セブンスター
しんや:よければなんやけどさ、俺と飲まん?
初めての食堂で桜をぼーっと眺めていたらスマホが鳴ってインスタのDMが表示される。あの授業の後、ひと際でかい体と声をしたあの男が声をかけてきて少しだけやりとりをしてる。というよりも、返さないと大学内でむやみに絡まれそうで最低限の会話にとどめている。彼が言った言葉にそれなりの相槌を打つだけの一対一対応の会話のラリーでよく誘えたなと思ったが、正直私は友達もできる気がしないし、今まで内気だった分大学では少しがんばってみようなんていう思いもあったりする。それに意外とこの人ちゃんと音楽が好きなのかもしれないと感じた。別に私は音楽に厳しいわけでもないし、この世のすべての人間がサブカルに分類される音楽を聴けという感じではない。ただ音楽は人の性格が出る気がする。ジャンルはまあ置いといて、大事なのはどのくらい探求するのかだと自分勝手にこだわりを持っている。よく流行りの曲しか聞いていないのにそのバンド好きですみたいな顔をしてる連中がいるが、やはり好きならどこまでも知ろうとするのがそのものへの愛情表現じゃないのかと思ってしまう。正直しんやの聞いてるアーティストはそんな流行りの渦中にいる売れっ子だけど、いつもこの人はそのアーティストの曲を投稿したり、ハイライトにはライブの写真がたくさんあった。こいつはガチだなと率直に思った。
「私でよければ、、、」
送られて二分くらいして、返信した。ちょっと経ってスマホが光る。
しんや:まじ!店予約しとくわ!
どんな服を着ていけばいいのだろうか。
「ごめん!おまたせ!」
「いいよいいよ!気にしん気にしん!」
少し前髪が乱れた私に彼は豪快に笑うように言った。夕焼けがふとしたら向こう側にいきそうな空の下で私たちは歩き始めた。
「ほんまにありがとう!」
道中彼は連呼するように言った。正直まともに会話するのはこれが初めてだし、まじでなんで了承したんだろうって気持ちが強い。沈黙がないように彼は頑張って話題を振ってくる。ここでDMみたいに一対一対応な会話をしてやってもいいんだが、もうここにいる以上、私は客やゲストではない。彼とここで良い社交の場を築く共演者なのだ。私も精一杯がんばる。彼のリアクションはいちいち大きい。最初見たときからちょっとバカなのかなと最低な私が見下してたけど、こういうときだと、いちいち愛想笑いを疑わなくていいから変に考えなくてもいい。
「まいちゃん?って意外としゃべるんだね」
「え?うそっ?」
ちょっと喋りすぎたのかもしれない。結構恥ずかしいな。ちゃんと会話の割合は半分半分じゃないと相手もいい気持ちしないよな。軌道修正するように私は口を開く。
「えっと……しんやくん?はさ、なんでこの大学入ったの?」
ありきたりすぎる質問だ。これ逆に気まずいのばれるじゃん。余計気を使わせてしまう。
「なんかここみんな強えらしいからなあ、だからかなあ」
「戦闘狂かよ!」
「え?」
ああ最悪。もっと慎重にいけばよかった。私はたまに空気を読めないときがある。楽しいときとか面白いときは余計そうなってしまう。気持ちが上がるとちょっと行き過ぎてしまうから、次第に人が離れてく。それに気づくのはそんなに遅くはなかった。やっぱり私、女だし、そういうおしとやかさがないと駄目だよね。どんどん気持ちが重くなっていく。彼にも失礼をしてしまった。早く帰りたい。
「いや別に戦いだけが生きがいじゃねえから!」
「やっぱ戦いたいんじゃん!」
私は案外彼と同じでちょっとバカなのかもしれない。気づけば居酒屋についていて、楽しく彼と話した。久々にこんなに話した気がする。彼の笑い声に私も釣られてしまう。初めてのお酒は苦かったけど、あんまり気にならなかった。
「あんまりおいしくない?じゃあ任せな」
「自分で飲むから飲まなくていいよ」
私がそう言うと彼はポケットから箱を出した。白っぽいパッケージに星がついている。タバコだ。彼はおもむろに火をつける。
「まずいものよりも気になるものがあったらまずくなくなるっしょ!」
「タバコ吸いたいだけじゃん!今度は料理がまずくなる!」
彼の釣られてしまう笑い声のリズムで出る白い煙は、私から見た彼の顔を、ところどころぼんやりさせた。相変わらず彼のリアクションはいちいち大きい。
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