。

 いまだっ!


——ふにっ


 エレインのおっぱいを優しく揉む。

 両手にエレインのおっぱいの感触。


——キィ〜♪

——ぷひょっ♪


 変なフルートの音が聞こえた。


「大丈夫、タイミングは合っていたわ。

 今は音程よりリズムを合わせることを意識した方がいいと思う。

 次は、連続でやってみるわ」


——ぷにぽよっ、ぷにぽよっ、ぷにぽよっ


 ぐぬぬ、やわらかい。

 いや、俺はおっぱいを意識してはダメだ。

 俺は無になる……俺は道具だ。楽器だ。

 俺は人間メトロノーム!

 タイミングを伝えるだけの道具なんだ!


——ふにっ、ふにっ、ふにっ


——キィぷひょ♪ キィぷひょ♪ キィぷひょ♪


「いい感じ! もう一度、最初から」


 そういえば、スミレたちの時と違って両腕をクロスさせていないんだがどうなるんだ?


——ぷにぽよっ、ぷにぽよっ、ぷにぽよっ、ぷにぽよっ

——ふにっ、ふにっ、ふにっ、ふにっ

——キィぷひょ♪ キィぷひょ♪ キィぷひょ♪ キィぷひょ♪


「すごい、あっという間にリズムが合うようになったわ」

「よ、よかったぁ〜! じゃ、続きは普通に練習しよう!」

「ふう、この体制ちょっとキツかったっしょ!」


 や、やっと解放された。


《ぴー! 36回、かおぱふモミモミを確認しました。

 攻撃力、体力、魔力をそれぞれ36レベルアップします》


 わけのわからない体制でのおっぱいに包囲網で俺の気分は下がったが、ステータスは色々上がったのだった。


「じゃ、オパール!

 またタイミングがずれた時はお願いね?」


 え、えええー!?

 人間メトロノームは、もうこりごりだよ〜!


————

次回、さすがに本番演奏中には揉みません!

お楽しもみに!

————

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