21話
いざ扉越しにミラーナが居ると思うと、何故か急に緊張してきてしまった。年上の貴族相手にすら怯まず、意見を正面から伝えるビリアスが。
(……たかが少し変わっていると噂の令嬢相手に、俺はどうしてこんなに緊張しているんだ。馬鹿らしい)
内心では悪態を吐くものの、ドアノブに手を回すまで時間を要してしまった。意を決して軽い深呼吸を終えてから、ついにドアを開けた。
「え……?」
「あ……!」
ちょうど用意させた紅茶を飲もうとしていたのか、ビリアスが入室した事に驚いたミラーナが驚いた拍子に紅茶をドレスの裾に溢したのが見えた。しかし、それよりもビリアスの視線を釘付けにしたのはミラーナの姿だった。
以前のお茶会ではタメ口で話せるまで仲良くなったんだよーと妹は言っていたので、素顔も妹にはもう見せているからか、噂で聞いた仮面の姿ではない。金の糸で紡がれたかのような美しい長髪に、海のような青の瞳と視線が重なるとビリアスは言葉を失う。それはミラーナも同じで二人はただ、見つめ合う。
ラビルを見ている時にも感じたナニかがハマる、という感覚ーー否。それ以上とも言えるかもしれないナニかをミラーナには感じた。
「失礼いたします。ビリアス様、お茶をお持ちしまーーみ、ミラーナ様!? お召し物が汚れております! すぐに替えの服を用意させます!」
小さなノックの後、ビリアスの分の飲み物を運んできたディセルはミラーナのドレスが汚れている事に気がつくと、飲み物をテーブルの上に置いてすぐに退室した。そのディセルの声でようやくハッと我に返ったビリアスは、気がつくのが遅れてすまないと謝罪する。
「あ、いえ! この程度、気になさらないでください!」
首をブンブンと振って気丈に振る舞うミラーナ。妹と仲良くなったとはいっても兄であるビリアスとはこれが初対面。敬語を使った話し方なのは当然なのだが……ビリアスは何故か、それに胃がムカムカした。
「そうか。それより、敬語はやめてくれ」
「え? で、ですが当主様に馴れ馴れしく話すのは……」
「妹とは普通に話すんだろ? なら、俺にもそうしてくれ」
「で、ですが」
「ビリアスでいい」
「あ、あの」
「ビリアスだ」
「……もう。分かったわ、ビリアス。私の事もミラーナって呼んでね」
「あぁ」
少しの押し問答の末、勝利を収めて満足げに笑うビリアスにミラーナもつられて笑う。その笑顔を見て心の奥のどこかが暖かくなるのを感じる。
「それで、ミラーナは急にどうしてうちに来たんだ?」
「あ! そうだ! ラビルちゃんは!? 体調を崩したって聞いて心配だったの!」
「ラビルなら元気だが?」
「え??」
ビリアスの回答にミラーナがキョトンと大きな瞳を丸くする。その姿が妹に似ていて、自然と頬が緩む。
「も、もしかして、私の勘違いだったり……?」
「あぁ、そうだな」
は、恥ずかしい……と頬を真っ赤にさせるミラーナ。その姿が愛らしいと思って、ビリアスはそんな思考回路になる自分自身に驚きを隠せない。
(……今まで、令嬢にこんな感情を抱いたことなんか無かったんだが……)
初めての感情に戸惑っていると、ドアがノックされる。
「お待たせいたしました。着替えの準備が整いました」
ドアの向こうからはディセルが呼んだであろうメイドの声がした。
「俺の事は気にしなくていいから、着替えてこい」
「でも……なんだか、申し訳ないよ」
「シュデリウス家はドレス一枚も用意出来ない家門だと言いたいのか?」
「ま、まさか! もう~! じゃあ、好意に甘えます! ありがとう!」
いまだに遠慮しようとするので冗談を言えば、やっと諦めたのかヤケクソ気味に礼を言ってミラーナがドアに向かって歩き出す。その姿を見守るつもりだったのだが、気付けばビリアスの視界は真っ暗になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます