38話
「……一体、どういう事なんだ? どうして解毒が出来たんだ?」
「いやぁ……それが、私にも何がなんだか……」
ミラーナと念の為、医者を連れて戻って来たビリアスだったが部屋に入ってすぐ元気なコルディニアの姿を見て、数分は固まっていた。それから、少しして正気に戻ると念の為にと医者に診せたが、あんなにも苦しんでいたのが嘘のように元気そのものです、という結果。
そこで前世で見た刑事ドラマの警察の事情聴取かのように、兄と向かい合ってラビルは質問攻めをされていた。答えたいのは山々だがラビル自身も無我夢中であの時の記憶は曖昧なので、答えようがない。
それを察したらしいビリアスが小さく息を吐く。どうやら、質問攻めは無意味と悟って諦めたようだ。
すると、別室で医者に診てもらっていたコルディニアと、付き添いでついて行っていたミラーナが戻ってくる。
「それで、どうだったんだ?」
「うん、どこも問題なし。本当に毒なんて飲んだのってくらいには元気だそうよ」
医者の診断を代わりに告げるミラーナに一安心はするものの、ビリアスの表情は晴れない。無事で良かったと同じくらいの疑問が出てきたからだ。
「……ミラーナ。治癒術、というのは使った形跡とか残るものなのか?」
「え? えぇ。弱い術なら難しいけど、今回みたいに命を失うレベルの大掛かりな治癒となると、ある程度は残ってると思うわ」
「そうか。じゃあ、コルディニアの痕跡を見て欲しい。……ラビルの気配を感じるかどうか」
その言葉にミラーナは驚いてラビルを見る。その視線にどうしたらいいか分からず、曖昧に笑い返した。
戸惑いながらも、少しごめんなさいねと言ってミラーナがコルディニアとわたしを並んで立たせ、その前にそっと両手をかざす。
一瞬、あの時のような眩い光が放たれてすぐに霧散する。
「……え。これって……」
「どうだったんだ?」
ビリアスがすぐミラーナの近くに駆け寄ってくる。
「間違いなく治癒術を使われた形跡があったわ。それと……」
「……それと?」
言うべきか言わないべきか、少しばかり視線を逡巡させてから、ついに弱々しく口を開く。
「その、確かに形跡があったわ。……ラビルちゃんの」
結果を聞く前から、ある程度の想定はしていたのかビリアスはただ、静かにそうか、と頷くのみだった。
ミラーナの話によると、治癒術の形跡から察するにわたしの治癒術はミラーナと同等か。もしくはそれ以上の可能性もあるとの事だった。
それに関してはさすがの兄も予想をしていなかったようで、ミラーナの話を聞いて驚いていた。ちなみに当の本人であるわたしは兄以上の驚きで開いた口が塞がらなかった。
「参ったな。この事が王家に漏れたら面倒な事になる」
「あぁ、それなら大丈夫ですよ。ラビル様は僕の婚約者になりましたから」
にっこりとそれはもう満面の笑顔で宣言するコルディニア。
「……今、なんと?」
「はい。ラビル様は今日から僕の婚約者です」
「なっ! ラビル、本当なのか!?」
すごい迫力で詰められると言葉が咄嗟に言葉が出てこなくて、代わりにこくこくと頷く。
「でも、ラビルちゃん……あなた、トーイの事が」
「そういう訳ですから、実はもう遣いを父上の所に出しているんです。明日にはミラーナさんとの婚約破棄が完了すると思いますよ」
ミラーナの言葉に被せるようにコルディニアが発した言葉に今度はラビルも驚く番だった。
「え!? それはお兄ちゃん達が戻ってからの話じゃなかったの!?」
「善は急げって言いますから。でも、これでラビル様が望んでいた通りビリアス様とミラーナさんは幸せになれますよ?」
「そ、それはそうだけど……」
ビリアス達には聞こえないように顔を寄せてコルディニアと小声でやり取りをする。その姿が仲が良いように見えたようだ。
「少しの間でそんな仲になったのか。それなら、俺も二人の婚約を祝福しないといけないな」
「え?」
「わぁ! ありがとうございます、ビリアス様! いえ……ビリアスお義兄様!」
「え? え??」
わたしの事なはずなのに、わたしが置き去りにされている状況にひたすら間抜けな声だけを上げてしまう。
妹を泣かせるなよと言う兄と、もちろんです! と自信満々に返すコルディニア。そんな二人とわたしを交互に見て困惑した表情を浮かべるミラーナという地獄絵図である。
確かにコルディニアの提案にわたしは乗った。それが今、わたしが出来る選択の中で最良だと思ったからだ。
だがしかし、この空気はなんだかおかしい。まるで本当に婚約でもしたかのようで。
「ちょ、ちょっとタイム! コルディ、こっち来て!」
「はい、なんですかー?」
「ね、ねぇ、婚約って一時的なものよね?」
もう本当の義兄弟になったかのように和気藹々とビリアスと談笑するコルディニアの腕を掴んで、また小声で作戦タイムを始める為に尋ねる。
すると、コルディニアは不思議そうな顔をしてすぐににっこりと笑顔になる。
その顔になんだか悪寒がした。
「一時的にしたいのであれば、頑張って優れた治癒術の使い手を探してくださいね。僕はこのまま、ラビル様と結婚したいので一切、協力はしませんので」
「は? それ、どういう意味……?」
頭の仲が真っ白になる。
目の前の男は何を言っているのか。というか、先ほどまでの純度100%な笑顔はどこへ行ったのだ。今の笑顔はどこかドス黒いものを感じる。
突然のコルディニアの変化に困惑や怒り、戸惑いといった様々な感情に苛まれている中、彼はそうそうと補足する。
「ちなみにミラーナさんが言うには、ラビル様は今の所、国一番の治癒術の使い手だそうなので婚約破棄はほぼ難しいとは思いますけど」
「………………えええええええ!?!!!?」
ラビルの叫び声が屋敷中に響き渡るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
色々、父上と話さないといけないから一旦、王家に帰るねーとコルディニアは元気に帰って行った。
帰り際にまたね、マイハニーと語尾にハートが見えるような感じで言われてわたしの顔は引き攣っていたが。というか、そもそも彼はあんなキャラだったのだろうか……。
今、思い返してみるとトーイから聞いたメインキャラはあくまで四家門の後継者達だけで、王太子殿下の話は出ていなかったのを思い出す。トーイの性格的に話し忘れたというのは考えにくい。
方法は分からないが、ミラーナと王太子殿下との婚約は破棄されて四家門の後継者の誰かと結ばれる結末であって王太子は途中で出番が無くなるものだと考えた方が筋が通るのだ。
途中で出番が無くなる、という事は存在が居なくなる……そこでふと、思い浮かぶ。
うちの屋敷内で起きた王太子の暗殺未遂事件、もしかしたらあれが原因でコルディニアが命を落としていたのだとしたら?
(もしかして……わたしが、ストーリーを大きく変化させちゃった……?)
そんな仮説が思い浮かんでしまい、ラビルはくらりと目眩がした。
それでも、目の前で死にかけている人を放っておくなど出来るはずもない。もし、時を戻せる方法があったとしてもラビルは同じ行動をするだろう。
だからといって、このままは非常にまずい。
昨夜、コルディニアが帰った後にミラーナにも念の為、確認したが確かにラビルは国一番の治癒術の使い手だと思うと申し訳なさそうに告げられてしまった。
ミラーナは何も悪くないのに、何度もごめんねと言われた。
もしかしたら、彼女は何かを察しているのかもしれない。
わたしが決めた事だからミラーナさんは何も悪くないんだから謝らないでと伝えれば、少し安心したようだった。
なんとかコルディニアとの婚約は破棄したいが、ビリアスとミラーナが結婚するまでは下手に動かない方が良いだろう。コルディニアはともかく、皇帝陛下は優れた治癒術の使い手を欲しているから、わたしが婚約破棄となればまたミラーナを欲するに違いない。
不本意ではあったけど、少しの期間はコルディニアの策に乗るのが賢明なのかもしれないと結論づけたところで、ドアがノックされた。
「俺だ。少し話してもいいか?」
「あ、うん。どうぞー」
返事のすぐ後にガチャリとドアを開けてビリアスとミラーナが入ってくる。
「あ、ミラーナさんと一緒って事は正式に婚約する報告だったり?」
茶化して言ったつもりだったけど、二人は顔を見合わせて微笑む。
「……あぁ。先ほど王家から婚約破棄の通知が来たから、さっき婚約の申請をして来たんだ」
「一番にラビルちゃんに報告したいなと思ったの」
ラビルの目の前で幸せそうな笑顔を浮かべる二人に自分の事のように嬉しくなる。
前世では想いを重ねられなかった二人が、ようやく結ばれる日が来たのだと。
「お兄ちゃん、ミラーナさん! おめでとう! うぅ、もう本当におめでとう~!!!」
「あぁ、ありがとう。ラビル」
「ふふ、ありがとう。ラビルちゃん」
二人に飛び込むように突撃すると優しく受け止めてくれる手があまりに優しくて、今までの色々な感情が込み上げてきてしまい、わたしは気が付いたら涙がぼろぼろと溢れていた。そんなわたしの頭を兄が撫でてくれて、ミラーナは優しく背中を撫でてくれた。
なんとしても二人の婚約の邪魔をさせる訳にはいかない。
しかし、それは自分の首を絞めるのと直結しているのでどうしたものかと内心で頭を抱えるのだった。
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